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worldcup2022: 2022年12月アーカイブ

December 23, 2022

ワールドカップ2022カタール大会をふりかえる

●さて、忘れないうちにワールドカップ2022カタール大会を総括しておこう。今大会、競技面に関していえば、近年のワールドカップでもっとも盛り上がった大会になったと思う。ニッポンがドイツとスペインを破ってグループリーグを1位で突破するという、だれも予想しなかった大健闘を見せた。が、ニッポンだけではなく、世界中のサッカーファンにとってエキサイティングな大会だったんじゃないだろうか。理由はいくつかある。ひとつは決勝戦が劇的な名勝負になったこと。アルゼンチンが優勝し、伝説として語り継がれるであろうメッシが最後の大会で栄冠を勝ち取った。そんなストーリー性も満足度を高めてくれる。久々にヨーロッパ以外のチームが優勝したのも大きい。ワールドカップが欧州選手権になってしまうと盛り上がらない。おおむねワールドカップは、欧州/アフリカで開催されると欧州のチームが優勝し、南米/アジアで開催されると南米が優勝するのだが(例外は2回ある)、今回もその法則が適用された。あとは、正直なところ、事前の期待値が低かったせいもある。サッカーの熱狂がまるで感じられないカタールで開催され、気候を理由に秋に開催するなどの無茶がまかり通ってしまい、始まる前からこの大会は失敗であり、マネーの力に屈した大会だという屈辱感があった。だが、終わってみたら予想外によい大会になった。それは競技内容そのものがすばらしかったということに尽きる。
●今大会はいくつも従来から大きな変化があった。大会前から各国のリーグで採用されていたものではあるが、5人交代とVARはサッカーを変えたと思う。コロナ禍から生まれた5人交代(ただし交代回数はハーフタイムを除いて3回まで)ルールのおかげで、厳しい日程にもかかわらず「消耗戦」にならなかった。5人交代はベテランの活躍も後押ししたのでは。従来、キーパーとセンターバック以外は32歳にもなればそろそろトップレベルでは厳しい印象だったが、今大会ではメッシ35歳をはじめ、オリヴィエ・ジルー36歳、モドリッチ37歳、クリスチャーノ・ロナウド37歳など、ベテラン勢が目立った。ネイマールですらもう30歳なのだ。交代枠のおかげだけではないとは思うが、場合によっては前半だけでお役御免という起用法も可能になったのは大きい。それとVARに関しては、どちらかといえば攻撃の選手が恩恵を受けていると思う。すぐにPKチェックが入るので、ペナルティエリア内でディフェンダーが慎重なプレイをするようになった。
●過去の大会よりゴールが増えたという話もあったが、それに関してはアディショナルタイムが長くなったことも影響しているはず。厳密にアディショナルタイムを取ることになり、7分や8分はあたりまえといった調子。実はこれはあまりうれしくない。ただでさえ長い試合がさらに長くなる。実質、前後半それぞれ50分はかかるイメージ。だったら45分ハーフじゃなくて、もう40分ハーフにしてしまえばいいんじゃないの。時間稼ぎのプレーは減ってほしいけど、試合そのものが長くなるのはうれしくない。
●あまり話題にならなかったが、女性審判が参加した。フランス人の女性審判が史上初めて主審を務めた。日本からは山下良美さんが参加。ただ、「6試合で第4審判を務めた」ということなのだが、主審が無理でも、せめて副審くらいは任せてほしかったという思いも残る。ワタシはJFLの試合で山下さんが主審を務めた試合を観戦したことがあるので、心情的には応援モード。ワールドカップで主審を務める雄姿を見たかった。
●今回、開催国カタールはまったくいいところがなかったけど、代わってモロッコ代表がアラブ世界の代表としてベスト4に入る健闘を見せた。モロッコ対フランス戦の場内の雰囲気は、あれがアフリカ対ヨーロッパではなく、アラブ対ヨーロッパなのだということを知らしめたと思う。フランスがボールを持つたびに出るブーイングにはいろんなニュアンスがあったんじゃないかな……。フランスといえば決勝戦後のセレモニーにマクロン大統領が出てきたが、まったく場違い。自国開催ですらないのに、なんのつもりなのか。世界中のサッカーファンが心のなかでブーイングをしたと思うが、ひょっとしてそこまで計算に入れてカタールはマクロンの乱入を許したのかも、と思わなくもない。

December 19, 2022

アルゼンチンvsフランス 最後に訪れた戴冠式 ワールドカップ2022 決勝

アルゼンチン●一か月に及んだワールドカップ2022カタール大会もついに決勝戦。キックオフが日本時間の24時で意外にも早い時間帯。暑さは?と思ったら、12月も後半に入りさすがのカタールの空気もひんやりとしてきた、らしい。アルゼンチン対フランス、そしてメッシ対エムバペの決勝戦は、決勝戦らしからぬスペクタクルになった。
●アルゼンチンは4-3-3の布陣。34歳ベテランのディ・マリアを左ウィングで先発させた。本来の右ではないが、右にはメッシがおり、中央に運動量豊富なアルバレスがいる。フランスは試合前、感染症で体調を崩す選手が多かったと言うが、ふたをあけてみればどうということもなく、4-3-3の布陣。前評判では(自分の予想でも)完成度の高いフランスが押す展開になると思われていたが、序盤からアルゼンチンがハイテンションで立ち向かい、なんとフランスが守勢に回る。ディ・マリアは動きにキレがあり、持ち前の技術の高さで左サイドを支配、対面するクンデをちんちんにする無双ぶり。そのディ・マリアが左サイドからカットインしてエリア内に切れ込んだところをデンベレが後ろからひっかけてPK。誘って取ったPKという感も。PKをメッシがキーパーの動きを見て落ち着いて決めて前半23分にアルゼンチンが先制。さらに前半36分、アルゼンチンは自陣から流れるようなパスをダイナミックにつなぎ、右からマカリスターが入れたラストパスを走り込んだディ・マリアが決めて2点目。ディ・マリアの大活躍で2点リードする予想外の展開になった。フランスはデシャン監督が前半41分のタイミングでデンベレとジルーを下げて、コロムアニとテュラムを入れる早い決断。これでテュラムを右サイドに置き、ここまで目立たないエースのエムバペを中央に置く布陣に。
●前半はそのまま終了し、後半半ば、アルゼンチンはディ・マリアを下げて、4-4-2のブロックで守る態勢に入る。これで試合が終わると思えたが、後半34分、フランスはコロムアニがオタメンディに倒されてPKを獲得。エムバペが決めて1点差。その直後、エムバペがテュラムとのワンツーで抜け出して、浮き球を美しいボレーで叩き込んで同点弾。あっという間に追いついてしまった。
●2対2のまま延長戦に突入すると、延長後半3分、アルゼンチンはゴール前の細かいパス交換からラウタロ・マルティネスがシュート、キーパーのロリスが弾いたところをメッシが蹴り込んでゴール。今度こそ試合が決まったと思ったが、延長後半13分、フランスは相手のハンドから得たPKをエムバペが決めて3対3の同点。これはシュートのブロックに入ったモンティエルの腕にたまたま当たってPKとなったもの。試合は盛り上がるが、判定としてはつまらない。こんなPK、1点ではなく0.5点にしたいくらいだ。
●延長戦の終盤に両者ビッグチャンスを迎えたが決まらずPK戦に。コイントスで、フランスが統計的に有利な先攻を得たものの、2本目、3本目を失敗。全員成功させたアルゼンチンが勝者となった。そもそもPK戦は「試合は引分けたが、先に進む勝者を決めるためのもの」と考えると、決勝戦にPK戦が必要なのか疑問も感じるのだが、とはいえ両者優勝では盛り上がらないのもたしか。それにしても、この試合もそうだが、大会全体を通して「PK」が主役になりすぎているとは思う。あと、PKを下に蹴る選手が多かったのも印象的(ニッポンもそうだったが)。一時期、上に速いボールを蹴れば読まれても止められないとして、上に蹴る選手が増えたと思っていたが、今は明らかに下が多い。きっと根拠があるのだろう。ともあれ、ハンドによるPKと、PK戦はルール再考の余地があると思う。
●内容的にもアルゼンチンが勝者にふさわしいと思っていたので、PK戦に勝ってくれてよかった。メッシが自身に唯一欠けていたタイトル、ワールドカップ優勝を手にしたのもうれしい。35歳なので最初で最後の優勝だろう。メッシはマラドーナも含めて歴史上最高のプレーヤーだと思うが、あまりにも傑出しているがゆえに、不合理な批判にさらされることが多かった。重圧から解放され、セレモニーで家族と一緒に喜びあう姿が印象的。そして、なぜかセレモニーに加わっているフランスのマクロン大統領。はっきり言って、場違いだ。

アルゼンチン 3(PK4-2)3 フランス
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★★★

December 15, 2022

フランスvsモロッコ スーパースターの大会 ワールドカップ2022 準決勝

フランス●もうひとつの準決勝はフランス対モロッコ。前回王者のフランスはグループリーグから圧倒的な強さを見せながら順当に勝ち上がってきた。モロッコはアフリカ勢として初のベスト4進出。というよりはアラブ勢として、というべきか。場内は完全にモロッコ・ホームで、フランスがボールを持つとブーイングが出るほど。
●フランスはラビオとウパメカノのふたりが不在、モロッコはアマラーとアティヤットアラーがベンチスタート。モロッコはセンターバックを3枚にして5バックでブロックを敷く布陣。ニッポンがドイツやスペイン相手に成功を収めた試合を思い出させるが、開始早々の前半5分にいきなり失点してしまう。ゴール前の混戦からエムバペのシュートがこぼれたところに、テオ・エルナンデスが浮き球を鮮やかなボレーで決めて、フランスが先制。
●早い時間帯の失点はモロッコにとって大誤算だったと思うが、その後、センターバックのサイスが負傷交代して4バックに変更。本来の4バックのほうが中盤の厚みも増し、モロッコは攻撃が機能し始める。これを見ると、最初からいつも通り4バックにしていればと思わなくもないが、一方でフランスが先制していたのでモロッコにボールを持たせたとも言える。フランスになんどか決定機が訪れたが、モロッコは前半を1失点で耐えた。モロッコは前半45分、エルヤミクによるアクロバティックなオーバーヘッドシュートが最大の見せ場。枠をとらえていたが、フランスのキーパー、ロリスがファインセーブ。
●後半はモロッコがボールを持ち、フランスがカウンターを狙う展開に。フランスはジルーを下げてテュラムを投入。あのフランス大会でフランスが初優勝したときのリリアン・テュラムの息子だ。父は名ディフェンダーだったが、その父のアドバイスでフォワードになったのだとか。やはりアタッカーのほうが脚光を浴びるからなのか。後半34分、左サイドのテュラムからパスを受けたエムバペがゴール前の密集地帯をすり抜けるようなドリブルで突破、シュートが相手ディフェンダーに当たって右に流れたところに、途中交代で入ったばかりのコロ・ムアニが楽々と押し込んで追加点。コロ・ムアニはファーストタッチがゴール。これで勝負は決まり。2対0でフランスが完勝。あと一歩で1950年以来のヨーロッパ不在の決勝戦が実現するところだったが、フランスが強すぎた。
●決勝はアルゼンチン対フランス。波乱の多い大会と言われたが、最後はみんなが見たいカードが実現したのでは。モロッコが決勝まで勝ち進めばカタール大会が「アラブの大会」として記憶される可能性もあったわけだが、どうなんだろう、ヨーロッパの人々にはほっとした気持ちもあるんじゃないだろうか。
●今大会、異例の秋開催のため、各国とも準備期間がほとんど(あるいはまったく)なく、ぶっつけ本番ワールドカップのようになった。だから波乱が起きるのではないかと予想していたが、準備期間がないからこそ(そしてシーズン中でコンディションが万全だったからこそ)、アルゼンチンのメッシとフランスのエムバペという突出した個の能力で試合が決まった感が強い。決勝はメッシとエムバペのスーパープレイの応酬になればおもしろいが、だいたいは堅い試合になるんすよね。

フランス 2-0 モロッコ
娯楽度 ★★
伝説度 ★

December 14, 2022

アルゼンチンvsクロアチア 王様と従者たち ワールドカップ2022 準決勝

アルゼンチン●異例の秋のワールドカップもとうとう準決勝。アルゼンチン、クロアチア、モロッコ、フランスの4チームが残った。ここからは一日一試合のみの開催で、まずはアルゼンチン対クロアチア。ともに中心選手が明確で、アルゼンチンは4-4-2でトップにメッシ、クロアチアは4-3-3で中盤にモドリッチがいる。両者はまったく対照的で、メッシは多くの時間を歩いており、前線からの守備にエネルギーを浪費しない。一方、モドリッチは神出鬼没で、ビルドアップの場面にはディフェンスラインに加わる形で最後方からチームをサポートし、一方で前線にも顔を出してプレスにも参加する。後ろにも前にもいるモドリッチ。
●前半はお互い慎重で膠着状態が続いたが、前半32分から一気に試合が動く。アルゼンチンのフェルナンデスから浮き球の縦パス一本に抜け出たアルバレスが、飛び出してきたキーパーのリバコビッチとぶつかってPK。この判定にクロアチア側は納得がいかないようだが(VARもなかった)、メッシがPKを決めて先制。ここまでPK阻止で大活躍してきたリバコビッチだが、メッシは右上にズドンと蹴り込んだ。人類には絶対に止められないというコースとスピードなので、キーパーの技術も読みも関係なく決まる。さらに前半39分、相手コーナーキックからアルゼンチンがカウンターアタック、ハーフウェイライン手前からアルバレスが大爆走。左にフリーの選手がいたが、中央を突進、相手ディフェンスに2度もボールを触られながらも、その度にボールがアルバレスに帰ってきて、そのままシュート。ややツキもあったが、これで2点目。
●粘りのクロアチアもさすがに前半で2点を奪われると、動きが重い。選手たちの疲労も蓄積しているようで、高さの勝負に頼りがち。次々と交代選手を投入するがゴールが遠い。後半24分、メッシが右サイドからドリブルで深い位置まで斬りこんで、折り返したところをアルバレスが楽々とゴール。3対0でアルゼンチンが完勝した。
●アルゼンチンも5人の交代枠を使い切って選手を入れ替えるんだけど、35歳のメッシは下げない。なるほどと思ってしまった。走らないメッシを下げるよりも、メッシの分まで走り回らなきゃいけない選手たちを下げて、次の試合にフレッシュな状態にしておくことのほうが大切だというのは理にかなっている。メッシという超越的な異能を前提としたアンチ・モダンフットボール。それでペナルティエリア内の細かいパス交換とかドリブル突破など、ファンが見たいスペクタクルを見せてくれたのだから言うことなし。メッシ時代以降、アルゼンチン代表はあまりにメッシ依存度が高く、もっと別の戦い方のほうが強いんじゃないかと疑っていたが、アルゼンチンは2014年ブラジル大会以来の決勝に進出した。

アルゼンチン 3-0 クロアチア
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★

December 11, 2022

モロッコvsポルトガル イベリア半島制圧 ワールドカップ2022 準々決勝

モロッコ●ワールドカップ準々決勝二日目、スペインをPK戦の末に制したモロッコは、今度はポルトガルと対戦。ジブラルタル海峡を渡りイベリア半島へと進撃するモロッコ。スペイン戦と同様、相手にボールを持たせて、堅い守備を武器にカウンターをくりだす試合展開に。ポルトガルは前の試合に続いてクリスティアーノ・ロナウドがベンチ。前のスイス戦で代役の若いゴンサロ・ラモスがハットトリックの大爆発を見せたのだから、勢いのある若手をそのまま先発させるのはフェルナンド・サントス監督ならずとも自然な考え方だろう。
●ポルトガルは技術が高く、スペインよりも攻撃のアイディアが豊富。モロッコのディフェンスをたびたび脅かすが、決めきることができない。押され気味のモロッコだったが、前半42分、左サイドからアティヤットアラーがクロスボールを放り込むと、中央でジャンプしたエンネシリが驚異的に高い打点からヘディングで合わせて先制ゴール。ニッポンが失点した場面にも言えることだが、クロスを入れる選手に対してノープレッシャーだと、本当に中でドンピシャで合ってしまう。この後、ポルトガルはクリスティアーノ・ロナウドらを投入し、惜しいチャンスをなんども作ったが、守ると決めたモロッコは堅い。そのまま1点を守って逃げ切った。モロッコの、そしてアフリカ勢の初のベスト4進出が決まった。ここまで劇的な試合が多かっただけに、この逃げ切りはやや味気ない気もしたが、実際にはワールドカップは先に進むほどこういう試合が増えるのが常か。
●過去21回の歴代ワールドカップを振り返ると、2度の例外を除いて、欧州/アフリカで開催した場合は欧州が優勝し、北中南米/アジアで開催した場合は南米が優勝している(例外は1958年スウェーデン大会のブラジル優勝と2014年ブラジル大会のドイツ優勝)。今回はアジアなので南米優勝の可能性が高いという見方もできるが、カタールがアジアなのはFIFAの分類にすぎないわけで、初めてのアラブ世界での開催とみなせば、アラブの一員であるモロッコこそが優勝にふさわしいのかもしれない。

モロッコ 1-0 ポルトガル
娯楽度 ★★
伝説度 ★★★

December 10, 2022

クロアチアvsブラジル 延長戦の王者 ワールドカップ2022 準々決勝

クロアチア●ニッポンと引き分けてPK戦で準々決勝に進出したクロアチアは、ブラジルと対戦。前の韓国戦では4対1のお祭りサッカーをくりひろげたブラジルだが、この試合はまったく違った渋い展開になった。クロアチアは意外と前線からプレスをかけてくる。個々の守備能力が高く、ブラジル相手に一歩も引くことのない戦いぶりで、なんと前半はボール保持率でブラジルを上回った! 時間帯によってはブラジルがブロックを敷いて守る場面もあったほど。運動量も豊富。
●クロアチアはやはりモドリッチが獅子奮迅の働き。今大会、ニッポンは4バックのところを3バックにして(つまりセンターバックを1枚増やして)強豪と対戦していたが、そこには後ろを一枚増やさないとボールを持てない、ビルドアップができないという事情があったと思う。クロアチアの場合はどうするかというと、中盤のモドリッチがバックラインに入ってビルドアップに参加する。ブラジルはネイマールが守備をしないので、モドリッチはネイマールの近くでボールを持つと、余裕を持って前にボールを供給できるのだ。その一方、ブラジルがディフェンスラインでボールを持っているときには、気がつくとモドリッチが前線にいて、相手にプレッシャーをかけていたりする。前に行ったと思ったら、後ろに帰ってくる。モドリッチが戻りっち。これがクロアチアの生命線。
●しかし、後半の後半あたりからさすがのクロアチアにも疲れが見え、次第に耐える展開に。モドリッチが戻れないっちになる。キーパーのリバコビッチのファインセーブもあって、かろうじて持ちこたえたものの、延長戦に入るともはや限界に。ブラジルの華麗なパス回しから中央突破したネイマールがキーパーを交わして、先制ゴール。これで決まりと思った試合だったが、延長後半12分、オルシッチがドリブルでペナルティエリア左に侵入、折り返したところをペトコビッチがシュート。これが相手ディフェンスに当たって角度が変わり、ゴールに吸い込まれた。もう執念のゴールと呼ぶしか。ブラジルにとっては不運な失点。1対1の同点。
●PK戦ではクロアチアが有利な先攻をゲット。ブラジルは最初のロドリゴと4人目のマルキーニョスが失敗。日本戦に続いてまたしてもPK戦でリバコビッチがヒーローになった。それにしてもクロアチアのメジャー大会における延長戦突入率の高さと、その突破率は相当なものでは。この後もすべて延長PK戦で優勝してくれたら最高だ。そもそもクロアチアはこの大会で1勝しかしていない。5試合やって、1勝4引分け(記録上、PK戦は引分け扱い)。カナダに1勝しただけで優勝したら……それは伝説。
●ちなみにもう一試合、オランダ対アルゼンチンはやはり延長PK戦でアルゼンチンが準決勝に進出した。この試合はかなり荒れた内容になった。アルゼンチンが2点リードして何事もなく終わりそうだったのが、選手同士の余計な揉め事をはさみながら、オランダが2点を追いついた。PK戦でも選手間の挑発などがあったようで、詳しいところまではわからない。
●今回、ABEMAが全試合無料ネット配信してくれたのはありがたいのだが、ライブでは高画質なのに、見逃し配信だと画質がいまひとつ。なので深夜の試合はなるべくテレビ中継の録画を観たいのに、全部の試合は放送してくれない。クロアチアvsブラジル戦はテレビ放映があったが、オランダ対アルゼンチンはABEMAのみ。ABEMAに見逃し配信でも高画質になる有料オプションがあればいいのにと思うが、そういうものは見当たらない。

クロアチア 1(PK4-2)1 ブラジル
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★★

December 8, 2022

モロッコvsスペイン ジブラルタル海峡対決 ワールドカップ2022 ラウンド16

モロッコ●さて、ワールドカップはベスト8が出そろった。ラウンド16のモロッコ対スペイン戦は、延長戦まで戦って0対0。PK戦になって、なんと、スペインは3人連続失敗して大会を去ることになった。PK戦といえばニッポンもこれでクロアチアに敗れたわけだが、スペインのルイス・エンリケ監督は試合前に「選手たちに大会に向けてPKの練習を1000本するように命じてある」といい「PKはクジではない。練習すればうまくできる」と豪語していたという。それでもスペイン代表の名手たちが全員外してしまうのがPK戦。ルイス・エンリケ監督の発言こそが、逆説的にPK戦はクジであることを示しているようにも思う。
●しかも、なにがカッコ悪いかといえば、ルイス・エンリケ監督は延長戦の終盤で途中交代で出場していたニコ・ウィリアムズを下げて、わざわざPK戦要員としてパブロ・サラビアを投入していたのだ(そして彼は一人目に蹴って失敗した)。ニコ・ウィリアムズはチャンスを作っていただけに、この策はなんとも間が悪い。そしてニコ・ウィリアムズはもう監督を信頼しないだろう。PK戦について確実に言えることは、統計的に先攻が明白に有利であるということくらい。
●で、試合内容だが、モロッコは5バックこそ敷かなかったものの、ニッポン対スペイン戦を参考にしたかのような戦いぶりだった。試合序盤からスペインにボールを持たせて、自陣にブロックを敷いて、粘り強く守りながらカウンターのチャンスを狙う。ボール支配率もパスの本数も成功率もスペインが圧倒的に高かったのだが、実際には数字とはうらはらに五分の戦いだと感じた。というのも、スペインに決定的なチャンスをクリエイトする力が不足しており、むしろモロッコのほうが質の高いチャンスを作っていた。120分で、スペインの枠内シュートはセットプレイからの2本だけ。同じパスサッカーをしていると言っても、かつてのシャビやイニエスタがいた「ティキタカ」全盛期とはだいぶ違っている。内容的にはニッポン戦よりも低調だったかも。
●これでアフリカ勢が一か国だけベスト8に残った。もっとも「アフリカ勢」という呼び方にどれだけ意味があるかとは思う。4年前のワールドカップ2018ロシア大会テレビ観戦記にも書いたことだが、アフリカのヨーロッパB化が進んでおり、アフリカといってもヨーロッパの育成組織の出身だったり、そもそもヨーロッパの生まれや育ちだったりする一方、ヨーロッパの主要強豪国はアフリカにルーツを持つ最高の選手たちを代表選手に迎えている。象徴的だったのは、グループステージでのスイス対カメルーン戦。スイス代表のエンボロがゴールを決めた瞬間、ぐっとこらえて歓喜のポーズを自制した。この選手のことを知らなかったけど、なにが起きたかはすぐに察した。エンボロはカメルーン生まれの選手なのだ。子供の頃にフランスに移り、その後、スイスで暮らしている。スイスとカメルーン、どちらの代表になることもできただろうが、スイス代表を選んだ。そして、大舞台で母国と対戦することになり、決勝点となるゴールを決めた。ニッポン代表の選手たちがよく言う「国を背負って戦う」という概念がここではかなり複雑化している。
●ベスト8の対戦カードはクロアチア対ブラジル、オランダ対アルゼンチン、モロッコ対ポルトガル、イングランド対フランスに決まった。モロッコはスペインを破って、さらにポルトガルと対戦するのがおもしろい。この勢いで優勝しないだろうか。異例づくめのカタール大会だけに「初優勝国」が誕生するのではないかと期待している。ちなみにモロッコ代表を大会前まで率いていたのは、かつてニッポン代表監督を解任されたハリルホジッチで、主力選手との確執から今年8月に解任された。それでレグラギ新監督が快進撃をしているわけで、どうにもハリルホジッチという人はついていないと言うべきなのか、それともそうなってしまう必然があると考えるべきなのか……。

モロッコ 0(PK3-0)0 スペイン
娯楽度 ★
伝説度 ★★★

December 6, 2022

ニッポンvsクロアチア ふたたびPK戦に阻まれる ワールドカップ2022 ラウンド16

ニッポン!●最近、夜更かしはしない主義だったが、ライブでテレビを観る。午前0時からの試合だけど、2時には終わってくれないんすよね、延長PK戦に入ると。だが、試合中に眠くなる瞬間は訪れなかった。決勝トーナメント一回戦、ニッポンは前回準優勝のクロアチアと対戦。クロアチアは37歳のモドリッチが中心選手として健在。団結力がありチームとして戦うという点で、ニッポンと似たタイプ。優勝も狙える強豪ではあるが、個の力ではグループステージで戦ったスペインやドイツほどではない。
●だから、もしかすると森保監督は4バックに戻して、多少攻撃的な布陣にするかも、と期待していた。センターバックの板倉が出場停止で、右サイドバックの酒井が初戦以来ケガから復帰しているので、4バックだとセンターバックを吉田と冨安、あるいは冨安がまだ万全でなければ吉田と谷口で組める。その場合は左ウィングに三笘を先発させるかも……。が、森保監督は現状で機能している布陣を優先する方針で、3バック(5バック調)を採用。GK:権田-DF:冨安、吉田、谷口-MF:伊東、遠藤、守田(→田中碧)、長友(→三笘)-堂安(→南野)、鎌田-FW:前田(→浅野)。序盤は5バック調だったので、ほとんどの時間帯でクロアチアにボールを持たれる展開。相手が攻撃に人数をかけていないのに引きすぎだと思ったが、次第に両サイドの長友、伊東が高い位置まで上がるシーンが増えて、ニッポンもボールを持つ時間が増えるようになる。クロアチアも慎重。しかし前半43分、ニッポンのショートコーナーから堂安が入れたクロスにファーサイドで吉田が折り返したところに、すばやく反応した前田が蹴り込んで先制。とてもよい時間帯の先制点で、クロアチアとしては大誤算だったはず。
●しかし後半10分、クロアチアは右サイドからロブレンがクロスを入れると、これをペリシッチが頭で合わせて同点ゴール。サイドを深いところまでえぐられたわけではなく、なんでもないクロスだったのだが、クロスを上げる選手にプレスをかけなかったため、すごい精度のボールが飛んできてしまった。これはスペイン戦の失点とまったく同じ。この日の悔やまれるプレーはここだけ。その後、一進一退の状況が続き、途中出場の三笘が長い距離をドリブルして惜しいシュートを放つなど見せ場は作ったが、得点には至らず。途中出場の浅野、南野もインパクトを残せない。どちらがゴールを奪ってもおかしくない状況だったが、延長戦に入ると互いにリスクをとらずペースダウンして、PK戦へ。
●ニッポンは統計的に有利な先攻だったが、いきなり南野、三笘が続けてセーブされ、浅野は決めたが、4人目の吉田までセーブされてしまう。枠を外すのではなく、3人もキーパーにセーブされてしまったのだから、これはもうクロアチアのキーパー、リバコビッチの鬼セーブを称えるしかない。クロアチアはワールドカップでもEUROでもいつも延長戦までもつれこんでいる印象があり、相手の型にはまったという気もする。2010年南アフリカ大会のパラグアイ戦と同じく、ニッポンはPK戦にベスト8を阻まれた。PK戦の本質は抽選であり、試合の勝敗としては引分けなので、クロアチアに「負けた」という感覚はない。「勝てなかった」というのが実感。こうなったらクロアチアに優勝してほしい。モドリッチはすでに伝説だが、37歳で優勝したら新たな伝説が誕生する。
●ニッポンの今大会、冨安を筆頭に遠藤、酒井などコンディション面でやりくりが苦しかった。絶対的エースと期待された南野の今シーズンの不調も誤算。谷口、長友にここまで出番が回ってくるとは。守田も本調子には遠い様子。それでもトータルでは史上最強チームだったと思う。5人交代制、VARといった新しいルールを味方につけた戦いも印象に残った。そして、個々の選手が普段から欧州の高いレベルでプレイすることが強化の王道だと改めて感じるとともに、その礎となるのはJリーグのレベルアップであり、中田英寿のいにしえの名言「Jリーグもよろしく」は今なお真実。
●その後のもう一試合はブラジルが韓国に4対1で圧勝。これで決勝トーナメントに進出したオーストラリア、日本、韓国がそろって敗退。明日、モロッコがスペインに勝たない限り、ベスト8は「欧州選手権+ブラジル・アルゼンチン」という毎度おなじみの顔ぶれになって、ここまでの波乱などきれいさっぱり忘れられてしまいそう。

ニッポン 1(PK1-3)1 クロアチア
娯楽度 ★★★★
伝説度 ★★

December 4, 2022

アルゼンチンvsオーストラリア アジア勢の健闘はどこまで? ワールドカップ2022 ラウンド16

●ワールドカップ2022カタール大会は決勝トーナメントに入った。開催国カタールがまったくいいところなく敗退してしまったが(アジア・カップではあんなに強かったのに)、アジアからはオーストラリア、日本、韓国の3チームがグループステージを勝ち抜いた。アジア勢3チームは史上初。敗退したサウジとイランもそれぞれアルゼンチン、ウェールズに勝利しており、これまでのようにアジアは「やられ役」にはなっていない。特に韓国の第3戦はポルトガルに勝利した上で、もうひとつの試合が理想的な結果に終わってくれて大逆転での決勝トーナメント進出で、これにはびっくり。もちろん最大の驚きはニッポンがドイツとスペインに勝って1位通過したことだが。あと、3戦全勝が1チームもない。
●16強の内訳は欧州8、アジア3、南米2、アフリカ2、北中米1。アフリカも健闘している一方、南米はブラジル、アルゼンチンのみ。北中米1はいつものメキシコではなくアメリカだ。
アルゼンチン●で、ここからは一発勝負。ラウンド16のアルゼンチンvsオーストラリア戦は、予想通り、アルゼンチンが攻めてオーストラリアがブロックを敷いて守る展開。オーストラリアはファジアーノ岡山のフォワード、ミッチェル・デュークがこの日も先発。J2の選手がワールドカップに出場し、さらに決勝トーナメントで戦っているという未来がここに。ディフェンスのミロシュ・デゲネクも元マリノスの選手。アルゼンチンはやはり35歳になったメッシが中心のチーム。メッシはおおむね歩いている。代わりに他の選手が走る。アルゼンチンはそういうサッカー。前半35分、縦パスを受けたオタメンディがワンタッチで落としたところにメッシが左足を振り抜いて先制ゴール。オーストラリアは前半をこの1失点で凌いだ。
●後半、オーストラリアは前線へプレスをかけ、前に出る。ところが後半12分、前線へのプレスを実らせたのはアルゼンチンのほう。メッシは歩いていても他の選手が走るのだ。デパウルがディフェンス・ラインにプレスをかけ、オーストラリアのキーパー、ライアンがバックパスの処理をわずかに誤って前にボールが流れたところをアルバレスが奪って、ゴールに流し込んで2点目。ふたりの連動したプレスから相手のミスを誘った。悔やまれるのはオーストラリアのキーパーのライアンで、バックパスをそのままダイレクトで蹴り返せばなんでもなかったところを、甘いトラップを刈られてしまった。
●後半32分、オーストラリアはグッドウィンの思い切り打ったシュートが相手ディフェンスにリフレクトしてゴールに入って1点を返す。ここからパワープレイを交えながらオープンな攻め合いになったが、今のオーストラリアは一昔前と違って案外とパワープレイがうまくない。むしろときどき爆発的に躍動するメッシが脅威を与えていた。終了直前にゴール前の混戦からクオルにビッグチャンスが巡ってきたがこれを決めきれず、アルゼンチンが2対1で勝利。アジア勢にはここからの壁が高い。

アルゼンチン 2-1 オーストラリア
娯楽度 ★★★
伝説度 ★

December 2, 2022

ニッポンvsスペイン 伝説はくりかえす、コピペのように ワールドカップ2022 グループE

ニッポン!●朝4時からの試合を5時半から追っかけ再生で観戦した。グループEはすべてのチームに決勝トーナメント進出のチャンスがある状況で、ニッポン対スペイン戦とコスタリカ対ドイツが同時キックオフ。コスタリカ戦で敗れて意気消沈したが、ここでニッポンとコスタリカが勝利すればそろって勝ち抜け、スペインとドイツが敗退するわけで、ひそかにそんな事態を夢見ていた。なにせ大会前はだれもがグループEは2強2弱の無風区と決めつけていたのだから。
●試合は奇妙なくらいドイツ戦と似た経緯をたどった。ただしニッポンは最初からセンターバックを3枚にして3バック、いや、もう完全に5バック。左の長友はともかく、右のウィングバックと思われた伊東までディフェンスラインに吸収されている。中盤のキープレーヤー遠藤はベンチ、冨安もベンチで、谷口がセンターバックの一員として大会初出場。GK:権田-DF:伊東、板倉、吉田、谷口、長友(→三笘)-MF:田中碧(→遠藤)、守田-久保(→堂安)、鎌田(→冨安)-FW:前田大然(→浅野)。
●前半は一方的なスペインペース。開始早々に高い位置で奪って伊東がシュートを打つなどチャンスはあったが、以降はひたすら耐える展開。前半11分にスペインはモラタのヘディングシュートであっさり先制。完全に右サイドバックの位置まで下がる伊東。前田はプレスをかけるだけで疲弊する。センターバック3人が3人とも前半のうちにイエローカードをもらう厳しい展開。スペインの攻撃を凌いで、ようやくボールを奪っても、それが次につながらない。この相手にはもう一段階、技術に精度がないとボールが持てない。前半だけで3失点くらいしてもおかしくない内容で、ドイツ戦と同様、1失点で済んだのは運もあったと思う。
●後半、森保監督は長友を三笘に、久保を堂安に交代。前線からのプレスがはまり、後半開始早々の3分、右サイドから中に入った堂安の豪快なシュートが相手キーパー、シモンの手をはじいて同点ゴール。得意の形。これもドイツ戦の再現のよう。さらに後半6分、堂安のパスにファーサイドでゴールラインぎりぎりで追いついた三笘が折り返し、中央に走り込んだ田中碧が押し込んで逆転!……なのだが、これはゴールラインを割っていたように見えたので、VARでゴールが取り消されるはずだと思った。どう見てもラインを割っていたように見えたので、こちらも喜ぶことなく冷静に待っていたら、な、なんと、VARの結果ゴールが認められた! ええっ。が、これはもちろんビデオで確認したのだから判定は正しいのだ。肉眼ではラインを割っているように見えても、上から見ればボールの端がわずかながらラインに残っていたっぽい。ビデオ判定がなければ認めてもらえなさそうなゴールで、これはテクノロジーの恩恵。
●さすがのスペインも逆転されると前半がウソのように動きが悪くなり、しばらく一進一退の時間帯が続く。スペインは選手交代で攻勢を強め、ニッポンは遠藤、冨安といった守備のキープレーヤーを投入。終盤はふたたび一方的にスペインが攻める展開になったが、ニッポンは権田の好セーブもあって守り切った。まさかの逆転勝利、ドイツ戦の再現。ニッポンはグループ1位で決勝トーナメント進出を決めた。ニッポンのボール保持率は17.7%。これはワールドカップ史上、もっとも低い保持率での勝利なのだとか。かねてよりボールを保持するスタイルを「自分たちのサッカー」に掲げていたチームが、保持しないことの有利さを大舞台で証明するとは。
●コスタリカ対ドイツ戦も、前半終了時にはドイツがリードしていたが、後半にコスタリカが逆転する時間帯があった。そのわずかな時間、ニッポンとコスタリカが進出、スペインとドイツが敗退するという順位が実現していたのだが、ドイツが追い付き、さらに逆転してしまった。ドイツがしぶとく勝ってくれたおかげで、スペインは負けても2位通過できるという状況だったので(しかも2位通過のほうが後の対戦相手が楽)、最後の最後はスペインも無理をする必要はなかった。もっとも、ピッチ上の選手たちはコスタリカが逆転したことも、ドイツが再度逆転したことも知らなかったかも。逆にドイツの選手たちは、まさかニッポンがスペインに勝つとは思っていなかっただろうから、勝利したのに敗退が決まったことをすぐには受け入れられなかったかもしれない。

ニッポン 2-1 スペイン
娯楽度 ★★★★★
伝説度 ★★★★★

December 1, 2022

イランvsアメリカ クラシックvsモダン ワールドカップ2022 グループB

イラン●ふう。今日は純粋にサッカーの話題だ。今回のグループステージでも必見のカード、イラン対アメリカ。もともと両国の関係から注目度の高い試合だが、両チームとも勝てばグループステージ突破が決まるという熱い状況での対戦になった。地の利を生かしてイランは観客席を味方につけるが、案外とアメリカのサポーターも多いのが驚き。ワールドカップならではのひりひりするようなタフなゲームになった。主審も簡単には笛を吹かないジャッジ。見ごたえのある試合に。
●両チームのカラーは対照的。イランはケイロス監督が復帰したのがはたしてよかったのかどうか……。堅守速攻のクラシカルなスタイル。開始早々こそ観客席に後押しされて攻め合いになったが、すぐに守りの姿勢に。一方、アメリカはコレクティブなモダン・サッカー。全員が欧州のクラブに所属し、ビッグクラブの選手も何人かいるうえに、全体が若く、スピードも運動量もある。前回対戦したときに感じたことだが、わりとニッポンと似ている(そのときはこちらが一枚上手とは思ったが)。イランは守ってボールを奪っても、周囲の選手のサポートが少なく、攻撃がつながらない。トップのアズムンの運動量があまりに乏しい。次第にアメリカの攻撃に耐えられなくなり、前半38分、プリシッチに決められて失点。
●後半頭からイランはアズムンを下げてサマン・ゴドスを投入。最初からこうすればよかったのに。タレミが核となって攻める。アメリカは後半半ばから5バックにして守り切る姿勢にチェンジ。高さとパワーで勝るイランはロングボールを用いながら、猛攻を繰り出す。ただ、これが拙攻気味で、プレイが雑なのと、選手の連動性が足りないために、決定機が少ない。気になったのは終盤になるとイランが主審のほうを向いてプレイすること。この状況で不要なアピールは損なのに。結局、アメリカが逃げ切った。イランはアジアではめっぽう強い反面、ワールドカップは6度目の挑戦にして一度も決勝トーナメントに進出できていない。中東中心の「アジアの戦い」に最適化しすぎていて、FIFAの「世界の戦い」になると勝手が違うのかな……と思わなくもない。ともあれ、アジアの好敵手イランが勝利できなかったのは本当に残念。アジア勢ではいちばん可能性が高いと期待していたのだが。

イラン 0-1 アメリカ
娯楽度 ★★★
伝説度 ★

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