November 25, 2022

レナード・スラットキン指揮NHK交響楽団のヴォーン・ウィリアムズ

スラットキン NHK交響楽団
●今回のワールドカップ、疑惑のカタール開催ということで欧州を中心に批判が渦巻いているが、ファンにとって大きいのはシーズンオフの夏ではなく、秋の開催になってしまったこと。サッカーのシーズンは音楽界のシーズンとも重なっているわけで、秋のハイシーズン中にワールドカップを観戦することになってしまった。そんなわけで、24日はサントリーホールでレナード・スラットキン指揮NHK交響楽団。貴重なヴォーン・ウィリアムズ生誕150年記念プログラム、ワールドカップ中とはいえ聴かないわけにはいかない。
●プログラムは前半にヴォーン・ウィリアムズの「富める人とラザロ」の5つのヴァリアント、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲(レイ・チェン)、後半にヴォーン・ウィリアムズの交響曲第5番。スラットキンは指揮棒を持たず。前半でソリストを務めたレイ・チェンは台湾生まれのオーストラリア育ち。明確なパーソナリティを持った奏者で、その特徴を一言でいえば「ばえる」。音楽性から立ち居振る舞いまで、一貫してスターのオーラに包まれている。ステージマナーひとつとっても華がある。音色は輝かしく、潤いがあり、しかも音が大きいのが強み。使用楽器は1714年製ストラディヴァリウス「ドルフィン」。つまり以前は諏訪内晶子さんが使っていたものだと思うが、ぜんぜん印象が違う。音楽はエモーショナル。喜びは超喜びに、悲しみは超悲しみに拡大されて表現される。なので、最初は大仰さについていけないと思ったのだが、だんだん聴いているうちに癖になってくる。「素材の味」では伝わらない、しっかりした味付けのパンチのきいた世界の楽しさというか。ナイスガイぶりも伝わってきて、ファンが多いのも当然だと納得。アンコールを大きなはっきりした声で紹介してくれて、自らの編曲によるオーストラリア民謡「ワルチング・マチルダ」。鮮やかな技巧。
●ヴォーン・ウィリアムズの交響曲第5番は圧巻。これまでに聴いたスラットキンのベストパフォーマンスかも。オーケストラから深く豊かなサウンドを引き出す。N響、とくに弦楽器の緻密でニュアンスに富んだ響きが味わい深い。最近、ときどきN響の弦が神がかっていると感じる。ブロムシュテットが指揮したときとかもそうなんだけど。
●木曜日のN響はB定期なので、会場はサントリーホール。そんなことは百も承知なのに、なぜかNHKホールだと思いこんでいて、原宿に行ってしまった。駅を出て代々木公園の入口まで来たあたりで「あっ!」と気づいて、そこから前田大然並みの高速ダッシュで駅に引き返したら、なんとか開演に間に合った。やはりドイツ戦の逆転勝利で浮ついているのではないか。こんなところにもカタールで秋開催にした余波が!(違います)