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February 6, 2023

全国共同制作オペラ「田舎騎士道」&「道化師」(上田久美子演出)

全国共同制作オペラ「田舎騎士道」&「道化師」
●3日は東京芸術劇場で全国共同制作オペラ「田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)」&「道化師」。毎回、チャレンジングな演出家の起用が話題になるシリーズだが、今回は宝塚歌劇団で多くの演出を手掛けてきた上田久美子がオペラに初挑戦。最高に野心的な演出による刺激的な舞台が実現した。終演後にコロナ禍以降、初めて客席から大きなブーが出たのを耳にしたが、これだけ果敢な演出にブーが出なかったらあまりに寂しい。賛否両論は狙いが成功した証だろう。率直に言って、改善の余地のある部分も多々あったと思うのだが、「もう一回、見たい!」と思える演出だったことはたしか。
●事前の記者会見で「文楽方式で、歌とダンサーによる昔のイタリアと今の日本の重ね絵のようなものを実現したい」という上田の言葉があったが、まさにその通りで、ひとつの役に対して歌手とダンサーとふたりの配役があり、それぞれ同時に舞台上で物語を演じる。ただ、歌手は台本通りのイタリア・オペラの世界を生き、ダンサーは大阪の街で生きている。歌手の役名は本来の作品通りだが、ダンサーの役名はそれを日本語化した名前になっている(たとえばトゥリッドゥは護男、アルフィオは日野、カニオは加美男といった具合に)。おまけに字幕も2種類あるのだ。ひとつは本来の字幕、もうひとつは大阪弁に翻案された字幕(これが秀逸!)。通常の演出と読み替え演出が同時進行することで、イタリアと大阪のパラレルワールドが出現。そしてたまに、このパラレルワールドが交わり合う瞬間がある。
●だけど、それじゃ情報量が多すぎてわけがわらないのではないか。そんな心配があるわけだが、実際にマスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」はカオスだった。本来のオペラにダンサーたちの活発な演技も加わり、どこに目をやっていいのかわからない。せっかく読響がいて、そこにアッシャー・フィッシュが指揮をしているというのに、混乱して音楽がまるで頭に入って来ない。歌手陣はトゥリッドゥにアントネッロ・パロンビ、サントゥッツァにテレサ・ロマーノ、ローラに鳥木弥生、アルフィオに三戸大久、ルチアに森山京子。ダンスに関しては門外漢なのだが、聖子(=サントゥッツァ)役の三東瑠璃が異次元の身体能力で爆発的なエネルギーを発散。全体としてはヴェリズモの救いのない世界が、大阪とパラレルワールド化することで、予想外にコミカルなテイストになっていた。大阪という身近な世界に近づいたはずなのに、かえって他人事感が出てきて悲劇の度合いが薄まるというか。あと、字幕は大阪弁だけでよかったんじゃないか、とも感じる。
●でも、後半のレオンカヴァッロ「道化師」はこの演出スタイルがピタッとはまって、うまくいっていた! 劇中劇があるだけになおさらカオスになるかと思えばそんなことはなく、イタリアの世界と大阪の世界がちゃんと共存していて、整理されて描かれている。歌手陣はカニオにアントネッロ・パロンビ、ネッダに柴田紗貴子、トニオに清水勇磨。「道化師」冒頭の前口上でみんな気づいたと思うけど、本来はこちらが先に上演されるプランだったんすよね。前口上が演出意図のガイドになっている。でも、予定が変わって「道化師」が後になった。これは演出家が気の毒ではあるけど、やっぱり音楽作品としては「道化師」が後になるのはいろんな点で正解だと思う。大阪の世界では登場人物たちは和風の旅芸人一座として描かれているんだけど、芝居の前に村人たちが教会に行くんじゃなくて、みんなでナイターの阪神巨人戦をテレビで応援する設定に読み替えられているのには感心。納得するしか。
●この演出、なにせ歌手とダンサーの両方がすべての役に必要なわけで、リハーサルも大変だったと思うけど、できれば再演してほしいもの。