Books: 2004年6月アーカイブ

June 11, 2004

「幸運の25セント硬貨」スティーヴン・キング

幸運の25セント硬貨●スティーヴン・キングの新刊「幸運の25セント硬貨」(新潮文庫)読了。といっても短篇集である。しかも、もともと一冊の短篇集だったものの前半が「第四解剖室」、後半が本書として翻訳されているので、これで一冊というよりは二分の一冊。あとがきがこっちにあるから、つい知らずにこっちだけ買っちゃったんだけど。ま、いいか、短篇集を後半から読んだって。
●キングは初期のホラーから最近作までの数十年間、作風が変わってきているにもかかわらず、どれを読んでもみんな同じようにおもしろいからスゴい。さすがにもう新味はないけど、なくていい。本書でいちばん楽しめたのは「一四〇八号室」。初期のホラー作家時代の名作「シャイニング」と同様、幽霊屋敷ならぬ幽霊ホテルものなのだが、これがムチャクチャ怖い。たとえば「音」の描写。

さきほど力まかせに開けた窓の横でカーテンが漫然とそよいでいる。だが、新鮮な空気が顔に吹きつけてくるわけではない。まるで、部屋がカーテンを吸い込もうとしているかのようだ。五番街を往来する車の警笛はまだ聞こえる。しかし、いまや遥か遠くに。では、サクソフォンの音は? まだ聞こえたとしても、それは甘い音色とメロディを部屋に剥奪され、無調の弱々しい単調音だけになっている。その音から連想されるものといえば、死者の首に開いた穴を通り抜ける風の音、あるいは瓶の口に切断された指を突っ込んで勢いよく抜くときのはじける音、もしくは--。

●この短篇集は肩の力の抜け具合が魅力。次は(全部文庫で出揃ったら)大作「ザ・スタンド」を読まねば。欲を言えば各巻ズボンの尻ポケットに入るサイズで収まってくれるともっとありがたいんだがなあ→「ザ・スタンド」。

June 1, 2004

「パレード」 吉田修一

パレード●あちこちで評判よさげなので、文庫化された吉田修一「パレード」(幻冬舎文庫)を読む。第15回山本周五郎賞受賞作。登場人物は東京・千歳烏山の2LDKのマンションに暮らす5人の若い男女。家族でも恋人でもないんだけど、成り行きでともに仲良く暮らしている。学生、無職、会社員、みんな適当に快適で稀薄で、まあまあ幸せなような不幸せなような日常を送っていて、絵に描いたようなイマドキの若者たち。
●が、日々は淡々と過ぎていて、表立って何もおきないのだが、読み進めるうちに登場人物5人全員が「壊れている」ことに気づく。本当は全員不幸で全員大きな問題に直面しているにもかかわらず、みな一様に苦悩する自我というものを欠いていて、空気みたいな日常にすすんで埋没してしまっている。5人とも仲がよく、面倒見もいい、それぞれに友達もいて、恋人もいたりいなかったりで、充足しているように見えて、誰もが孤独。フツーすぎる若者という外見と、壊れた人という内面がなんの問題もなく一人物に同居できてしまうという怖さには、リアリティがある。この危なっかしさとは20代そのものっすね。ああ、生きるって大変だね、若者も。
●5人の登場人物を5つの章で、視点を変えながら一人ずつ描いているのだが、後に出てくるほど重症で、仕掛けが巧い。短いので一気読みが吉。オススメ。

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