News: 2013年5月アーカイブ

May 30, 2013

ヴィオラスペース2013/パウル・ヒンデミット没後50年記念 FANTASY

ヴィオラスペース2013●29日はヴィオラスペース2013のコンサート'FANTASY'へ(石橋メモリアルホール)。今回、ヒンデミット没後50年記念ということでいくつも魅力的な公演があったんだけど、結局最後の一公演のみ足を運ぶことに。
●19時の公演の前に、18時15分から若いカルテットによるヒンデミットの弦楽四重奏曲全曲演奏シリーズの一公演があって、この日は第6番(クァルテット・レオニス)と第7番(エール弦楽四重奏団)が演奏された。これは貴重な機会。嬉しい。特に第7番は聴きごたえ大。このエール弦楽四重奏団、メンバーはヴァイオリン毛利文香、山根一仁(先日トッパンホールのエスポワールシリーズ記者会見で会った17歳の彼だ)、ヴィオラ田原綾子、チェロ上野通明。果敢な演奏が作品に命を吹き込んだ。てか、こんなに第2ヴァイオリンが「攻める」四重奏って。気持ちいい。
●時間が押して(開場時間からして遅れていた)本編は遅れて開演。バーバラ・ブントロック(va)のテレマン「12のファンタジー」第7番、サミュエル・ローズ(va)とジョエル・クロスニック(vc)によるヒンデミット「ヴィオラとチェロの二重奏曲」、ジュリアード弦楽四重奏団+今井信子のモーツァルト弦楽五重奏曲第5番、ヴィオラ4人(佐々木亮/岡さおり/市坪俊彦/菅沼準二)によるボーエン「4本のヴィオラのための幻想曲」(「浄夜」を連想させる曲)、原田幸一郎指揮桐朋学園オーケストラとウェンティン・カン(va)独奏のフンメルの幻想曲ト短調、アントワン・タメスティ(va)独奏のヒンデミット「白鳥を焼く男」。お腹いっぱいの長い夜。ヒンデミット成分をたっぷり補給できて吉、しかもヒンデミット以外も期待以上のすばらしさ。
●最後に登場したタメスティの雄弁なソロが圧巻。自在の音色と語り口に白鳥丸焼け。録音でバッハの無伴奏とかシューベルト「アルペッジョーネ・ソナタ」とかベルリオーズ「イタリアのハロルド」とかいっぱい出てるのね。聴いてみなければ。
●タメスティがってん。

May 27, 2013

アルベニス「イベリア」全曲演奏

●24日は岡田博美のアルベニス「イベリア」全曲(トッパンホール)。今年、LFJでルイス・フェルナンド・ペレスのアルベニス「イベリア」を聴き損ねて悔しい思いをしたが、この日の岡田博美で溜飲を下げた。最高にカッコいい。
●「イベリア」の特に好きなところは第3巻の華麗な「エル・ポロ」から「ラバピエス」の流れ、第2巻の「ロンデーニャ」冒頭のかわいくてほっとするところ、「トゥリアーナ」のスカした終わり方。第1巻、第2巻、休憩を入れて第3巻、第4巻と演奏されたんだけど、進むにつれて躍動感と闊達さを増し、この眩暈のするような大作を弾き切った。アンコールは「ナバラ」。「一般的にはセヴラックの補筆で演奏されるわけですが、セヴラックは消極的で盛り上がりに欠けるので、私が補筆しました」と言って岡田版が演奏された。そして「タンゴ」でおしまい。また聴きたい、全曲を。
アルベニス「イベリア」岡田博美●写真は会場でも販売されていた(と思う)岡田博美のアルベニス「イベリア」全曲のCD。98年のライブ録音でカメラータ・トウキョウからリリースされている。このCDは10年以上前にリリースされたものだが、CDがまだあるというのは幸いなこと。
●というのも、LFJでの話だが、会場内のCD売り場に行くとペレスはグラナドス「ゴイェスカス」がドドーンと展開されていて、アルベニス「イベリア」は置いてなかったように思う(少なくとも私は見なかった)。せっかく「イベリア」全曲弾いたのに。「ゴイェスカス」はMIRAREレーベルだからこの音楽祭に置いてあるのは当然だが、実はペレスは「イベリア」も録音している。ただ、レーベルがVersoなんすよね。この録音はあちこちのお店のサイトで見ても品切だったり、検索に引っかからなかったりするので、たぶん在庫がなかったんじゃないだろうか。でも Presto Classicalamazon mp3 ではちゃんとダウンロード販売されている。
●ダウンロード販売は品切にならない。これを会場売りできたらよかったんだろうが、唯一の難点はデータを売ってもアーティストにサインしてもらえないってことか。

May 24, 2013

タン・ドゥン世界初演とバートウィスル日本初演

女書●22日はタン・ドゥン指揮のN響定期。メイン・プログラムはN響、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、フィラデルフィア管弦楽団の共同委嘱による「女書」。女書というのは湖南省の一部で伝承されてきた、世界でもまれな女性だけによって使用される文字なのだとか。すでに消滅の危機に瀕している女書をタン・ドゥンが現地で調査し、さらには現地女性が歌う姿などを撮影し、これを曲の題材として使用する。バルトークがテープレコーダーを担いで民謡を採取したように、タン・ドゥンはビデオレコーダーを持って農村を歩いたということか。
●サントリーホールに三面のスクリーンとスピーカーが設置され、そこに編集された映像が音声とともに再生される。農村部の女性の様々な情景、嫁に行く娘に語りかける母、嫁入りを泣く歌、姉妹の間の情などが描かれる。被写体はしばしば泣きながら歌う。これに多数の打楽器群を含む三管編成のオーケストラが音楽を同期させる。民謡風の素朴な旋律や水の音が多彩な表現を聴かせ、最後には「女書と水のロックンロール」(!)と題された楽章が訪れ、力強く祝祭的な高揚感とともに曲を閉じる。「女として生きる哀しみ」が全体の主題となってはいるものの、明快で多様性に富んだ一大スペクタクルといった印象。具体的なストーリー性はないが、映像の喚起力が強く、あたかも生オケ付きの映画を見たような気分も。客席の反応は上々。
●続く23日は東京オペラシティで「コンポージアム2013」。今年、武満徹作曲賞の審査を務めるハリソン・バートウィスルの作品が3曲、いずれも日本初演。ステファン・アズベリー指揮東京交響楽団。
●1曲目は金管楽器、打楽器、コントラバスのための「ある想像の風景」(1971)。ホルン、トランペット、トロンボーンで一組のセットが舞台三か所に離れて配置されていたのが、曲の途中で配置を変えて同じ楽器ごとに陣取る(普通のオーケストラのように)といった趣向があって、そこで響きの質がガラリと変わるのがおもしろい……か。2曲目はヴァイオリン協奏曲(2009/10)でダニエル・ホープが鬼神のソロ。最後の「エクソディ 23:59:59」(1997)がいちばん楽しかった。瞬間瞬間の音色の多彩さ、テクスチャーのおもしろさ以上のもの、まとまった長さの曲を聴き通すための文脈を自分がどれだけ掬えるか、っていうのが問題、楽しめるかどうかってことでは。

May 22, 2013

フェドセーエフ&N響、秋山和慶&東響

●もう先週だけど備忘録的に。17日はNHKホールでフェドセーエフ&N響。前半がショスタコーヴィチの交響曲第1番で、後半がチャイコフスキーの弦楽セレナード、ボロディンの「イーゴリ公」序曲&「だったん人の踊り」というプログラム。スゴい、「だったん人の踊り」で終わるなんて。チャーハン大盛りに餃子つけたみたいな満腹感。帰り道にTwitterを見て、同じ時刻にテミルカーノフ&読響もショスタコーヴィチの1番を演奏していたと知る。東京で同時多発タコ1の夜。
●19日はオペラシティで秋山和慶&東響。ドビュッシー/ビュッセル編の「小組曲」、ミシェル・ベロフの独奏でラヴェルのピアノ協奏曲を「両手」と「左手」両方、おしまいにラヴェル「ラ・ヴァルス」。整然として明快な「ラ・ヴァルス」がすばらしかった。グロテスクな歪んだワルツという作品のダークサイドとは距離を置いた、洗練された響きによる清冽なラヴェル。
●「左手のためのピアノ協奏曲」はなんど聴いても「以下略」で唐突に終わる気がしてしょうがないんだけど。でもパウル・ヴィトゲンシュタインは偉大。
●もしヴィトゲンシュタインが失ったのが左手だったら、「右手のためのピアノ協奏曲」が誕生したのだろうか?

May 21, 2013

METライブビューイング「ジュリアス・シーザー」(ジュリオ・チェーザレ)

●昨晩は東劇でMETライブビューイング、ヘンデルの「ジュリアス・シーザー」(ジュリオ・チェーザレ)。デイヴィッド・マクヴィカーの演出で、これはグラインドボーン音楽祭のDVDでも観た神演出じゃないすか。これをMETに持っていたらこうなる、という舞台。より重厚で、熟しているというか。
●まずなんといってもヘンデルの曲が奇跡。これでもかというくらいに一作に名曲がつめこまれていて、普通のオペラ2、3作分のネタを一挙につめこんだかのような密度。第2幕まででも相当満足度が高いのに、第3幕になってまだ「ピアンジェロ……」とか「難破した船が嵐から」みたいな名曲が残ってるんすよ! くらくら。
●で、マクヴィカー演出が最高に楽しい。舞台装置の美しさもすばらしいが、なんといっても歌手がフリを付けて踊りまくるのが吉。要所要所で80年代アイドル歌謡みたいなノリの振付がある。グラインドボーンのDVD見たときに、これだ!と思ったもの。ヘンデルだから同じメロディの反復とかフツーにあるわけだけど、それをオペラ歌手の「間の持たない演技」で埋め尽くしたら悲惨なことになりかねない。でも、そこに楽しいフリがあれば最高の見せ場になる。オペラ歌手に必要なのはスタニスラフスキーの演技理論じゃなくて、ラッキィ池田の振付だっ!(いやラッキィ池田じゃないけど)。
ヘンデル「ジュリオ・チェーザレ」 グラインドボーン音楽祭2005●休憩を入れて4時間43分を満喫。長丁場なのに、まったく長さを感じさせない。クレオパトラ役はなんと、ナタリー・デセイ。正直に言えば、グラインドボーンのドゥニースが恋しくはなった。あの体の動きのキレと溌剌とした歌唱はリアル若者だけのものだったし、この振付は体のキレを前提にしているとしか思えないので。てか、あれはドゥニースのコスプレがかわいすぎて正視できないくらいの萌え要素があった。ただデセイが並はずれた執念でこの役をものにしようとしていたこともたしかで、経験豊富な歌手があれだけ激しく踊りながら安定して歌えるというのは驚異。どんだけ練習したのか。たとえるなら現在の三浦カズのまたぎフェイントを目にしたような感動(←なにその唐突さ)。
●チェーザレ役はデイヴィッド・ダニエルズ。これはグラインドボーンではズボン役だったけど、METでは髭面のカウンターテナー。このプロダクションの視覚的なかわいさという点ではチェーザレとクレオパトラは女性同士であってほしかった気もするけど、一方で男性が歌えば「ラブコメ」要素をはっきり打ち出せるのが利点か。しかしあの歌はどうかな。カウンターテナーは歌も演技もトロメオ役のクリストフ・デュモー、ニレーノ役のラシード・ベン・アブデスラームがよかった。指揮はハリー・ビケット。
●これで今季のMETライブビューイングはおしまい。来季はこんなラインナップ。期待大。

May 16, 2013

米Googleが定額制音楽配信サービス Google Play Music All Access をスタート

●いよいよGoogleが定額制音楽配信サービスを米国内で開始。サービス名はGoogle Play Music All Access。月額9.99ドルで聴き放題。Spotifyを筆頭とする先行する同種のサービスに強力なライバルが誕生したことになる。
●米国外へのサービスは今後の話になる。で、音楽配信事情に関して言うと、日本はいまだ軽い鎖国状態にあって、Google Play Music All Access以前にSpotifyも上陸していない。一方で、日本企業による定額制音楽配信サービスが次々とスタートしつつある(参照:音楽配信、聴き放題サービス続出のワケ)。どこのサービスが生き残るかはわからないし、SpotifyやGoogle Play Music All Accessがいつ上陸するかもわからないが、ようやく定額制音楽配信サービスが本格的に定着してくれそう。
●クラシック音楽に関しては、すでに日本では「ナクソス・ミュージック・ライブラリー」が圧倒的に先行している。ジャンルに特化していて、なおかつローカライズされている点が大きな強み。オールジャンルの定額配信サービスが海外から上陸したとしても、曲名やアーティスト名が日本語化されるとは思えないので。ただ、今後メジャーレーベルの音源がどうなるか、っていうのが気になるところ。
●SONYのMusic Unlimitedはメジャー音源も豊富でカラヤンもバーンスタインもクライバーも聴けるんだけど、クラシック界隈ではイマイチ話題になっていない気がするのはどうして? 音源数が足りないのか、検索性に問題があるのか、独特のインターフェイスが嫌われているのか。AACの320kbpsの高音質オプションというのがスタートしてるみたいなんだけど、どうなんすかね。利用者の感想求む。

May 15, 2013

「ねじの回転」「オーエン・ウィングレイヴ」 (ヘンリー・ジェイムズ)

ねじの回転●ブリテン生誕100周年。なのにブリテンを聴かずに、ブリテンのオペラの原作をたどるシリーズということで、「ビリー・バッド」に続いてヘンリー・ジェイムズの「ねじの回転」と「オーエン・ウィングレイヴ」。「ねじの回転」は名作だけに翻訳がずいぶんたくさんあって、光文社古典新訳文庫の土屋政雄訳にも大いにひかれるが、創元推理文庫の『ねじの回転 心霊小説傑作選』(ヘンリー・ジェイムズ著 南條竹則、坂本あおい訳)であれば「オーエン・ウィングレイヴ」も併録されているので、音楽ファンにとってはこれが最強の選択肢か。
●「ねじの回転」は幽霊屋敷小説の古典中の古典。名作が常にそうであるように、読み手に多層的な解釈を許す。もっとも表層的にはイギリス郊外のお屋敷に才色兼備の女家庭教師がやってきて、亡霊たちからお坊ちゃんお嬢ちゃんを守ろうとする、というゴシックホラーで、たしかに怖い。しかし怖いのは亡霊ではない。多くのホラー映画で本当に怖いのは亡霊ではなく子供(あるいは子供的ななにか)であり、ゾンビ映画で本当に怖いのがヒトであるのと同じく、ここでも第一に怖いのは子供。あまりにもデキのよい天使みたいなガキがあるとき悪さをして、女家庭教師が叱ると、ヤツはこう抜かす。「僕を――たまには――悪い子だと思ってほしかったの!」。あー、このクソガキゃあ。なんという邪悪さ。そして第二に怖いのは主人公の女家庭教師である。話が進むにつれて、亡霊は女家庭教師にしか見えていないことがわかってくる。もしかしてこれぜんぶ妄想なんじゃね? 語り手たる主人公がいちばん怖い。
●で、「ねじの回転」のすごいところはなにが起きているかはっきりとは語らずして語っているところで、抑圧された女家庭教師の妄想が暴走しているとも解釈できる。また、男女の亡霊、少年と少女の間にある汚れた関係性、そして天使のような少年が一発で放校処分になってしまった許されない出来事をほのめかすことによって、一言もそう語らずしてこれは同性愛、少年愛を題材とした小説になっている。最後の少年が突然息絶えてしまう一文はホラーの文脈では亡霊につかまってしまったことになるけど、ホモセクシャリズムの文脈では少年と亡霊の結びつきが旧弊な女家庭教師(彼女は屋敷の主人である青年に満たされない想いを抱えている)に追いつめられて絶たれたとも読める。
●短編「オーエン・ウィングレイヴ」では、名門軍人一家に生まれたウィングレイヴ家の青年オーウェンが、職業軍人になることを拒絶する。物語はオーエンの視点からは描かれず、周囲の人物がオーエンを観察するという形で語られる。あいつは軍人になるために生まれてきた男、気骨のある、最高の戦士になるべき男。それ以外の生き方などあるだろうか? よもや怖気づいたのか。まさか本気で軍人にならないとは? オーエンを救え!
●オーエンはだれからも理解されないまま、死を迎える。最後の一文は「その姿は、戦場に勝利を得た若い戦士そのものだった」。つまり彼は戦場に出ることなく、戦い抜いて死んだ。軍人として生きることを拒んだ平和主義者として。同時にこれは「カミングアウト」を題材とした小説としても読める。過剰な男らしさの強制と、そこからの逸脱を不名誉とする価値観。軍人の名門一家はホモフォビアの隠喩だ。セクシャリティの問題にまで踏み込まなくとも、「男らしさ」という強迫観念、「男らしさ」(スポーツ万能で行動力があり明るくて勇気がある)の度合いによって築かれる学校男子ヒエラルキーなどを思い浮かべれば、多くの男性にとって普遍的な題材を持った小説として読める。

May 13, 2013

尾高忠明&N響オール・イギリス・プロ

●12日は、尾高忠明&N響のオール・イギリス・プロへ(NHKホール)。エルガー序曲「フロアサール」、ディーリアスの「村のロメオとジュリエット」から間奏曲「天国への道」、ヴォーン・ウィリアムズのテューバ協奏曲、休憩をはさんでウォルトンの交響曲第1番。
●前日11日の公演は代々木公園のゾンビウォークと重なってたらしいんすよ。惜しい、11日だったらゾンビも見れたのに!(ら抜き)と地団駄を踏んでみたが、好天に恵まれた12日の原宿は駅から猛烈な人ごみで大混雑。駅近辺が人で埋め尽くされてところどころ一歩も前に進めない大渋滞で、これじゃゾンビも歩けない。さらにNHKホール前の通りはタイ・フェスティバルで大賑わい。シンハーとタイカレーを持って歩く若者たち。食欲をそそるトムヤンクンにパッタイ。スパイシーな香りを全身に浴びて英国音楽に備える。
●エルガー「フロアサール」は作品19、1890年作曲の初期作品(といってももう作曲者33歳だが)。なんという輝かしさ、気高さ。すでにエルガーはエルガーだったのだと痛感し、圧倒される。高貴である。タイカレーにヨダレを垂らしている自分が申しわけないくらいに。
walton.jpg●どれも聴きものだがインパクトの強さでは、なんといってもウォルトンの交響曲第1番。1930年代にこれほど力強く肯定的な交響曲が書かれたとは。シベリウスの比ではない。明快なドラマ性、ヒロイックな楽想、咆哮するブラスセクション。超ベートーヴェン的な20世紀のシンフォニー。中二病がぶり返してきそうなくらいカッコいい。第1楽章の終結部なんて身震いする。熱演。
●ホールから出ると、依然としてタイフェスが盛り上がっている。ほぼ同じ場所で繰り広げられる異質な饗宴。なんとなくそのままタイフェスにまぎれこみ、行列の短そうな店でパッタイを買って立ち食い。うまい。が、ウォルトンは満腹感でタイフェスを凌駕していた。

May 10, 2013

「戦後のオペラ 1945~2013」(山田治生、渡辺和/新国立劇場運営財団情報センター)

「戦後のオペラ 1945~2013」●これは必携の一冊では。「戦後のオペラ 1945~2013」(山田治生 編・著、渡辺和 著/新国立劇場運営財団情報センター)は、戦後に書かれた代表的なオペラ57作品を取り上げて、それぞれの作品の概説、あらすじを紹介している。戦後のオペラっすよ? まず57作品を選ぶというのが大変そう。メシアンの「アッシジの聖フランチェスコ」とかリゲティの「ル・グラン・マカブル」クラスの有名作品はだれが編者になっても入ってくるが、そういう作品は決して多くない。ブリテンやストラヴィンスキー、プーランク、シェーンベルクあたりが健在だった40年代、50年代あたりはまだいいとして(いや、それでも難問だけど)、60年代はどれを選ぶか。ここでは芥川「ヒロシマのオルフェ」、ヘンツェ「若き恋人たちへのエレジー」、マルティヌー「ギリシャ受難曲」、ヒンデミット「ロング・クリスマス・ディナー」、ブリテン「カーリュー・リヴァー」、ツィンマーマン「軍人たち」、ピアソラ「ブエノスアイレスのマリア」、ペンデレツキ「ルダンの悪魔」が選ばれている。いやー、これらの作品について日本語で書かれたあらすじがまとまってるなんて、なんてありがたいの。
●最近の作品だと2000年代で7作。サーリアホ「彼方からの愛」、タン・ドゥン「TEA」、ジョン・アダムズ「ドクター・アトミック」、チン・ウンスク「不思議の国のアリス」他。
●全体に実用性というか、参照可能性を考慮した作品選択になっているようで心強い。あと、価格。カラー口絵もあって定価700円+税とは。通常の商業出版ならよほど部数がないと無理なわけで、ずいぶんお買い得。

May 8, 2013

LFJ2013備忘録

●高密度な日々の反動なのか、すごい勢いで記憶の彼方に去ってしまいそうなので、ラ・フォル・ジュルネ2013で印象に残った公演について備忘録を。
lfj2013●今回、例年以上に「これを聴きのがしたらもう二度と聴けないかも」プロが並んでいて、特に室内楽方面はゾクゾクさせられたんだけど、そうそう好きなものを聴けるはずもなく、おまけに聴きたいプログラムがやたら同時刻に集中していた気がする。最終日のプレス懇談会の時間帯にぶつかってるのだけでも、ベルリオーズ「葬送と勝利の大交響曲」、ペヌティエのオアナ「24の前奏曲」、ペレス&アリアーガ弦楽四重奏団のトゥリーナのピアノ四重奏曲イ短調&グラナドスのピアノ五重奏曲ト短調。これは運。
●いいな!と思ったのは、根本雄伯編曲&指揮のオペラ「カルメン」ハイライト。9人の小アンサンブルによる演奏なんだけど、編曲がすばらしすぎる。ヴァイオリン、フルート、クラリネット、トランペット、トロンボーン、コントラバス、パーカッション、ギター、アコーディオン、だったかな? 単なるオケの縮小版じゃない。ギターやアコーディオンが原曲以上に「カルメン」の物語世界の猥雑さを醸し出す。芝居小屋的なワクワク感を満喫。ハイライトでも字幕がなくても歌手がスターじゃなくても、LFJのフォーマットでオペラを楽しむことができるという大きな発見。小劇場風の手触りでもあるし、ストラヴィンスキー「兵士の物語」を連想させるような20世紀前半風味でもあり。創意を感じる。
●3日夜の「クレール・オプスキュール」(暗がりのコンサート)は初回以来、久々に聴けた。これはプログラム当日発表で、だれがピアノを弾いているかわからないようにステージを隠して演奏し、全部終わった後でルネ・マルタン氏からピアニストの種明かしがあるという、演奏者当てクイズみたいな企画(ショパンやリストの時代のサロンでの催しに由来するとか)。曲目はクープランの数曲、ファリャ「ファンタジア・ベティカ」、ブクレシュリエフ「オリオン第3」、ドビュッシー「沈める寺」、ラヴェル「スカルボ」。第1回のときは一人もわからなかったのだが、今回は二人当てることができた、聴く前から(笑)。クープランはイド・バルシャイ、ブクレシュリエフなんか弾くのはユーリ・ファヴォリンでしょうが。聴いてもわからないから、レパートリーから当てるという。最後のドビュッシーとラヴェル、うまいなーと思ったら広瀬悦子さんだった。ファヴォリンのブクレシュリエフは鬼。
●アンサンブル・アンテルコンタンポランはいくつか聴けた。スザンナ・マルッキ指揮ミュライユ「セレンディブ」での波打つ精緻な響きの海に圧倒される。ビバ、スペクトル。そしてそれを非人間的精妙さで実現できてしまう高機能アンサンブル。一方、別プロのブーレーズ「シュル・アンシーズ」は集中を失ってしまい脱落。疲れもあるけど、元気な時に聴いても楽しめる自信まったくなし。これ、3台ピアノ、3台ハープ、3台鍵盤打楽器のための曲っていうことなんだけど、1ピアノ+1ハープ+1鍵盤打楽器のユニットが舞台の左・中央・右のそれぞれに計3セット配置されるっていうことだったんすね。
●4日の夜は、本来ならルイス・フェルナンド・ペレスが2公演分の枠を使って「イベリア」を演奏するのが最大の聴きもの。が、同時刻の19時からのホールA、カルイ指揮ラムルー管弦楽団で「ビッグ・サプライズがある」という話が伝わってきて、そちらに。本来のプログラムであるラヴェルのピアノ協奏曲(小山実稚恵)、「ラ・ヴァルス」でも十分に聴きごたえがあったけど、カーテンコールの後、佐渡裕登場で「ボレロ」アンコール。客席はどよめいた。これは楽員も知らなかったそうで、カルイの指揮だと思っていたらかつての首席指揮者である佐渡さんがいきなりあらわれたわけで、もしかしたら客席よりよほど驚いていたかもしれない。公式ブログにレポートされているように、舞台裏ではみんなでポスターに名前をサインして佐渡さんに手渡そうとしていた模様。
●5日はペヌティエ、パスキエ、ピドゥのトリオでラヴェルのピアノ三重奏曲。時間がなくてこの一曲だけ聴いて退出することになってしまったんだけど、これは強烈だった。若手が多い音楽祭にあって、ベテラン三人そろい踏み。ホールB5の小さな空間では彼らのオーラが収まりきらないかのよう。こんなに気迫のこもった苛烈なラヴェルがありうるなんて。
●OTTAVAのブースに毎日出演させていただいた。高野麻衣さんの「乙女のクラシック」トークショーにも呼んでいただいた、乙女じゃなくてオッサンなのに。すべて生き恥をさらす覚悟で臨む。

May 7, 2013

LFJ2013閉幕、プレス懇談会

●LFJ2013閉幕。今年も濃密な三日間だった。自分の見聞きしたものについてはまた明日以降にして、本日は最終日の夕方に開かれたプレス懇談会の様子から。
●まず総責任者である東京国際フォーラム取締役広報部長の上垣智則さん、エグゼクティブ・プロデューサーの同社企画事業部長鈴木順子さんから開催結果報告があり、今年の有料チケット販売率は最終日15時30分の時点で88.7%に到達しており、最終的には90%にまで届くのではないかと発表された。昨年は主にホールAに客席が目立ち76.3%であったので、大幅に販売率が伸びたことになる。販売数は14時時点で13万5千枚強。
●その理由は簡単には分析できないと思うが、今年は様々な点で昨年より指摘されていた課題が洗いなおされていたのは感じることができた。去年までは丸の内エリアでの周辺イベントと東京国際フォーラムの本公演が別個に開催されていた感が強かったが、今回はどちらも会期を合わせて3日間同一日程になった。別々に発行していたガイドブックも一体化されてフリーのガイドブックが発行された(一方、有料公式ガイドブックはなくなった)。地上広場のチケット販売ブースが復活した。当日配布プログラムが改善された。チケット発券機ができた。いろんなことが積み重なって効力を発したのかもしれない。ホールAに集客力のあるプログラムが組まれ、一方で中小のホールは珍しい作品をどんどん取り上げたというのもよかったのかもしれない。アーティストがよかったのかもしれない。あるいは、単に「三日間ともお天気だった」ことが決定的だったのかもしれない。現時点では大ざっぱな推測でしか語れない。ともあれ、客席が埋まってたのは肌で実感できた。5000人のホールを抱えているのに、90%は驚異的。
lfj2013プレス懇談会●次回テーマについては、ルネ・マルタンさんから発表。来年のナントでは「アメリカ」がテーマ。しかし10周年を迎える東京ではナントと異なるテーマを掲げる。過去にとりあげた作曲家9人に、ナントの「アメリカ」からガーシュウィンを一人加えて、10人の作曲家が主役となる。モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、ショパン、ブラームス、グリーグ、チャイコフスキー、ドヴォルザーク、ラヴェル、ガーシュウィン。
●この10人のなかにはバッハが入っていない。というのも、再来年のナントはバロックがテーマ。1685年生まれの3人、バッハ、ヘンデル、スカルラッティが中心となる。なので、再来年の東京でも同様のテーマをとりあげるかもしれない、との話。
●ちなみに来年のナントの「アメリカ」だが、これが実に魅力的なプログラムになりそうで、企画の中心となる視点がいくつか挙げられていた。ひとつはアメリカ人作曲家。アイヴズやライヒやグラス等。それから、アメリカに移った作曲家たち。ラフマニノフ、バルトーク、マルティヌー、シェーンベルク、ストラヴィンスキー、ヴァレーズ。彼らのアメリカ時代の音楽。さらに1920年以降のアメリカの財団等が委嘱した作品。たとえばメシアンのトゥランガリラ交響曲とか、デュティユー、武満、ベリオらの作品。そして、アメリカのポピュラー音楽。ジャズやブルース、ゴスペル、ミュージカルなど(コルンゴルトの名が挙がっていた)。
●いやー、このナントの「アメリカ」っていうのは見事じゃないすかね。単に「アメリカ音楽」ではなく、「アメリカが作った20世紀音楽史」。ワクワクする。これを聞いて、多くの方が「それをそのまま東京に持ってきてほしい」と思ったのでは。しかし、一方このテーマで5000人のホールAを三日間埋められるかといえば無茶な話ではある。ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」とかラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」ばかり並べるわけにもいかないし。うまい具合に左から見たら「10年総集編」、右から見たら「アメリカ」みたいな巧妙なプログラムは組めないものすかねー。

May 3, 2013

LFJ2013いよいよ開幕!

LFJ2013フラッシュモブ
●いよいよラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2013開幕。写真は2日の正午頃、有楽町の駅前広場で行われたフラッシュモブ。最初は小太鼓のお姉さんがリズムを刻んでいるだけだったんだけど、そのうち大勢が参加してラヴェルの「ボレロ」を演奏するというサプライズ。サプライズといっても譜面台やら楽器ケースやらで「ん、なにか弾くな!?」ってのはモロバレしてるんだけど、大勢の人が集まって拍手喝采。映像はこちらで。
●これ、特に「LFJ、開幕でーす」とかメッセージがなくて、ホントに「ボレロ」だけで終わったので、なんのイベントなのかぜんぜんわからなかった方も多いはず。といっても、あんまり露骨に宣伝しちゃうのもカッコ悪いわけで、わかる人だけわかるという感じか。この後、18時の丸ビルでのオープニングセレモニーでのフラッシュモブ、さらに20時の屋台村での自由参加型事前告知モブもあって、開幕前日は「ボレロ」モブ尽くしであった。
●では、これからLFJの3日間、東京国際フォーラムでお会いしましょう。今年もLFJ公式レポートブログを更新しますので、ぜひご覧ください。

※P.S. 公演番号215、5月4日 19:00~ ホールA、カルイ指揮ラムルー管弦楽団の公演で、「日本とフランスの友情を再確認できるようなビッグサプライズ」があるとか(ルネ・マルタンさん談)。まさか!と思うような展開なんだけど、なにがあるかは教えられないそうです。

May 2, 2013

『ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた』(青山通著/アルテスパブリッシング)

ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた●ややや。この書影を見ただけでもワクワクする方は多いと思う。『ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた』(青山通著)。ウルトラセブンの最終回「史上最大の侵略」後編のモロボシ・ダンの名台詞、「僕はね、人間じゃないんだよ。M78星雲から来たウルトラセブンなんだ!」に続いて流れる、リパッティ&カラヤンによるシューマンのピアノ協奏曲。このシーンは特撮ヒーロー・カルチャーにおける音楽的ハイライトとして名高いが、本書はまずこの8分間のクライマックスについての詳細な分析から入る。

 457小節、カデンツァ最後のトリルの最中に、ウルトラセブンはアイスラッガーを放つ(譜例5)。
 しかし、それは改造パンドンにキャッチされてしまう。504小節、改造パンドンが投げてきたアイスラッガーをウルトラセブンは切り返し、悲壮な戦いのすえ、かろうじて勝利する。
 そしてシューマンのピアノ協奏曲第1楽章は、ピアノの上昇アルペッジョ(分散和音)からトゥッティによるスフォルツァンド(特に強く)付きの4つの八分音符をフォルテで力強く鳴らし、嵐のようなフィナーレを迎える(譜例6)。
 音楽が終わった。これがほんとうに最後の瞬間だ。 (p.35)


●もしかしたらオリジナルの映像を見るよりも、本書の分析を読むほうが感動するのではないかというくらい、熱い思いによって最終話が再現されている。「ウルトラセブン」の作曲家、音楽監督である冬木透氏への取材により、ここでシューマンが使用された経緯なども明らかになっている。
●この序盤だけでも圧巻なのだが、少年期にこの場面に衝撃を受けた著者は、続いてこの名場面に使用された音楽のレコードを求める旅に出る。曲名がシューマンのピアノ協奏曲だということがわかり、思い切ってレコードを買う。ところがなんということか、レコードから流れる音楽はあの場面とは違う。いや、たしかに同じ曲なのだが、演奏が違う(こういう体験、みんな身に覚えがあると思う)。そこから、クラシック音楽においては、演奏者が異なれば、同じ曲でも異なる音楽が生み出されるという真実が導き出される……そう、これはウルトラセブンとの出会いという個人史を通して語られる秀逸な「クラシック音楽入門」でもあるのだ。一冊の本に、ウルトラセブン論とシューマンのピアノ協奏曲論が併存し、それが画期的な音楽入門書にもなっているという離れ技的一冊。すごい。
●ワタシ自身は著者より少し後の世代なので、リアルタイムの視聴体験があるのは「帰りマン」からで、「セブン」はすべて再放送でしか知らない。それでも震撼させられる。やはり「セブン」は特別なんすよね、シナリオも音楽も。この本にも掲載されていたけど、「狙われた街」でメトロン星人とダンがちゃぶ台を囲んで向き合っている図とか、強烈すぎて忘れられないもの。

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