Books: 2002年8月アーカイブ

August 29, 2002

キングのテレビ版「シャイニング」その2

●(承前) そんなわけで、キングは自身が小説「シャイニング」に込めたいくつものテーマを忠実に再現した映像を作ろうとしたわけだ。実際、このキング版「シャイニング」は(記憶に残っている限りでいうと)恐ろしく原作に近い。というか、考えてみればこんなに長い映像を観るんだったら、同じくらいの時間で原作を読めてしまうんじゃないか(笑)。
●ただし、作家本人が脚本を書いてしまったゆえの弱みもあるとは思う。なにしろ、あるテーマ、あるプロットを割愛するということができないらしく、いろいろと伏線を盛り込んだおかげで序盤はやや退屈である(いや、原作を知らなければそんなことはないのかもしれないが)。原作の再現にこだわっている割には妻役のレベッカ・デ・モーネイはちょっと違うんじゃないのとか余計なことを考えさせられたりもする。しかし中盤からはぐっとテンポが良くなる。映像化の難しそうな場面もあるのだが、かなり巧く処理しており、終盤の幽霊ホテルのパーティ・シーンなどは圧巻。父と子の対決の場面も見ごたえ十分。改めて「シャイニング」というのは恐るべき傑作だなと感心させられる。
●このタイトル「シャイニング」の意味は、キューブリック版では説明されていたのだろうか。BSでは吹き替えだったので「輝き」と訳されてしまっていた。これは少年が持っている一種の予知能力を指している。ただでさえ「幽霊屋敷」ものなのに、そこに「超能力少年」。一見安直な設定に見えるが、わざわざタイトルが「シャイニング」となっているように、この仕掛けには物語上の必然があり、語られるテーマはリアリズムの範疇にあるというところが、キングの凄さ。偉大なり。(2002/08/29)

August 28, 2002

キングのTV版「シャイニング」その1

●スティーヴン・キングの「シャイニング」を観た。スタンリー・キューブリックが監督した映画のほうじゃなくて、最近キング自らが脚本を書いた新しいほう。レンタル・ビデオ屋で2本組になっているのを見かけて「いずれ観なければ」と思っていたら、先日BS2で放映してくれたのだ。それにしても長いっすよ、これは。90分で3夜連続なんだから呆れるほど長い。映画としては成立しない長さなので、テレビ用に作られたのか。でも予算もしっかりあったようで、決してチープな映像ではない。
●で、これは有名な話だけど、キングはことあるごとにキューブリックの「シャイニング」がいかに原作の意図を汲み取っていないかを語っている。確かに原作を読めばキングの不満はもっともなもので、キューブリック版は原作で丹念に書き込まれている家族の問題を描いていないために、ずいぶんお手軽な恐怖映画になってしまっている。物語はいわゆる「幽霊屋敷」もので、由緒ある高級ホテル「オーバールック・ホテル」で親子3人が管理人として一冬を過ごす。冬の間、このホテルは雪で閉ざされてしまう。ホテルに憑いた禍々しい存在が、この家族を襲い、ある意味でもっとも弱い存在であった父親が狂気に抗えなくなる。真に怖いのは幽霊そのものではなく、この豹変してゆく父親であり、怖くて哀しい物語だったわけだ。
●このテーマをキューブリックはほとんど省略し、父親役ジャック・ニコルソンの圧倒的な存在感が支配する映画に仕立てた。これはこれで十分おもしろいと思うのだが、家族の絆をとりもどそうとする善である父親が徐々に悪に蝕まれていくというテーマは犠牲になった。ジャック・ニコルソンは最初からいかにもヘンである。しかもストーリーが完全にキューブリック流に換骨奪胎されたわけでもなく、原作にある亡霊のバーテンダーからアルコールを注がれるシーンであるとか、本来なら背景が描かれていなければ意味がわからないようなシーンがそのまま映画に残ってしまったりしている。一番困ってしまうのは、映画のラスト・シーンにある写真「オチ」。あれはどう考えても物語の整合性を欠いてしまうだろうと思うんだけど、映画「シャイニング」にはどうしてもホラー映画の「お約束」が必要だったんだろう。
●で、キングは「シャイニング」を自ら映像化することになった。この続きは、また明日。(2002/08/28)

August 16, 2002

キングのTV版「イット」(IT)

●BS2でスティーヴン・キング原作の「イット」前編を観た。これってテレビ用のドラマなの? 「IT」(文春文庫)はキングの最高傑作の一つと思っているのだが、「あの長い話を映像にまとめてもなあ、それにあの怖さは文字だからであって絵にしちゃうとマヌケだろう」と、思い入れと思い込みがジャマをしていまひとつ集中して観れない。なんていいつつも結構おもしろかったんだが。子役の役者どもが巧いんだな。
●もし未読なら圧倒的にオススメ→「 IT 」。文庫で4巻、あっという間に読めて、しかも夏向き。(2002/08/16)

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