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Books: 2020年6月アーカイブ

June 2, 2020

「探偵コナン・ドイル」(ブラッドリー・ハーパー著/ハヤカワ・ミステリ)

●シャーロック・ホームズ・シリーズのパスティーシュとして出色の出来だと思ったのが、「探偵コナン・ドイル」(ブラッドリー・ハーパー著/ハヤカワ・ミステリ)。ホームズその人ではなく、ホームズの作者であるコナン・ドイルを主人公としたミステリなんである。主人公が実在の人物であるばかりか、犯人も主人公に協力する脇役まで実在の人物。なんと、犯人はあの切り裂きジャックだ。ホームズ・シリーズ第1弾の「緋色の研究」を発表したコナン・ドイルのもとに、前首相から連続殺人事件の捜査に協力してほしいという依頼が届く。おもしろいのはコナン・ドイルが務めるのがホームズ役ではなく、ワトソン役だということ。ドイルは恩師であるベル博士の協力を仰ぐ。ベル博士は異様に鋭い観察眼の持ち主で、ホームズのモデルとなった人物。つまり、ホームズのモデルとなった人物が、ここではホームズ役を務めるのだ。
●コナン・ドイルがホームズ・シリーズを書いていた時代と、切り裂きジャックの事件は実際に重なっている。そしてドイルがホームズ第1作を書いた後、次作を生み出すまでには4年の空白がある。そこにコナン・ドイル対切り裂きジャックという想像上の対決の物語が組み込まれる。切り裂きジャックのニュース記事などは本物が引用されているし、後年のドイルは本当に探偵の仕事にも携わっている。史実からフィクションを創造する手腕が抜群にうまい。
●クラシック音楽で切り裂きジャックといえば、ベルクのオペラ「ルル」。ベルクのオペラは1930年代の作品だが、原作となったヴェーデキントのルル2部作「地霊」「パンドラの箱」は1897年と1904年の作ということで、まだ1888年の切り裂きジャック事件は記憶に新しいところだったのだろう。もっともオペラのなかでの役どころは微妙に「とってつけた感」があって、なんでそこに切り裂きジャックが登場するのかという違和感はある。切り裂きジャックだって自分が端役として描かれることには納得しないだろう。

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