June 2, 2023

パスカル・ヴェロ指揮仙台フィルのフランス音楽プログラム

パスカル・ヴェロ指揮仙台フィル 東京公演●1日はサントリーホールで「アイリスオーヤマ クラシックスペシャル2023 パスカル・ヴェロ×仙台フィル」。満員。桂冠指揮者のパスカル・ヴェロによるフランス音楽プログラムで、前半にプーランクの演奏会用組曲「牝鹿」、オルガン、弦楽とティンパニのための協奏曲(オルガンに今井奈緒子、ティンパニに竹内将也)、後半にベルリオーズの「幻想交響曲」。仙台フィル、首都圏でも聴く機会はそこそこあったはずなんだけど、今までタイミングが合わず、もしかすると今回が初めてかも。フランス音楽プロということもあってか、磨かれた澄明なサウンド。重くなく、粘らず、華やか。前半、「牝鹿」はプーランクの洒脱さが魅力だとは思うが、作品としては断然オルガン協奏曲がおもしろい。軽妙であり真摯でもある作曲家の二面性が最高の形で昇華されている。オルガンの響きがサントリーホールの空間いっぱいに満たされる。この日の白眉。後半のベルリオーズは爽快。ドロドロした情念にフォーカスするのではなく、華麗なオーケストレーションを堪能させるスマートな音の饗宴。場内は喝采、拍手に温かみを感じる。長めのプログラムだったので、アンコールなし。
●公演の主催はアイリスオーヤマ。「幻想交響曲」はアイリスオーヤマの大山会長がパスカル・ヴェロにリクエストした曲なのだとか。この日もご臨席でスタンディングオベーション。本当にお好きな模様。ふだんの公演とはちがって、客席には若いビジネスマン風の方が大勢いたのだが、マナーがよくて感心してしまった。どういう縁であれ、若いうちにこんなふうに生のオーケストラのサウンドを体験してもらえるのはありがたいこと。なんといっても最初の1回のハードルがいちばん高いので。これを機に新たな道楽を発見する人もいくらかはいるはずだし、この道楽はいくらでも楽しめる底なし沼だ。

June 1, 2023

上岡敏之指揮読響のシベリウス、ニールセン他

●31日はサントリーホールで上岡敏之指揮読響。プログラムはシベリウスの交響詩「エン・サガ」、シューマンのピアノ協奏曲(エリソ・ヴィルサラーゼ)、ニールセンの交響曲第5番。指揮者とオーケストラの相性はバッチリ。他の読響指揮者陣とは違ったキャラクターの音が出てくる。鋭いアクセントを伴うくっきりとしたサウンドでありつつ、抒情的な部分はたっぷりと。表現のコントラストが鮮やか。きらびやかな最強奏から繊細な弱音まで、ダイナミクスも十分。ヴィルサラーゼは闊達、貫禄のソロ。
●シベリウスの「エン・サガ」(伝説)は謎の曲。こんなにストレートな曲名が付いているのに、肝心のサガ(サーガ)がなんなのか、明らかにされていないというもどかしさ。曲調からすると、きっと具体的な登場人物なり場面なりが曲想と紐づいていると思うんだけど……。
●圧巻はやはりニールセンの交響曲第5番。軍隊調の小太鼓が示すように、この曲は戦争交響曲。時節柄、現実の戦争を意識せざるをえないだろうと覚悟して聴いたけど、むしろ感じ入ったのは圧倒的な壮麗さであり、力強い希望の音楽であるということ。1920年代のモダンさは、今にしてみればレトロフューチャー調のカッコよさ。コーダの輝かしさは尋常ではない。こういう快演を聴くと、この曲がもっと演奏されないのが不思議になってくるけど、オーケストラの高機能性は大前提か。終演後、上岡敏之のソロカーテンコールとスタンディングオベーション。
●おまけ。カール・ニールセンの肖像2点。
カール・ニールセン

カール・ニールセン
●いずれもMicrosoft EdgeのAI画像生成機能Image Creator(DALL-E搭載)作。交響曲第5番に寄った雰囲気のものを描いてもらったつもり。

May 31, 2023

「HHhH: プラハ、1942年」(ローラン・ビネ著/創元文芸文庫)

●なるほど! この本って、そういうことだったんだ! と、膝を叩きながら読んだ「HHhH: プラハ、1942年」(ローラン・ビネ著/創元文芸文庫)。単行本で出たときに本屋大賞翻訳小説部門第1位とかTwitter文学賞海外編第1位になって話題を呼んだ一冊。文庫化されたのを見つけて飛びついたのだが、抜群におもしろい。書名のHHhHとは「ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる」を意味する符丁で、ナチスによるユダヤ人大量虐殺の首謀者ラインハルト・ハイドリヒのことを指している。この本はハイドリヒと、彼を暗殺すべく在英チェコ亡命政府がプラハに送り込んだふたりの青年についての史実を小説として描いている。が、史実にもとづくフィクションというのではない。ぜんぜん違う。普通、その種の小説は史実の間を埋めるための創作が入る。しかし著者ビネは創作を入れることを拒み、どこまでも史実だけを追いかける。
●だったら、それはノン・フィクションじゃないの、と思うかもしれないが、どこからどう読んでもこれは小説。そして小説内に著者がずっと居座っていて、ここでこんなことが話されたかもしれないと考えたり、登場人物に寄り添ったりしながら、この本をどう書いたらいいのかと悩んだりする。なので、フィクションではないのにメタフィクション的でもあるんだけど、こんな手法で小説が書けるんだというのが最大の驚き。
●で、本書を読むと、ナチスがどのような経緯でチェコのリディツェで住民を虐殺したうえで、村そのものを消滅させたのかということがわかるのだが、この事件を題材としているのがマルティヌー作曲の「リディツェへの追悼」。何年か前に下野竜也指揮N響定期でも演奏されたほか、ヤクブ・フルシャが都響でも指揮していたと思う。曲目解説等で事件のあらましくらいは目にしていたが、そこに至るまでの大きなストーリーをようやく知った。その恐ろしい不条理さも。


May 30, 2023

トッパンホールのリゲティ生誕100年プログラム第2夜

トッパンホール リゲティ生誕100年
●29日はリゲティ生誕100年を記念してトッパンホールで開かれたZum 100. Geburtstag! Vielen Dank, György Ligeti 第2夜へ。2夜連続のオール・リゲティ・プログラムで、第2夜のみ足を運ぶ。チケットは両日とも完売。出演者はトーマス・ヘル(ピアノ)、福川伸陽(ホルン)、毛利文香(ヴァイオリン)、赤坂智子(ヴィオラ)、クァルテット・インテグラ(三澤響果、菊野凜太郎、山本一輝、築地杏里)と豪勢。曲は前半にピアノのためのエチュード第1巻、弦楽四重奏曲第2番、後半に無伴奏ヴィオラ・ソナタ、ホルン、ヴァイオリン、ピアノのための三重奏曲「ブラームスへのオマージュ」。恐るべき高密度の公演で、圧倒されっぱなし。すべてにおいて魔神の域だと思ったけど、とくに売り出し中のクァルテット・インテグラが強烈。キレッキレ。極限まで研ぎ澄まされたリゲティを堪能。
●最初のピアノのためのエチュード第1巻から、最後のホルン・トリオまでおおむね通して感じたのは眩暈の感覚。なんというか、音に酔う(車酔いみたいな意味で)。リズムや音律など、ずれたもの、歪んだものが同時進行していく気持ち悪さというか快感というべきか。あるいはずっと騙し絵を見つめていて見当を失うような感覚。あと、無伴奏ヴィオラ・ソナタ、こういう曲だったのね……と初めて知る。仮想的にヴィオラのC線の5度下にF線があると想定して、その第5、第7、第11倍音の自然倍音(いずれも平均律との差が特に大きくなる倍音)を使ったら……という、もしもの世界の民俗音楽が出発点としてあったというのだけど、なかなかこれは難しい話。ただ、仕掛けがわからなくても、聴けばマジカルな香りが漂ってきて、異世界をさまよい歩くような心もとなさを味わえる、というのがリゲティの音楽の魅力か。
●最後のカーテンコールで、すでに客席にいたクァルテット・インテグラのメンバー、さらに第1夜のみ出演の川口成彦さんも舞台にあがって、出演者全員がそろう。リゲティ・イヤーのハイライト。

May 29, 2023

マリノスvs福岡 久々の完勝 J1リーグ第15節、J2は町田が首位を快走

●DAZNでマリノスvs福岡戦を観戦。今シーズン、マリノスは内容的にはもうひとつなのに結果が付いてくる試合が目立っていたが、この試合は久しぶりに好調時のアタッキング・フットボールができていた。選手同士の連動性が高く、流れるようなパスワークが随所に見られ、プレスも効果的。前半、福岡が守りを厚くして5バックで臨むと、マリノスが一方的にゲームを支配する展開に。前半8分と20分にアンデルソン・ロペスのゴールが決まって2対0。後半、福岡が布陣を修正してからはぐっと拮抗した内容になったが、前半のリードを生かしてそのまま逃げ切り。ボール支配率、シュート数、パス成功率すべてで相手を上回って完勝。終盤、交代出場でケガから復帰の宮市が入ると、スタジアムが沸いた。宮市が激しいタックルをくらうと大ブーイング。まあ、そうなる。主審は山下良美さん、ふたたび。
●J2では町田ゼルビアが首位を快走中。今節は退場者が出て徳島に敗れてしまったが、それでも18試合を終えて12勝3敗3分。2位の東京ヴェルディとは勝点6差。なにがすごいって、青森山田高校の黒田剛監督を新監督に大抜擢して、それでこの成績だということ。黒田監督は高校サッカー界では知らぬもののいない名監督とはいえ、つまるところは学校の教員。そこからいきなりプロの世界に飛び込んで、ありえないほどの快進撃ぶり。黒田監督もすごいが、氏を監督に招いた町田もすごい。もし、黒田体制で序盤につまづいていたら、だれもが「部活サッカーがプロで通用するはずがない」「プロは高校生みたいに従順ではない」と批判しただろうし、選手の心はあっという間に監督から離れたはず。でも、完璧な結果が出ている。高校サッカーみたいなロングスローも使う。昨年まで高校の保健体育の先生だった監督が、オーストラリア代表のミッチェル・デュークや元U-23ブラジル代表のエリキ(以前マリノスでも大活躍)を率いている。開かれたサッカーの世界は才ある者を放っておかない。

May 26, 2023

ドイツ・グラモフォンの「ステージプラス」日本版を体験する

ドイツ・グラモフォン 「ステージプラス」
●先月に記者会見の模様をお届けした、ドイツ・グラモフォン(DG)の定額制映像&音楽配信サービス「ステージプラス」(DG Stage+)日本版をようやく実際に使ってみた。映像配信サービスとしてはベルリン・フィルのデジタル・コンサートホールと同様で、ライブ配信とアーカイブ配信があって、いつでも好きなだけ観ることができる。映像や音声のクォリティも十分。ドイツ・グラモフォンなので、過去にDVDでリリースされていたような映像もたくさんある。加えて、CD音源もある。音源は普通にSpotify等のストリーミングでも聴けるので、わざわざドイツ・グラモフォンのものだけこのサービスで聴こうとは思わないが、ドルビーアトモス対応なので、空間オーディオを求める人には重要かも?
●で、メインとなる映像コンテンツだが、さすがに豪華なラインナップ。最新アーカイブ映像にはネルソンス指揮ウィーン・フィル、ガーディナー指揮イングリッシュ・バロック・ソロイスツ、ネゼ=セガン指揮ヨーロッパ室内管弦楽団、ユジャ・ワン、キーシン、トリフォノフ、リシエツキ、ブルース・リウ、藤田真央、チョ・ソンジンらの名前が並ぶ。まだ少し見ただけだけど、ネゼ=セガン指揮ヨーロッパ室内管弦楽団のベートーヴェン交響曲全集がすごそう。めちゃくちゃうまい。あとミルガ・グラジニーテ=ティーラ指揮の映像がいくつかあったので、こんな指揮ぶりの人なのかと認識。バイロイト音楽祭2022のワーグナー「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」(バレンティン・シュワルツ演出)があって、サムネイルを見ただけで奇天烈な演出であることが伝わってくる。字幕はどうなっているのかと思ったら、ちゃんと日本語があった。
●ベルリン・フィルのDCHとの大きな違いは、先々までどんなコンテンツがあるのか見通せないということか。あと、今はスタートしたばかりだから、アーカイブ映像の数はそんなには多くないので、人によっては見たいものをさっさと見尽くしてしまうかもしれない。これはDCHが始まったときと同じで、最初は選択肢が少なく感じたものだが、時とともにアーカイブの厚みが増して、サービスの価値が高まったのを思い出す。ともあれ、今は音楽だけじゃなく多種多様なサブスクが林立している時代なので、ユーザーにはカジュアルに契約したり解約したりして複数のサービス間を渡り歩く人も多いだろう。もうサッカーは完全にそうなっている。
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●今週末のテレビ朝日「題名のない音楽会」は「突拍子もない作曲家リゲティの音楽会」がテーマ。昨年は生誕100年でクセナキスの回が実現したけど、今年はリゲティが生誕100年。ハンガリアン・ロック、100台メトロノーム(抜粋)他。

May 25, 2023

ファビオ・ルイージ指揮NHK交響楽団のウィーン古典派プログラム

ファビオ・ルイージ N響
●24日はサントリーホールでファビオ・ルイージ指揮N響。プログラムはハイドンの交響曲第82番「くま」、モーツァルトのホルン協奏曲第3番(福川伸陽)、ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」。3人の作曲家が並んだウィーン古典派プログラム、なんだけど、さらにいえば森の動物プログラムだと思う。熊が山にいて、田園で小鳥がさえずる。ホルン協奏曲は狩のイメージ。
●ルイージの音楽はHIPではなくスマートで流麗。ハイドンの交響曲は傑作の宝庫だが「くま」も痛快。「くま」の愛称は終楽章のバグパイプ風低音が熊使いのムチを連想させるから付いたそうだが、あの低音そのものにのっそりした熊のイメージを思い浮かべて聴く人も多いと思う。モーツァルトのホルン協奏曲第3番では元N響の福川さんが凱旋。古巣のオーケストラと一体となった室内楽的で親密なアンサンブル。柔らかくまろやかな音色で、繊細な弱音表現が魅力。モーツァルトだけだとパワフルに吹く場面がほとんどないので、もっと聴きたくなるが、ソリスト・アンコールでロッシーニ「狩のファンファーレ」。充足。後半の「田園」はいくぶん抑制的に始まったと思ったが、次第に高潮し、陶酔的な終楽章がクライマックス。ルイージの音楽は前任者と対照的。パーヴォは縦に鋭く楔を打ち込む鮮やかな音楽だったが、ルイージは柔らかく温かい音色で横にしなやかに流れる。
●楽員退出後も拍手が鳴りやまず、ルイージとコンサートマスターふたり(郷古廉と篠崎史紀が前後半で席を入れ替わった)が登場して、3人でカーテンコール。

May 24, 2023

ガンバ大阪vsマリノス サポーターたちの無言の抗議 J1リーグ第14節

●昨日の記事はAIによる音楽評論だったが、今日はAIではなくワタシ自身が書くサッカーの話題だ。現在、J1リーグでは神戸が予想外の強さでトップを走っている。マリノスは現時点で2位。昨季から大幅に戦力ダウンしていることを考えれば、上出来だろう。週末にはアウェイでガンバ大阪と戦い、退場者を出すなどかなりの苦戦を強いられたものの、ガンバ 0-2 マリノスで勝利。序盤からガンバが激しいプレスで襲いかかり、ボールを奪ってどんどん前に攻める。マリノスのサイドバックやボランチが次々とプレスの餌食になり、まるでビルドアップできない。ガンバはとても最下位とは思えないプレイ強度。
●劣勢が続き、これではプレイスキックくらいしかチャンスはないだろうと思ったら、前半37分、永戸のコーナーキックから中央で西村が頭で合わせて先制ゴール。後半、松原が2枚目のイエローカードで退場するも、後半34分、距離のあるフリーキックで、永戸がミラクルなブレ球を蹴ってスーパーゴール。これは年間ベストゴール級のスペクタクル。終盤はガンバの勢いも落ち、ひとり少ないマリノスが攻めるという、マスカット監督らしい強気の展開になった。
●で、この試合なのだが、アウェイなのに中継ではなぜかマリノスの声援ばかりが聞こえてくる。実はガンバ大阪のサポーター連合が応援のボイコットをしていたのだとか。ガンバのような名門クラブが最下位に低迷し、J2降格の危機にあるのだから、サポーターたちが黙って見ていられないのはわかる。が、応援ボイコットというのはどうなんすかね。マリノス側から見ると、アウェイなのにアウェイ感があまりなかったわけで……。スタジアムに詰めかけたサポーター連合以外の一般のファンがどう感じたのかも気になるところ。25年ぶりの5連敗が決まった試合後、ガンバの選手たちとポヤトス監督はゴール裏に向かい、サポーターたちと話し合いを行った。キャプテン宇佐美貴史は涙を流しながらサポーターと握手したという。ファンあってのプロスポーツではあることはまちがいないが、考えさせられるシーンではある。選手への重圧はどこまで許されるのか、選手と集団的サポーターとの距離感はどれくらいがよいのか、等々。
●ところでガンバのゴールキーパーはベテラン東口だった。今季先発の座を奪ったかと思われた谷晃生はベンチに座っている。そしてガンバでは3番手と目されている一森純を、マリノスはわざわざローンで獲得して正ゴールキーパーとして起用しているのだ。少し不思議な感じもするが、求めるプレイスタイルの違いということか。なお、契約上、一森はガンバ戦に出場できないので(ローンだとよくあるパターン)、マリノスは大ベテラン飯倉を先発させ、ベンチにオビを置いた。飯倉は一森の控えであり、オビは控えの控えという扱いなのだ。マスカット監督はそれほど一森を買っている。

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制作者

飯尾洋一(Yoichi Iio)

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