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決勝トーナメント


フランス 0 - 1 セネガル
開幕戦。「魔法使い抜きの王者」対「魔法使いの弟子」。
満足度
★★★★★
伝説度

●ついにワールドカップ2002コリア・ジャパンが開幕したのだ。この湧き上がる期待感はなに? つい先日までチケット問題に翻弄され、気持ちがすっかり萎えていたのがウソのようである。王者フランス代表の勇姿を見よ……。あれれ、このメンバーはまるで4年前。ジダンの不在が印象的なのではない。プティ、ジョルカエフの存在が印象的なのだ。もはやクラブ・レベルでスーパースターとはいいがたいベテラン選手たち。こうなるとデサイー、ルブフのセンターバックも心配に思えてくる。
●セネガルの選手は全員フランス・リーグでプレイする。同じフランス語を話す、フランス代表対プチ・フランス。セネガルのエース、ディウフが左サイドでスピードと個人技でルブフを置き去りにする。クロスボールはデサイーの足にあたり、角度が変わったところにもどってきたプティが自分のゴールへと蹴る、それをバルテズがかろうじて触り、フランスにとって不運に不運が重なった末、ゴール前で横たわるブバ・ディオップの足元へ。これがセネガルのゴールとなる。
●これは魔術である。ゴールを決めたブバ・ディオップはユニフォームを脱いでコーナーフラッグのそばに置き、集まった選手たちはユニフォームを取り囲み、輪になってアフリカ流のダンスを踊る。これは世界王者を倒すための秘儀なのだろう。名前だってブバ・ディオップだ。魔術師にふさわしい。
●大魔法使いたるジダンを欠いたフランス代表は世界一の優等生集団にしか見えなかった。アンリ、トレゼゲ、ヴィトールあたりの爆発的なプレイが見たかったが、無理をせず受けて立った。フランスのシュートのいくつかがバーを叩いた。不運ともいえるが、本質的には魔術を忘れた魔法使いが、才能溢れる弟子に敗れたということではないか。王者にはこの後、ウルグアイとデンマークに対する二連勝が要求される。(5/31b)

アイルランド 1-1 カメルーン
前半、アフリカの躍進。後半、予定調和。
満足度
★★★★
伝説度

●中津江村での遅刻騒動が注目されたカメルーンだが、アフリカ・チャンピオンとして高い個人技と身体能力、さらに洗練された組織戦術も兼ね備えているという前評判。試合は前半までまる昨日の開幕戦のコピーのような展開になってしまった。ジダンのいないフランス同様、アイルランドはロイ・キーンを欠く。対するはアフリカの強豪。カメルーンの先制点は、右サイドを突破したエトーがマイナス方向へのグランダーのクロスボールを入れ、それをエムボマが落ち着いて決めたもの。コーナー・フラッグの傍に脱いだユニフォームを置いて踊る「儀式」も同じである。このままカメルーンが勝てば、昨日のコピーではないか。
●しかし完全にカメルーンのペースだったのは前半まで。不思議なのは後半途中から明らかにカメルーンが集中力を欠いていたこと。アイルランドが後半6分にホランドが難易度の高いミドルシュートを決めると、試合巧者ぶりを発揮する。最後にはむしろカメルーンのほうが予定調和的な引き分けを望んでいたように見えた。後半、どちらにも決定機はあったが、偶発的なものが多い。同組にドイツ、サウジアラビアが入っていることを考えると、どちらも1試合目には負けたくない。ドイツにも負けたくない。しかしサウジアラビアには点差をつけて勝ちたい。そういう思惑がうっすらと見えてくる試合だった。こうなると同じアジア勢としては、サウジアラビアが番狂わせを演じてくれることを期待してしまう。(6/01)

ドイツ 8-0 サウジアラビア
アジアのみ、置き去り。
満足度

屈辱度
★★★★★

●近年、欧州や南米の強豪国の監督が必ず口にする台詞。「もはやワールドカップでは楽に勝てる相手などいない」「伝統国の優位は失われつつある」。そんな2002年になって、まさかこんな大差で負けてしまうチームがあろうとは。しかもそれが同じアジアの代表、サウジアラビアである。
●このドイツによる容赦のない戦いぶりを見ていて、「もしこれがニッポンだったら」という悪夢が頭をよぎらなかった人はいないと思う。ニッポンとサウジアラビアはいつもアジアではよきライバルなんだから。アジアではサウジアラビアは身体能力の高さをニッポンに対して見せつけることができる。しかし屈強なドイツ人たちを相手にしては、まるで大人と試合をする成長過程の子供のようにしか見えない。足先の器用さでは勝っていても、極端にパワー差があって、ボールを前に運ぶこともできなければ保持することもできない。
●なにかがまちがっていたのだと思う。たぶん、サウジアラビアは「ディフェンスをする」ことを忘れていたのだ。単にうっかりと忘れてしまった。そうでなければこんなことがあるはずがない。(06/02)

アルゼンチン 1-0 ナイジェリア
ワールドカップ初生観戦@カシマ。
満足度
★★★★★
体験の強度
★★

●行って来たんすよ、カシマ・スタジアムまで。とんでもないチケット獲得騒動の末に、幸運にもこの魅力的なカードの観戦に成功。スタジアム内は予想以上に外国人率が高く、周囲を見渡すと多数のアルゼンチン人、少数のナイジェリア人。対戦国以外からの来日も少なくないらしく、メキシコ、エクアドル、ペルー、ブラジルなどからも。あれ、中南米ばかりだな。なぜか日本人のアルゼンチン・ユニ着用率が異様に高くて、視覚的にはアルゼンチン・ホーム状態。とはいえ、声援や歌という点では控えめ。そもそもアルゼンチンから来たサポーターだって、観光モードの人も結構いて、たとえばトヨタカップのボカを応援するために来たような熱狂的サポーターとは雰囲気がちょっと違う。
●で、試合。クレスポかバティかで揺れたアルゼンチンのワントップ問題だが、結論はバティ。左にクラウディオ・ロペス、右にオルテガ。中盤にベロン、シメオネ……あれれ、4年前から世代交代してないではないっすか。これ、フランス代表にも感じたことなんだけど、代表チームとはクラブチームでの世代交代に時差があるんじゃないかと。いまクラブレベルだったら、国内でプレイするオルテガより、断然バルセロナのサビオラだと思うんだが、サビオラは代表にも呼ばれていない。で、代表ではオルテガは外せない。やはりいっしょにプレーする時間が限られているから、わかっている選手を優先して使うことになるのか?
●試合の個々の局面というのは、実際には生で観戦するよりテレビのほうがよくわかったりする。特にこの日のナイジェリアのように、明るい蛍光色の緑のシャツに白い背番号が書かれていたりすると、もはやだれがだれだかわからない。終了直前を除いては、基本的にアルゼンチンがゲームを支配していた。攻撃スタイルはアルゼンチンそのもの。難易度の高いワンツーなど、ダイレクトでパスをつなぎ、途中にドリブルを織り交ぜてゴールへ向かう。右サイドに開いたオルテガが独特の足元に吸い付くドリブルを見せるのが楽しい(持ちすぎで、しかもすぐに倒れる。スーパープレイとはいいがたいけど、効果的ではある)。ベロンは技術をひけらかすかのように決定的なパスを次々と出す(が、ちょっと受け手への要求が高すぎやしないか)。ナイジェリアは時々驚異的なスピードと即興性のあるコンビネーションで逆襲を狙う。ハイレベルな試合だったが、ゴールはたった一つ。後半にベロンのコーナーにファーサイドでバティストゥータが頭であわせた豪快なもの。実はまったく同じプレーが前半にもあった。練習通りの形なのだろう。
●後半途中からベロンがアイマールと、バティストゥータがクレスポと交代。決勝まで考えているチームは、こうやって選手のコンディションを維持していくのだなと納得。もうひとつの優勝候補フランスが1敗しているだけに、こちらの順当勝ちには正直安心。あまり波乱が多すぎるのも寂しいので。
●こんなハイレベルな試合を観戦できてよかったと思う半面、実はちょっと盛り上がりきれない部分もあった。なんというか、レベルが高すぎるとリアリティが感じられないというか(苦笑)、これはもうテレビの世界で、われらが日本代表ともJリーグとも違う、遠いどこかの試合じゃないかと。って、いかんよな、ニッポンもこの大会に参加しているというのに。あ、でもバティ・ゴールが自分の席の反対側のゴールだったから、よく見えなくて悔しかっただけかも(笑)。
(06/03)

スペイン 3-1 スロヴェニア
審判は予定調和を望むのか。
満足度
★★★
伝説度
★★

●審判が好ゲームに水を差すのもワールドカップ。スペインらしいスキル重視の、ショートパス中心で組み立てる「楽しいサッカー」に対し、スロヴェニアはゴールへの最短距離を目指す欧州的なダイレクト・フットボールで挑む。わずかにこのゲームで伝説に近いプレイがあったとすれば、ラウールによるスペインの1点目。ゴール前でこぼれ球をトラップ、微かにボールが体から離れすぎて、体勢を崩す。瞬時に相手DFミリノヴィチ(だったと思う。JEF市原の)がつめてきたが、予想されたタイミングよりほんの一瞬早くラウールは左足を振りぬく。これがミリノヴィチの股間を抜けて、ゴールの隅に突き刺さったんだから、文句なしのスーパーゴールだ。
●スペインが2点目を獲った後、スロヴェニアはチミロティッチのゴールで1点を返す。やや浮き足立ったスペイン・ディフェンスを救ったのは、モロッコ人の審判。微妙な判定でスペインにPKを与えてしまった。しかし、前半のもっと明白なスペインのファウルに対しては笛を吹かなかったではないか。少なくとも、これで「おあいこ」、スペインに3点目を与えて楽にさせる必要はない。スリリングな試合が、一気に予定調和に向けて収束してしまった。ワールドカップではよくあるおなじみの光景である。
(06/03)

イタリア 2-0 エクアドル
イタリアはどんな相手であっても決して守備的布陣を崩さない。
満足度
★★★
伝説度

●「イタリアが守備的である」ってのはよくいわれるんだけど、こういう実力的にやや下の相手と戦うとそれがホントによくわかる。攻撃はヴィエリとトッティ。あとの8人は攻めずに守れ。そういうチームがあっさりと先制してしまったのだから、エクアドルに勝ち目はない。イタリアの中盤はディ・ビアージョ、トンマージ、ドニ、ザンブロッタ。ベンチにデル・ピエロ、インザーギ、モンテッラ。しょうがないんだろうけど、なんだかなあ。しかもまた憎たらしいことに、ヴィエリとトッティだけでもすばらしい攻撃を仕掛けることができちゃうのだ。
●エクアドルはいまどき南米でも珍しいくらい細かいパスをつなぎまくるチームで、好感度は高い。期待のプレイメーカー、アギナガが前半で退いてしまったのが残念であった。
●もしかしたらイタリアは次の試合でデル・ピエロとインザーギ(あるいはモンテッラ)を2トップに据えるかもしれない。つうのは、アルゼンチンとイタリアあたり、コンディションが初戦とは思えないくらいいいので、ひょっとしたらスカッド・ローテーションを部分的に採用してくるつもりじゃないかと思ったりしたのだ。ヴィエリ/トッティ組、デル・ピエロ/インザーギ組で交互に出せば、コンディションもコンビネーションも問題なしだろうから。(06/04)

日本 2-2 ベルギー
フットボールの神様は歴史的勝点1を与えてくれた。
満足度
★★★★
強度
★★★★

●ついに迎えた日本戦初戦。注目の先発は、楢崎−中田コ、森岡、松田−小野、市川、稲本、戸田−ナカタ−柳沢、鈴木。
●前半、お互いの狙いははっきりしていた。ニッポンは最終ラインからのロングボールを主体とした攻撃。パワーと高さでベルギーが勝っている以上、この攻撃はまったく形にならず、フラストレーションがたまる。松田のフィードはほとんどがベルギー選手のもとへと飛んでいく。なぜこんな醜悪なサッカーをしなければいけないのか。これはもうトルシエ監督の指示があったにちがいなく、前半を無失点で終わらせたいというプラン以外のなにものでもない。まだワールドカップで勝点を獲得したことのないチームが、欧州の伝統国を相手に戦う上では、これが現実的な戦い方だったということなのか。これは微妙な問題だ。日本戦の後、韓国はポーランド相手に前半から堂々と自分たちのサッカーをプレイして、2−0で完勝した。開催国にふさわしい韓国の姿に羨望を覚える。
●一方、ベルギーは90分を通じて、同じ戦いをしてきた。実にシンプルな戦い方である。攻撃の局面では高さを生かして、ゴール前へボールを入れる。守備は激しく、特にナカタを自由にさせない。ワセイジュ監督の戦略は実り、後半途中まではベルギーがゲームを支配していたはずである。
●後半11分、ベルギーの攻撃はついに日本のゴールを割る。こぼれ球を拾ってからゴール前に上げたボールを、ヴィルモッツがきれいなオーバーヘッド・キックで日本のゴールに叩き込む。これでもう日本はロングボールを放り込んでいる場合ではなくなった。
●その直後、小野の後方からのロングパスに対し、鈴木がベルギー・ディフェンスの間をうまく割って入り、体を前方に投げ込みながらシュート、これがキーパーの狭いサイドをすり抜けてゴールになる。鹿島でも見たことのないような鈴木のゴールで、テイストは中山隊長。これを機会に、ニッポンが主導権を奪う。 後半22分には中盤のインターセプトから、稲本がゴール前でドリブル、左足で豪快なゴールを奪って、奇跡の逆転。ベルギーも足が止まり始める。
●悔やまれるのはその後の失点である。後半29分、ゴール前の中途半端なクリアボールを拾われ、ゴール前へ、これをオフサイドトラップをかいくぐり飛び出してきたヴァンヘイデンがキーパーの頭越しにシュート、同点に追いつかれてしまった。ジーコ曰く、「ラインディフェンスは、相手選手が背中を向けているときにラインを上げ、前を向いているときには下げなければいけない。前を向いているのに上げたのだから、失点した」。いつもトルシエがライン・ディフェンスの練習でやっているはずの基本中の基本だが、ラインコントロールで失敗してしまった。
●この日のコスタリカ人審判は、日本のホームゲームであることをまったく考慮せず、それどころか明らかなベルギーのファウルも見逃してしまった。柳沢に対するプレイだったと思うが、どう見てもPKをもらってしかるべきエリア内のファウルがあった。稲本の勝ち越し点となるべきスーパーゴールも取り消されてしまった(まあ、これはスローで見ればファウルだが、それにしても)。コスタリカ人審判が悪魔のように見えたが、そうではなく、「ドーハの悲劇」同様、「十分な段階を踏まずして勝点3は与えられない」という天の配剤だったのかもしれない。3点を与えてくれるほど、ニッポンはフットボールの神様の寵愛を受けてはおらず、しかしつまらない戦法に屈するほど見捨てられてもいないということなのだろう。勝てる試合を落とした感もあるが、決勝トーナメント進出に向けては悪い結果ではない。明日のロシアvsチュニジアが引き分けてくれるのが理想的である。(06/05)

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