March 16, 2006

恐怖、ピピピピ男

ピピピピ●駅前のコーヒーショップに入って本を読んでいると、どこか遠くからアラーム音のようなものが聞こえてきた。安物の目覚まし時計にプリセットされている電子音。「ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ……」。この音がずっと鳴っていて止まないのである。店内は混雑しており、相当にうるさい。だから「ピピピピ」もかすかにしか聞こえないのだが、こういう音はアラームなんだからわざわざ気に障るようにできているわけで、無視するのは難しい(しかもわが家の目覚ましと同じ音だ)。
●「ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ……」。音は止まない。どこから聞こえてくるんだろう。心頭滅却、負けんぞワタシは、無視無視、本を読むぞ読むぞ読むぞ、無視、無視、無視、無視、無視、無視、ピピピピ、無視、ピピピピ、無視、ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、うわっ、ダメだ敵わん、頭の中にピピピピが侵食してくる! ええい、どこから聞こえてくるのだ、この音は!
●ピピピピ、ピピピピ……。ついにだれかが店員さんに苦情を伝えた。店員さんはなんとワタシの隣にいた客のほうに近づき、なにごとかを口にした。ピピピピ、ピピピピ。客は40歳前後の男性。ピピピピ。男は店員に無表情のまま応対し、曖昧に頷いた。ピピピピ。ペンを持って、ずっとテーブルの上の資料になにかを書き込んでいる。ピピピピ。ラフな服装だが、書類仕事をしているように見える。ピピピピ。店員が去ってもなお男はなにかを書いている。ピピピピ。一段落したのか、男はやっとズタ袋に手を突っ込んだ。ピ。袋の中でごそごそとなにかを操作すると、ピピピピは止まった。うおお、こんな近くで鳴っていたのか。あたりに静寂が訪れた。
●この間、男はまったくの無表情であった。「しまった」という表情も「すみません」という仕草も一切見せず、なにひとつ気にしていない。自分の持ち物のなかからアラーム音が鳴っている、そんなことをなぜ周囲が気にするのかまったく理解できないが、店員に言われたから音を止めた、そんな感じ。音を巡る環境について、たとえば無用かつ無神経なBGMを強制的に聴かされることを嘆く人々がいるが、そのような些細な問題をはるかに超越して、もはやアラーム音ですら気にならないという都市に適応しすぎた姿がここに。モートン・フェルドマンがどうとか言ってる場合じゃないぞこりゃ。ピピピピ。あっ、幻聴が。

Posted by iio at March 16, 2006 02:22 AM | TrackBack (0)

What's New! Archives
July 2006
June 2006
May 2006
April 2006
March 2006
February 2006
January 2006
December 2005
November 2005
October 2005
September 2005
August 2005
July 2005
June 2005
May 2005
April 2005
March 2005
February 2005
January 2005
December 2004
November 2004
October 2004
September 2004
August 2004
July 2004
June 2004
May 2004
April 2004
March 2004
February 2004
January 2004
December 2003
November 2003
October 2003
September 2003
August 2003
July 2003
June 2003
May 2003
April 2003
March 2003
February 2003
January 2003
December 2002
November 2002
October 2002
September 2002
August 2002
July 2002
June 2002
May 2002
April 2002
March 2002
February 2002
January 2002
July 2001