My disc of the year 1995

RERELEASED DISC


 再発売ってのは、要するに「出しなおし」ってこと。録音がリマスタリングで良くなったり、安くなったり、カップリングが変わって長時間録音になったりとか、いろいろあるわけなんですが、その中から95年発売(と思われる)ディスクを選択。すでに定評のあるものが概して新しいものより安く手に入るわけだが、このシステムはクラシックでは超重要っすね。

RAVEL:Piano Concerto in G & Prokofiev:Piano Concerto No.3 / Argerich, Abbado & Berliner Philharmoniker
Deutsche Grammophon
ラヴェル/ピアノ協奏曲、プロコフィエフ/ピアノ協奏曲第3番 アルゲリッチ(p) アバド/ベルリン・フィル

 誰もが一度はハマる通過儀礼な名曲、ラヴェルのピアノ協奏曲。DGのOriginalsってことでウンと音質アップというウワサ、またまたクセになってしまいました。いわゆる名曲の名盤として知られる演奏で「あの頃、二人は若かった」路線なんですが、ウルトラ・スリリング。「むち」の一打で始まって、ジャズの要素を取り入れつつバスク的お祭り感覚と復調チックな仕掛けで眩暈を起こさせる怒濤の第1楽章、宇宙一美しい旋律を持つアダージョ(ピアノもコールアングレも泣けるんだ、これが)、再びバスク的(らしい)リズムでパーカッシヴかつノリノリでサーカス状態に陥れるプレストの第3楽章。泣けすぎる。うますぎる。まだ聴いてない? だったら正月開けたらショップに直行せよっ!

MAHLER:Symphony No.9 / Barbirolli & Berliner Philharmoniker
EMI(Toshiba EMI)
マーラー/交響曲第9番 バルビローリ/ベルリン・フィル

 国内盤で1700円になって最登場。バルビローリを敬愛したベルリン・フィルの団員たちが録音を希望したというヤツですね。今までプレ・カラヤン時代のマラ9として気には留めていたものの、機会なく遅まきながらゲット。こ、これはいい。頽廃の雰囲気もけだるい抒情も感動的。バーンスタインの粘りやカラヤンの耽美もいいんですが、本来ていねいに演奏したらこういうスケールなのかも。温厚な紳士のイメージが強いバルビローリだが、LD「アート・オヴ・コンダンクティング」のリハーサル風景を見ると、かなり厳しくてコワく、同じところを何度も弾かせたりする。衒いなき王道なんでせうか。録音の古さがなければ最強。

DEBUSSY / Samson Francois
EMI Classics
サンソン・フランソワ(p)/ドビュッシー

 人から聞いた話なんだが、フランソワってイギリスじゃ全然売れんらしい。某有名辞典を見ても記述が意外なほど少ないそうだ。ふーん、不思議。フランス人らしい(笑)洗練がないってことなんでしょうか。事情不明。で、ドビュッシーの録音を2枚にまとめて(どっちも70分以上収録)輸入盤で安く出たのでとびつく。一緒にラヴェルなんかも出ててそちらは先に入手済みってことで。内声部までギチっと音が詰まってますってな逞しさとか縁取りの濃さみたいなのがヤな人にはヤなのか? でも私大好きです。ラヴェルもショパンもドビュッシーも。若者につき(笑)リアルタイムで聴いてないのでどういう人かは実はあまり知らないんだが、没頭し切って弾くタイプと見た。近々、東芝EMIからフランソワのLDが出るそうなので、そちらを見て確認、と。

J.S.BACH:The Well-Tempered Clavier Book 1 / Joao Carlos Martins(p)
Labor Records
バッハ/平均律クラヴィーア曲集第1巻 ジョアン・カルロス・マーティンス(?)

 一つマイナーレーベルから自分でもよく分かってないアーティストの、でもやたら強烈に印象的なのを。まず、分かってるのはこれだけ。ブラジルはサンパウロ出身のバッハのスペシャリストみたいなピアニスト。20歳で「平均律」でアメリカ・デビュー。このCDは録音が81年なので、おそらく初CD化。名前の読み方がよくわかんなくて(ジョアン・カルロスと来たら、MartinesとかMartinezとかそんな感じできてほしいもんだがMartinsである)、困ったもんだが、グールドを遥かに越えるくらい個性的なバッハ。もうやりたい放題好き放題に弾きまくり(強弱の幅もたっぷり)様式ってもんを気持ちいいくらい無視してます(笑)。グールドは一見非バッハ的であっても本物の天才という説得力を持つ一方、Martinsは鬼才のようなんだけど実は底の浅い「ニセ者」だろうっていうフェイクな存在ぶりが現代的なんじゃないかと、逆説的に納得させられる。Labor Recordたってそんなの知らんという人も多いはずだけど、一時期HMVなんかに彼のバッハが一通り山積みになっていたので見てる人も多いはず。天才かニセ者かはさておき、この自由奔放ぶりは一聴の価値あり。

WAGNER:Showpieces / Szell & The Cleveland Orchestra
Sony Classical (Sony Records)
ワーグナー/管弦楽名曲集 セル/クリーヴランド管弦楽団

 95年はジョージ・セル没後25周年ということで国内盤ごっそり廉価化。で、ワーグナーは2枚あって前奏曲&序曲モノと「指環」モノ。どっちもいいっす。堕落しない、全然エロティックじゃないワーグナー。こいつはぜひともディスクマンかカーステレオでバリバリと響かせたい。コワ面の完全主義者の音楽を、お手軽にリスナーが消費するという、まさに聴衆が現代のパトロンであるという状況を反映した構図がナイス。引き締まりぶりが、冬向きの快感かも。



 「再発売」ってのは年間に無数に出てて、特にそこから選ぶってのも別段意味はなし。最強に強まったメモリアルな音楽たち、それで十分。新譜の項もあり。


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