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November 1, 2023

内田光子 with マーラー・チェンバー・オーケストラ ミューザ川崎

●31日はミューザ川崎で「内田光子 with マーラー・チェンバー・オーケストラ」。モーツァルトのピアノ協奏曲第25番、シェーンベルクの室内交響曲第1番、モーツァルトのピアノ協奏曲第27番というとても魅力的なプログラム。シェーンベルクは前後半どちらに入るのかと思ったら前半だった。モーツァルトは内田光子の弾き振り、シェーンベルクは指揮者なし、立奏スタイル。
●ピアノ協奏曲第25番、冒頭の一音からすごい音。この曲、ウィーン時代の協奏曲のなかでもとりわけ力強くて祝祭感のある作品だと思うのだが、ぱっと晴れやかに始まるのではなく、ズズズッと地の底から湧き出るような音が鳴ってびっくり。オーケストラは8型。まさに腕利き集団といった様子で、鮮烈でフレッシュ。ピアノとオーケストラの対話性が豊かで、大きな室内楽を聴いているかのよう。モーツァルトの協奏曲でオーケストラがこんなに喜びを発散させながら弾く姿はふだんなかなか目にしない。すこぶる上機嫌の曲だけど(大好きな曲)、終楽章で少し寂しさが滲んで第27番を予告する。シェーンベルクの室内交響曲第1番は編成が独特で、舞台転換に時間をかけて。ライブで聴くと編成の特異さが際立つ。管楽器に対して弦楽器は細身で、切っ先の鋭い剣のよう。アレグロ、スケルツォ、アダージョ、フィナーレの4楽章制交響曲のように認識して聴くんだけど、アダージョ部分が案外と官能的で後期ロマン派の残滓あり。フィナーレはパッション炸裂、エキサイティング。
●後半のピアノ協奏曲第27番はピアノの柔らかく幻想的な音色表現が印象的。清澄で淡く、ときに寂しすぎてゾクッとするモーツァルト。とくに終楽章はたまらない。アンコールにシューマン「謝肉祭」より「告白」。いっそうしみじみとした味わいで終わる。
●川崎からの帰り道、渋谷駅で仮装した人々を見かける。彼らは「謝肉祭」の登場人物たち……ではなく、今日はハロウィンだった。