January 23, 2019

METライブビューイング「マーニー」

●METライブビューイングでニコ・ミューリー作曲の「マーニー」MET初演を観る(東劇)。演出はマイケル・メイヤー、指揮はロバート・スパーノ。偽名で職を得て、勤め先で盗みをしては姿をくらますという美しい女詐欺師マーニー(イザベル・レナード)が主人公。しかし新たな獲物として狙いをつけた印刷会社の社長(クリストファー・モルトマン)が、とんでもなくイカれた男で、マーニーの正体を見破ったうえで、半ば脅迫するかのようにマーニーに求婚する。盗癖を止められないマーニー、それを承知で結婚する社長、そして社長と反目する気色の悪い弟(イェスティン・デイヴィーズ)と、主要登場人物全員が病んでいるサイコ・サスペンス・オペラ。それなのに音楽は明るく軽快で、衣装も舞台もシャレていて、演出はスマート。脚本はオペラ向きによく練られている。METの才人たちが工夫を凝らして作りあげた万人向けの現代オペラといっていい。ちなみにウィンストン・グラハムの原作小説は、ヒッチコックによって映画化されている。
●歌手陣では主役のイザベル・レナードが歌も演技も見事。それとカウンターテナーのイェスティン・デイヴィーズがすごく効いている。変態なんだけど共感可能、かも。
●で、こうして手のかかった現代オペラを観ると、逆説的だがオペラは作曲家のものなんだなと痛感する。幕間のインタビューを見ても、このオペラは大勢の人によるチームワークが実を結んだものであって、若い作曲家ニコ・ミューリーが自ら「スコアがオペラの舞台の全てをコントロールするわけじゃないんだ」といったことを語っている。それなのに、見ていて感じるのは正反対のこと。サスペンスを映画でも演劇でもなく、オペラで表現するのはなぜかっていえば、スコアが王様だからだと思うんすよね。音楽作品だから表現可能なドラマを目指しているはず。で、ニコ・ミューリーの音楽はとても聴きやすく、初めて聴いた曲なのにそんな感じがぜんぜんしない。終始リズミカルに短いフレーズを反復させながら、小気味よいパッセージが連続し、カラフルなオーケストレーションで飽きさせない。つまり、まるでジョン・アダムズのように。ジョン・アダムズと同じくらいカッコよくて、同じくらいパワフルで、同じくらいドラマティック。これはもうひとつの様式ってことなのかも。正当に伏線が張られたうえで最後に到達する真実にはかなりの苦みがある。そこと音楽の軽やかさのミスマッチ(?)をどう消化すべきか、というのが目下自分の課題。

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