March 26, 2004

「ボルヘスとわたし ― 自撰短篇集」 その2

ボルヘス。名声とともに緩慢な失明が訪れた●すまぬ、昨日に続いてもう一回だけボルヘスのことを。許せ。
●この「ボルヘスとわたし ― 自撰短篇集」(ちくま文庫)に収められた自伝風エッセイにはおもしろいエピソードがいくらでも含まれている(彼の短篇そのものと同じくらいに)。
●「名声を期待したこともなければ、追求したこともない」というボルヘスならではなのだが、物書きをやったり編集者をしたりしているうちに、彼も生活のために定職に就かなければならないことに気づいた。で、友人の紹介で物淋しい郊外の小さな図書館の「一等補佐員」とかいう地位を得る。「一等」というからには下に「二等」や「三等」があるのだが、それでもしょせん「補佐員」、上を見れば「一等」「二等」「三等図書館員」がいる! 月給は米ドルにして70~80。人は山のようにいるが、仕事らしい仕事はないという職場で、職員たちはサッカーの話題や猥談に興じてばかり。そんな場所でボルヘスは「濃厚な不幸の九年」を耐えた。
●と聞けば、なるほどボルヘスの下積み時代かと思うでしょ。ところが、この時点で彼はもう(図書館以外では)かなり有名な作家になっていたというのである。同僚の一人が百科事典の中に「ホルヘ・ルイス・ボルヘス」という名を見つけ、しかも生年月日まで「一等補佐員」のボルヘスと同じだというので不思議がっていたという。可笑しすぎる。
●この短篇集の中でワタシが特に気に入ったのは、「入り口の男」、「じゃま者」「二人の王様と二つの迷宮」。「めぐり合い」も傑作、これは「短刀に魂宿る」という古典的テーマを扱った名品で、「ブロディーの報告書」(白水Uブックス)にも所収されているのを、ずっと前に当欄でご紹介したことがある。

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