CLASSICA [home]  
  Wonder Jukeな日々
ある日、そのオファーはやってきた。「クラシック音楽ネット配信サービスのディレクターをしてみませんか?」。Wonder Jukeクラシックで未開の地を切り開く(笑)、山尾敦史の奮戦記。ほぼ隔週更新連載中。



文=山尾敦史

 


連載第7回山尾、簡易録音の音質に驚く

 Wonder Juke Classicのナビゲーターでもある林田直樹さんと、CLASSICA ウェブマスターである飯尾さんのトーク、お聴きになりました? あのノリは言うなればミニFMのネット版、つまりまさにネットラジオなのだが、自分が仕事で懇意にさせていただいている方がメディアの中で対談をしているというのは、なかなかおもしろいものがある。そして、そういう情報発信が、ネット時代になってわりと容易にできるようになったことも事実。
 
 Wonder Juke Classicがライヴ(演奏会)音源として、オープン当初から東京フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会を配信してきたのは、ユーザーの方もしくはトライアルなどでコンテンツをご覧になった方ならご承知の通り。これにHakujuホールのコンサート(リクライニング・コンサート等の主催公演中心)が加わったのだが、さらにおもしろい試みとして(細々とだけれど)スタートさせたのが、Wonder Juke Classicのためだけにアーティストが演奏・録音してくれた、オンリーワンものの新コンテンツだ。その第1回目としてご登場いただくことになったのが、ピアニストの足立桃子さん。彼女の名前に記憶がある方の多くは、ウィーン・フィルやベルリン・フィルのプレイヤーたちと共演する室内楽コンサートを思い出すだろう。ライナー・ホーネックやエルンスト・オッテンザマー、ベルリン・フィルの首席クラリネット奏者であるヴェンツェル・フックスらとのコンサートも配信される予定だが、彼女は彼らの信頼を勝ち得た音楽上のパートナーなのである。またオペラ公演には欠かせないコレペティトゥールとしても超一流。今年もアルミンク指揮新日本フィルの「フィデリオ」など、着実に仕事をされている。
 
 その足立桃子さんがWonder Juke Classicに興味を持っていただいたせいで、オリジナル・レコーディングが実現することとなった。普通「レコーディング」といえば、バッチリとスタジオをおさえてディレクターやエンジニアを呼び、録音機材もプロユースのものを使うのが当たり前。しかし(あまりに現実的なことだが)そんなスタッフも機材も、用意する予算などはどこを掘り返してもあるわけがない。そこで、ものは試しとばかりに、元オーディオ専門誌の編集長を務めていた方のアドヴァイスをいただき、必要最小限の機材を、足立さんが普段使っている練習ルーム(別名:ご自宅)に運び込んだのである。
 その機材たるや、オーディオ・マニアや録音マニアの方なら、イスから3万回くらいずり落ちることだろう。簡単に書いてしまえば「マイク+DATウォークマン」という、総額10万円以下コース。マイクはRODEというメーカーの「NT4」というステレオ・コンデンサーマイク1本で、単一指向性の、生音をダイレクトに収録するのに最適という機種。「あのね、中学生のオーディオ・クラブじゃないんだからさ」という、半ば嘲笑にも聞こえる声を後目に、録音をしてみたわけだ。カラスの鳴き声に対抗しながら(足立さん談)。
 しかしその音と演奏を聴いて、予想を遙かに上回る結果に大口を開けたのは、誰あろうWonder Juke Classicのスタッフ全員である。使用機材とのギャップの大きさ、いやコスト・パフォーマンスの素晴らしさは言うことなし。もちろん、CD並みの音質というわけにはいかないし、総額100万円もするようなオーディオセットで再生すれば、かなりノイズの目立つものなのかもしれない。しかし、会員の方はぜひ一度、お聴きいただきたいのだが、マイクからDATウォークマンに直結したもので録音したと言っても、信じてもらえないのではないだろうか(録音したデータを、PROTOOLSで編集&マスタリングしているが)。
 
 いや、その音が素晴らしいというのは実のところ今回のメイン・テーマではないし、演奏も素晴らしいのは言うまでもないが、それとてこの連載の主旨ではない。ほんの少し前までは素人にとって高嶺の花だった「演奏をそれなりの音で録音する」ということが、ここまでローコストでできるという事実であり(オーケストラでマーラーを演奏するなんていうのは、また別の話ですよ)、これまではCDをリリースするなんていうことがひとつの目標というか夢だった音楽家たちにも、メディアの違いこそあれ多くの音楽ファンに演奏を聴いてもらうためのツールとして、ネット配信というのが現実味を帯びている……いや、手を伸ばせば届く環境が用意されているということなのだ。
 さて、この不敵なプロジェクト、次はどのアーティストにターゲットを絞っているのか……乞うご期待。

[次回につづく]


[Wonder Juke クラシックとは?]
So-netが提供するクラシック音楽の本格的ネット配信サービス。クラシックではかつてない本気度の高さだが、これでビジネスになるのかと業界関係者が固唾を飲んで注目中というウワサ。本格なので有料(毎月約700円で聴き放題)。

★体験版もあるので試すが吉>>Wonder Juke クラシック

◎バックナンバー
第6回山尾、ネット配信の認知度を考える
第5回
山尾、WJCユーザーの姿を見誤る
第4回
山尾、定番ラインナップ構築をあなどる
第3回
山尾、驚喜乱舞を経て大口を開ける
第2回
山尾、ワンダージュークのなんたるかを知る
第1回
山尾、ワンダージュークに出会う


[Wonder Juke NOW!] ■New!
1)ただいま、スペインの作曲家モンポウのピアノ曲とギター曲からピックアップした、約1時間のチャンネルを配信中。
2)「やっぱ名曲中の名曲はいいわ」と、会員の皆さんに大好評! ビギナーもマニアも楽しめる、交響曲の百花繚乱。
3)足立桃子・プレイズ・モーツァルト、R・シュトラウス……他。WJCでしか聴けないプライヴェート・レコーディング・シリーズ、スタート!

  >>HOME