Books: 2005年7月アーカイブ

July 20, 2005

「失踪日記」(吾妻ひでお)、世の中 ○○○○だらけ

失踪日記●さんざんあちこちで紹介されてて今さらなんだけど、「失踪日記」(吾妻ひでお/イースト・プレス)を読んだ。こりゃなんだ。あの吾妻ひでおがリアルで失踪してたとかアル中で強制入院させられてたとか、全然知らなかった。「全部実話です(笑)」とあって、実際笑える。ゴミ捨て場で食料をあさるという悲惨な現実さえギャグに昇華されてしまうとは。マンガ慣れしてないせいもあるかもしれないが、ワタシゃ一度読んだあと、あまりにおもしろくてすぐにもう一度読み直してしまった。もう一回くらいは近々読んでおきたい。
●失踪生活中、吾妻ひでおはガス配管工として働きはじめる。そこで次々と癖の強い人物に出会うのだが、たとえば「恐怖の大王」と呼ばれる近所のオッサン。「飲みに行くからおごるぞ」といい、吾妻ひでおをスナックに連れ出し、そこで出会う人間に片っ端からケンカを売る。吾妻ひでおは電話してくると言って逃げ出し、笑いながらこう叫ぶ。

キ○ガイだ 世の中 キ○ガイだらけだ!

 これは失踪したから、配管工だからキ○ガイだらけの世の中に遭遇したというわけではないだろう。たぶんマンガ家だって、フツーの会社員だって、社会で生きてればこうやって笑いながら叫ぶしかないっていう現実にしばしば直面する。この一言って、失踪してさえ変わらない強固な真実を指し示してるんだと思った。同じ失踪モノで、先日ご紹介した映画「月曜日に乾杯」(オタール・イオセリアーニ)、あれも同じようなメカニズムに基づいて男が失踪してるんだけど、その後の展開たるやなんつう違いなのか。
●あと、アル中強制入院編もすさまじい。同じ病棟の「ミニラN村さん」なる人物。お菓子でも食事でも、とにかく自分の持っているものを全部人に差し出して「仲良くやりましょう」と低姿勢で接する。そして院内ミーティングではいつも同じセリフを繰り返す。「これからは一から十までやり直して真人間になります」。これを何度も何度も言い続け、外出許可が出たとたんに、ワンカップ15本を飲んでぶっ倒れて救急車で運ばれる。
●ワタシはほとんど酒を飲めなくて、どんなに飲みたくてもビール一缶以上は肉体的に受け付けない。以前から痛感しているのだが、こういう体質で本当によかった。もしワタシのように快楽に耽溺しやすい人間が酒を飲めたら、絶対に朝から飲む。朝も昼も夜も飲む。仕事中だってためらいなく飲む。会社員だったころも、きっと自分のデスクに酒瓶を並べただろうし、出社した瞬間から誰の目も憚ることなく飲んでいたはずである。飲めたらワタシは「ミニラN村さん」だった。

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