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March 15, 2021

辻彩奈 ヴァイオリン・リサイタル 2021

●12日は久々に紀尾井ホールへ。辻彩奈のヴァイオリン、阪田知樹のピアノで、前半にモーツァルトのヴァイオリン・ソナタ変ホ長調 K.380、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第7番ハ短調、後半に権代敦彦の「Post Festum ~ ソロヴァイオリンのための」(辻彩奈委嘱作品)、フランクのヴァイオリン・ソナタ。開演前アナウンスが辻彩奈本人でびっくり。いいアイディアかも。聴きものは後半。辻彩奈はつい最近、沼尻竜典指揮N響でショーソン「詩曲」とラヴェルの「ツィガーヌ」の名演を聴いたばかりだが、やはりフランクが期待通りの聴きごたえ。スケールの大きな表現、芯のある力強い音色、うねるような音楽の流れ。情感豊かで、かなり濃厚なのだが、決して無理がない。熱量のあるヴァイオリンに対して、バランスよく調和するピアノもすばらしい。
●先日のN響公演でもソリスト・アンコールとして権代敦彦のPost Festum 第3曲が演奏されたが、今回は全3曲を続けて演奏。といっても、この曲は本来、協奏曲のアンコールとして演奏される前提で独立した3曲が書かれたというもの(作曲者からのメモとして、第1曲はベルク、武満、第2曲はシベリウス、ブラームス、第3曲はメンデルスゾーン、チャイコフスキーの後と例示される)。3曲並べても演奏可能ということなので、先日のアンコールが本来の姿、今回の3曲全曲はオプションといった趣旨。演奏家自ら協奏曲用のアンコールを(しかも3曲も)委嘱しているのがおもしろい。委嘱作だけあってすっかり手の内に入っているようで、冴え冴えとしたソロ。余韻の実体化とでもいうべきか、あえて言語化すれば、風、気流のようなイメージ。無からふっと生まれて春の嵐を巻き起こして、また宙に消滅するかのよう。
●フランクで完璧に充足できたのでこれで終わってもいいくらいだったが、アンコールで、サティの「右と左に見える物(眼鏡なしで)」から「偽善者のコラール」(あまりに短く、肩透かしで終わるので客席が「えっ?」ってなるのが楽しい)、続いてパラディスの「シチリアーノ」で終演。
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●緊急事態宣言中だが都の新規感染者数は完全に下げ止まり、7日移動平均を見るとむしろ増え始めている。膠着状態に入った。