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January 19, 2024

ジョン・アダムズ指揮東京都交響楽団の自作自演プログラム

ジョン・アダムズ指揮東京都交響楽団
●18日はサントリーホールでジョン・アダムズ指揮都響。オール自作自演プログラムで、ジョン・アダムズの「アイ・スティル・ダンス」(2019、日本初演)、「アブソリュート・ジェスト」(2011)、「ハルモニーレーレ」(1984-85)。客席は盛況。本日、同一プログラムで東京文化会館でも公演がある。ジョン・アダムズが日本のオーケストラを振るのはこれが初。ベルリン・フィルはじめ各地のトップオーケストラで自作を指揮しているが、76歳にしてついに貴重な機会が実現。「ハルモニーレーレ」、たぶん、過去に2回聴いていると思うけど(下野竜也指揮の読響、初演者であるエド・デ・ワールト指揮のN響)、作曲者自身の指揮で聴けるとは。漠然と壮年期の姿でしかイメージしていなかったので、ジョン・アダムズがすでに高齢であるという事実に軽い驚きを覚えるのだが、若々しさを保っている。あの複雑な拍子の自作を明快な棒で振り切るバイタリティ、動きのシャープさを維持しているのだからすごい。ゲストコンサートマスターに水谷晃。うれしい。「アブソリュート・ジェスト」の共演者はエスメ弦楽四重奏団。
●3曲ともサンフランシスコ交響楽団が初演した作品。前半、幕開けを飾る「アイ・スティル・ダンス」は重量感のあるサウンドでエネルギッシュ。エレキベースが入る。「アブソリュート・ジェスト」は弦楽四重奏+オーケストラという特異な編成で、ベートーヴェン作品からの断片的な引用が散りばめられた一種のスケルツォ。ベートーヴェンの「第九」、交響曲第4番、弦楽四重奏曲第16番の各スケルツォ楽章などが次々と姿を見せる。ソリストアンコールにベートーヴェンの弦楽四重奏曲第13番からスケルツォの第2楽章。
●で、後半がお待ちかねの「ハルモニーレーレ」。前半が近作、後半が過去のマスターピースというプログラムになっていて、近作はとても洗練されていて、複雑さと明快さを兼ね備え、ぐっとオシャレな感じがするわけなんだけど、でも心をわしづかみにするのは旧作「ハルモニーレーレ」の取り憑かれたようなパッションとマグマのような創造のエネルギー。ミニマル的な書法と後期ロマン派の和声の融合という、本人いわく「一回きりのアイディア」への熱中から生まれた爆発的な傑作。めちゃくちゃカッコいいけど、ぜんぜんオシャレではない。第1楽章、巨大タンカーが宙に浮かびロケットのように旅立つ夢から着想したというエピソードが有名だが、この中二病的な発想と来たら。長い第1楽章の中間部の官能性もたまらないし、ふたたび巨大タンカーが戻ってくるところも熱い。第1楽章のおしまいで思わず拍手をした人がいたけど、気持ちはよくわかる。そういう音楽だと思う。第2楽章が「アンフォルタスの傷」だなんて、もう。第3楽章「マイスター・エックハルトとクエッキー」は正直ピンと来ないタイトルなのだが、クエッキーは娘さんのニックネームなんだとか。
●ずばり、前半はモテる音楽、後半はモテない音楽。だから後半が熱い。休憩時、男子トイレにブルックナー級の大行列ができていて、なんだか腑に落ちた。
●客席は大喝采で熱狂的。楽員退出後も拍手が止まず、ジョン・アダムズとエスメ弦楽四重奏団がいっしょに再登場してカーテンコール。客席には著名音楽家の姿がたくさんあったんだけど、なによりテリー・ライリーがいるというのがすごすぎる。88歳。しばらく前から山梨の田舎で暮らしているらしい。ステージ上にジョン・アダムズ、客席にテリー・ライリー。伝説だ。