February 21, 2019

新国立劇場「紫苑物語」、ひとまず

●20日は新国立劇場で西村朗作曲「紫苑物語」。17日の世界初演に続く2回目の公演。西村朗作曲、笈田ヨシ演出、佐々木幹郎台本(原作は石川淳)、芸術監督の大野和士が東京都交響楽団を指揮。日本のオペラ界の力を結集して生み出した新作がついに上演されるとあって、注目度は高い。この後、23日と24日とまだ公演が続く。歌手陣は宗頼に髙田智宏、平太に松平敬(この役のみダブルキャストで、初日は大沼徹)、うつろ姫に清水華澄、千草に臼木あい、藤内に村上敏明、弓麻呂に河野克典、父に小山陽二郎。全2幕でそれぞれ約1時間。すべてにおいて入念に準備された舞台といった感で、見ごたえがあった。
●まだ公演中なので、ネタばらしにならない範囲で感じたことをいくつか。まずは管弦楽のくらくらとするような豊麗さ、色彩感、語法の多彩さ。ピットから聞こえてくる音の濃密さは普段の公演ではまず聴けないもの。歌手陣と合唱の難度は人外魔境の域といった感で、とりわけ第2幕の後半からしか出番がないのに平太役は超越的な歌唱に挑んで強烈な印象を残す。重唱の場面に重きが置かれ、特に2幕の四重唱は山場となる。全般に、伝統的な調性音楽じゃないけど、聴きやすい。ひたすら苛烈な音響が続くと付いていけないが、まるっきり伝統的書法に留まられても困るという、未知の新作オペラに対する不安を払拭してくれる。
●原作との関係、台本についてはいろんな見方があると思う。古典でもそうだが、やはりオペラと原作は別もの。オペラである以上、テキストの分量は原作よりはるかに減るのは必至。だから大胆になにかを削ったり省略したりすることになる。説明的な要素をどこまで入れて、どこまで削るかがオペラ台本の難しいところなんだろう。さらに、オペラならではの独自要素も付加される。特に第2幕後半から独自性が目立ってきて、これは映画「2001年宇宙の旅」でいうところの「スターチャイルド」パートだなーと思った(なんだそれは)。石川淳がクラーク、オペラがキューブリック。原作とは「文体」に相当するものがぜんぜん違うわけだから、石川淳というよりは伝奇ファンタジーみたいなテイストか。漂う昭和感。「とうとうたらり」「あっぱれ」「行(ぎょう)」などオペラ独自の言葉の使い方は効果的で、音楽と合わさって音としてのおもしろさを生み出す。
●うつろ姫の設定が、原作の醜女から美女に変更されているのはどうしてなんだろう。あと、平太は終盤にやっと出てくるだけで、宗頼との出会いという伏線がない。結果的に、三段階にわたって自己の分身を乗り越えるといったテーマ性は薄れて、うつろ姫/千草の側の重みが大きくなっている。もし原作を読んでいなかったら、ずいぶん違った受け止め方になったことはまちがいない。
●NHKによるテレビ収録あり。

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追記:日本語字幕の下に英語字幕もあった。

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