May 1, 2023

ピエタリ・インキネン指揮日本フィルのシベリウス「クレルヴォ」

ピエタリ・インキネン 日本フィル
●28日はサントリーホールでピエタリ・インキネン指揮日本フィル。インキネンの首席指揮者として最後の東京定期ということで、シベリウスの「クレルヴォ交響曲」がとりあげられた。ソプラノにヨハンナ・ルサネン、バリトンにヴィッレ・ルサネン、男声合唱はヘルシンキ大学男声合唱団と東京音楽大学の合同で。フィンランドの民族叙事詩「カレワラ」を題材とした初期の大作。
●全5楽章だが、声楽が入るのは第3楽章と第5楽章のみ。長大な第3楽章が全曲の中心。圧巻。クレルヴォが誘惑した娘は実の妹だった、という物語はどうしたってワーグナー「ニーベルングの指環」のジークムントとジークリンデを連想させる。曲中の歌詞には出てこないが、クレルヴォが鍛冶屋のところで働かされるというストーリーも、ジークフリートを思わせる。音楽は冒頭こそ一瞬ワーグナーを連想したが、あっという間に若き日のシベリウスの豊かな語り口で染められる。壮大な叙事詩にふさわしい起伏に富んだ音楽なのだが、兄妹の近親相姦が判明するショッキングな第3楽章の後、第4楽章の戦闘の音楽が急に楽天的なタッチになるのが割と謎。なんとなく、作品の「つなぎ目」を感じる。最後の第5楽章はふたたびシリアスな曲調にもどってクレルヴォの自決が描かれる。
●字幕はなかったが、テキストの分量がそう多くはないので、事前にプログラムの対訳に目を通すことでカバーできる範囲。男声合唱がすばらしい。力強く明快で、意外と明るい声。独唱者のふたりが姉弟なのにもびっくり。インキネン指揮の日フィルは集中力が高く、弛緩するところがない。透明度の高いサウンドも吉。これまでインキネンはあまり積極的には聴いてこなかったけど、これは記念碑的名演だと思った。インキネンのソロ・カーテンコールあり。