●20日はサントリーホールで佐渡裕指揮新日本フィル。恩師バーンスタインにちなんだプログラムで、ベートーヴェンの「レオノーレ」序曲第3番、バーンスタインの「ミサ」からの3つのメディテーション(チェロ:櫃本瑠音)、バーンスタインの交響曲第3番「カディッシュ」(朗読:大竹しのぶ、ソプラノ:高野百合絵)が演奏された。「カディッシュ」の合唱は晋友会合唱団と東京少年少女合唱隊。「レオノーレ」序曲第3番と「カディッシュ」は、1985年に来日したバーンスタインが広島平和コンサートで指揮した曲目。
●ベートーヴェンの「レオノーレ」序曲第3番は重心低めで雄渾。佐渡裕が音楽監督就任以降取り組んできた「ウィーン・ライン」の成果を感じる。かつてのアルミンク時代とはまた違った方向性の剛健なベートーヴェン。「ミサ」からの3つのメディテーションでは櫃本瑠音が集中度の高いソロを披露。ソリスト・アンコールにマーク・サマーの「ジュリー・オー」。
●白眉はやはりバーンスタイン「カディッシュ」。生前はスター指揮者として圧倒的な輝きを放っていたバーンスタインだが、没後35年を迎えた今、以前には予想もできなかったほど作曲家としての存在感が増しており、その管弦楽作品は20世紀後半のアメリカ音楽としてレパートリー化しつつあると感じる(逆に指揮者だったことを知らない人がだんだん増えているのでは)。今回の「カディッシュ」では松岡和子訳による日本語テキストを大竹しのぶが朗読。字幕もあるのだが、やはり日本語で朗読されるとテキストの重みがぜんぜん違ってくる。日頃、音楽ファンとしてごく当たり前にミサ曲などキリスト教音楽を宗教的文脈から切り離して聴いているわけだが、このユダヤ教音楽においても聴き方は変わらない。
●が、ひと味違うのは、この曲が神の礼賛にまったく留まっていないところで、むしろ人間が神を疑い、神を慰めるという点が現代的。神に向かって「私を信じなさい」と語り、最後は神と人が「お互いを創りなおそう」と呼びかける。これは「キャンディード」のラストシーンと通じるものがあるんじゃないかな。人と神との再構築宣言。「神が人を創った」と「人が神を創った」の立場が合一を果たす。終楽章で合唱によるフーガがくりひろげられる声楽入り交響曲という点では、ベートーヴェンの「第九」も連想する。
April 22, 2025