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  Wonder Jukeな日々
ある日、そのオファーはやってきた。「クラシック音楽ネット配信サービスのディレクターをしてみませんか?」。Wonder Jukeクラシックで未開の地を切り開く(笑)、山尾敦史の奮戦記。ほぼ隔週更新連載中。



文=山尾敦史

 


連載第9回山尾、他人の秘密はのぞきたいものだ、と思う

 いえ、別にね、隣の家のことを言っているんじゃございませんで、もちろん音楽の話題。たとえばオーケストラのリハーサル。指揮者はどういう音楽のとらえ方をし、オーケストラはそれに答え、また抵抗するものなのか。リハーサルというものが行われている以上、それを見たい(または聴きたい)と思うのは人の常であり、またそうすることでトンチンカンな視点による「思い込みの身勝手な演奏会評価」を避けることができるだろう。また、ステージに登場する演奏家たち以外にもスタッフはいるはずだが、その人たちはいったい何をしているのか。どんな仕事をして、どんな苦労をしているのか。今、他人の仕事術に関する書籍がベストセラーになっているのだけれど(『仕事力』『プロ論』などなど)、オーケストラもひとつの会社と同じなのであり、そう考えればいろいろな役割のスタッフが働いていてもなんらおかしくないわけで、そういう好奇心も芽ばえてこようというものだ。演奏会で配布されるプログラムには、オーケストラのメンバー表と共に、スタッフの役割と名前も記されているが、それぞれが何をやっているのか、そしてその仕事が演奏をする音楽家たち(=オーケストラ)に影響を与えているものなのか。
 
 そういった好奇心いっぱいで、のぞき見根性を生かした企画をやろうと思い、『音楽の友』誌で「神楽坂調査団、北へ南へ」(あれ?「東へ西へ」だっけ。自分でタイトルを付けておきながらいつも忘れるのである。東へ西へは井上陽水か)という連載をやらせていただいたこともあった。この連載はあわよくば、どの媒体でもいいから復活させようと、今でも虎視眈々と狙っているのだけれど、いち早くWonder Juke Classicでやってみたのが「こちら、東京フィル特捜部!」という企画である。題名の通り、まな板の鯉になっていただくのは、天下の「東京フィルハーモニー交響楽団」。WJCでは、スタートの当初から東京フィルのコンサート音源を配信しており、今回は“相乗り”という形で、東京フィルの広報メディアとしても活用してもらおうという腹づもりだ。リハーサル潜入や楽員さんの直撃インタビュー、それも演奏や楽器のことからプライベートに至るまで掘り起こし、返す刀で事務局へと潜入して「あなたはどなたですか?何の係ですか?どれだけおもしろい仕事をしていますか?」と聴きたおす。ああ、考えているだけで楽しい。
 
 しかし現実は往々にして。自分の頭の中で理想的に物事が運ぶようにはできていない。オーケストラにも企業秘密というものがある。すべてがうまくいっている場合はいいが、中には「ああ、今日はリハーサル室でスコアとかヴァオリンの弓とか、指揮棒とかタンブリンなんかが乱れ飛ばなくてよかったぜ」という日だってあるのだ。あ、これは冗談です。指揮者もオーケストラも紳士淑女なのでそんなことはしません。ときどき怒号が飛び交うくらいです……って書くと、本当にそうなんですか?と真顔で聞いてくる人がいるので、否定しておきます。冗談ですから。気まずい空気が流れたリハーサルって、僕は2回くらいしか見たことがありませんし。
 ともあれ、この企画がどこまでオーケストラというものの中心部に迫れるのか、(あまり例を見ないことだけに)やってみたい。そして理想を抱くのが許されるのなら、リハーサル時の音声や動画を配信したり、舞台裏で働くスタッフの様子を動画で見ていただいたりすることで、オーケストラというものをもう少し理解してもらえるに違いないのだ。
 
 ともあれ、そのとっかかりとして、オーケストラが使う楽譜を用意している「ライブラリー係」の仕事をレポートさせてもらった。東京フィルの本拠地は初台にある東京オペラシティであり、リハーサル室も地下にある。そしてそのすぐ横、声をかければいつでも楽譜が出てくる部屋に、ライブラリー係はある。楽譜でいっぱいの倉庫みたいにむさいところかと思いきや、行ってみたらなぜかディズニーグッズでいっぱい。しかも、見たことのないような道具類が並び、「あれ?部屋間違えたかな」と思ってしまうような光景だった。しかしそれは、間違いなく「ライブラリー係」の部屋だったのだ。こういう意外性こそが、潜入取材の醍醐味だったりするのである。さて、このあとはどうなっていきますか。

[次回につづく]


[Wonder Juke クラシックとは?]
So-netが提供するクラシック音楽の本格的ネット配信サービス。クラシックではかつてない本気度の高さだが、これでビジネスになるのかと業界関係者が固唾を飲んで注目中というウワサ。本格なので有料(毎月約700円で聴き放題)。

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◎バックナンバー
第8回山尾、選曲の秘密を(ちょっとだけ)語る
第7回
山尾、簡易録音の音質に驚く
第6回
山尾、ネット配信の認知度を考える
第5回
山尾、WJCユーザーの姿を見誤る
第4回
山尾、定番ラインナップ構築をあなどる
第3回
山尾、驚喜乱舞を経て大口を開ける
第2回
山尾、ワンダージュークのなんたるかを知る
第1回
山尾、ワンダージュークに出会う


[Wonder Juke NOW!] ■New!
1)足立桃子さんの、WJCでしか聴けない演奏。第3弾は1999年に収録したエルンスト・オッテンザマー(ウィーン・フィルのクラリネット奏者)とのデュオ・リサイタルほかを。
2)暑い夏にぴったりのBGMを集めた「涼風1時間の音楽旅行」も配信。8月は、これでのりきってください。
3)Hakujuホールからのコンサートは、古楽ファン待望「アントネッロ」による楽しいリコーダー+ハープ・コンサート。そして新日本フィルでコンマスを務める豊嶋泰嗣さんのリサイタル。

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