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July 28, 2023

チョン・ミョンフン指揮東京フィルのヴェルディ「オテロ」(演奏会形式)

●27日は東京オペラシティでチョン・ミョンフン指揮東京フィル。昨秋の「ファルスタッフ」に続いて、今回はヴェルディの「オテロ」(演奏会形式)。以前のノット指揮東響のシュトラウス「エレクトラ」や「サロメ」でも感じたことだけど、演奏会形式にしてはじめて可能になるオーケストラの雄弁さを味わった。精緻で細部まで彫琢された「オテロ」。これはオペラという芸術の大いなる矛盾だと思うんだけど、本来オペラはどこまでも劇場のものであるはずなのに、演奏会形式じゃなきゃ聴けない領域がある。たまたま東フィル、東響という新国立劇場のピットでいつも耳にしているオーケストラで、相次いで演奏会形式のオペラを聴いただけにそう思ってしまう。ただ、ノットのシュトラウスがかなり交響詩的な手触りだったのに対して、チョンのヴェルディはコンサートホールの劇場化という面を強く感じさせる。これは作品の違いも大きいか。
●歌手陣はオテロにグレゴリー・クンデ、イアーゴにダリボール・イェニス、デズデーモナに小林厚子、カッシオにフランチェスコ・マルシーリア、エミーリアに中島郁子、ロデリーゴに村上敏明他。合唱は新国立劇場合唱団。合唱も含めて可能なかぎり演技も伴う。クンデのオテロは精悍でパワフル。イェニスのイアーゴがドラマを動かすエンジン。
●やっぱり音楽の密度では「オテロ」と「ファルスタッフ」はヴェルディの双璧だなと思う。成功の要因はたぶん、思い切ったドラマの簡素化。シェイクスピアの原作から第1幕を丸々カットして、第2幕のキプロス島からオペラを始めようと思いついたのは台本のボーイトなのだろうか。その分、オテロとデズデーモナの関係性、たとえば肌の色の違いに加えて年齢の隔たりがあるといった要素はオペラでは希薄になっているが、ヴェルディの音楽は刈り取られた部分を補ってあまりある。「柳の歌」とか、ドラマ的にはイヤな場面すぎて見てられないけど、音楽はもうドラマから自立してしてしまっているというか。
●前にも書いたけど、真犯人はエミーリア。彼女はなにが起きるかわかっていて、イアーゴにハンカチを渡したんだと思う。こまめにデズデーモナに出来事を連絡しておけば、悲劇は防げた。

オテロ 「オレが贈ったハンカチをどこにやった!」
デズデーモナ 「あら、あのハンカチならイアーゴに無理やり奪われたってエミーリアが言ってましたよ」
オテロ 「へー、そうなんだ」

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