●8日はNHKホールでペトル・ポペルカ指揮N響。昨年、プラハ放送交響楽団の高崎公演を聴いて好印象だったポペルカがN響に初登場。プログラムはツェムリンスキーのシンフォニエッタ、リヒャルト・シュトラウスのホルン協奏曲第1番(ラデク・バボラーク)、ドヴォルザークの交響詩「のばと」、ヤナーチェクのシンフォニエッタ。シンフォニエッタで始まりシンフォニエッタで終わるのがおもしろい。長い曲がなく、4曲ともわりと似たような尺なので、おいしいものを少しづつ詰めた幕の内弁当みたいなプログラム。ちょうど先日、新国立劇場でツェムリンスキーの「フィレンツェの悲劇」を観たので、合わせ技でプチ・ツェムリンスキー週間が作れた……と悦に入っていたら、この日の昼の新国立劇場とはしごして一日でツェムリンスキー祭をしている人をふたりも見かけた。
●ツェムリンスキー作品、シンフォニエッタと言うからには古典志向があるはずで、実際、急─緩─急の3楽章構成による軽快機敏なフォームを持っている。が、その響きの彩りは後期ロマン派流というキメラ感が楽しい。聴きながら、これってたとえばストラヴィンスキーの「ダンバートン・オークス」あたりとどっちが先なんだろうと思ってしまった。後で調べたらツェムリンスキーが1934年、ストラヴィンスキーだと「ダンバートン・オークス」は少し後の1937~38年。3楽章の交響曲とか交響曲ハ調はもっと後、ヴァイオリン協奏曲は少し早くて1931年。ツェムリンスキー、がんばってる。
●バボラークはシュトラウスのホルン協奏曲第1番をこれまで何回演奏しているのだろうか。ホルンという楽器が別次元に到達している感は今回も変わらず。しかも楽しそうに吹く。名人芸を堪能。ソリスト・アンコールに自作の「狩りのファンファーレ」。これは以前にも聴いたけど、超絶技巧。
●ドヴォルザークの「のばと」が圧巻。交響曲と違って、ドヴォルザークの交響詩は題材由来のダークサイド成分多めで、あまり積極的に聴こうとは思わないのだが、ポペルカは本領発揮、語り口豊かに物語世界を伝える。雄弁。整然として、ていねいに調合された土の香りとでもいうか。ヤナーチェクのシンフォニエッタは後列に横並びのバンダが壮観。こちらはシンフォニエッタの題ながら古典主義的な性格は希薄で、あまりに独創的。この曲が村上春樹の小説「1Q84」で話題になったのは何年前だっけ。以来、これを聴くと2つの月がある世界を連想せずにはいられない。
February 10, 2025