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June 4, 2025

アレクサンダー・シェリー指揮国立カナダナショナル管弦楽団

●3日はサントリーホールでアレクサンダー・シェリー指揮国立カナダナショナル管弦楽団。40年ぶりの来日で、初めて聴くオーケストラ。N響ゲストコンサートマスターでもある川崎洋介が長年にわたってコンサートマスターを務めており、今回の来日公演の宣伝用ビジュアルには指揮者でもソリストでもなくコンサートマスターの写真がドーンと使われていた。会場にはカナダ関係者多数。ちなみに指揮のアレクサンダー・シェリーはハワード・シェリーの息子。
●オーケストラの入場は北米方式で、一斉入場はなく、いつまにか楽員がそろっているスタイルなのだが、その後コンサートマスターが登場すると拍手とともに客席のあちこちから「ヒュー!」と歓声があがった。珍しい光景。珍しいといえば、最初に両国の国歌があったのも珍しい。かつてはウィーン・フィルも「君が代」を演奏したけど、なんだか懐かしい感じだ。国歌ということで奏者は立奏、客席も多くが立ち上がる(立たない人もいる)。サッカーの代表戦みたいな気分になる。さすがに歌わないが、演奏が終わると脳内ニッポンコールが響きだすのは不可避。ドドドン、ニッポン、ドドドン、ニッポン……。
●プログラムはケイコ・ドゥヴォーの「水中で聴く」、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番(オルガ・シェプス)、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」。一曲目のケイコ・ドゥヴォーはモントリオール拠点の作曲家で、「水中で聴く」はこの楽団の委嘱作。2023年初演。海中で響く音楽といった趣で、海面の波やゆるやかな水流、海面を照らすきらめくような太陽の光、ゆったりと泳ぐクジラやイルカたちによる対話といった情景を思わせる。緻密で深い響きがたゆたうように流れて、すこぶる幻想的。明快なメロディはなくとも、聴きやすい作品。さすがに演奏は見事。作曲者臨席、演奏後にステージ上で喝采を浴びた。
●ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番ではロシア生まれドイツ育ちのオルガ・シェプスがソロを務めた。遅めのテンポでじっくりと。オーケストラのたっぷりとした豊麗な響きを向こうにして奮闘。華のある人。ソリスト・アンコールに、モーツァルトの幻想曲ニ短調K.397を内田光子の補筆版で弾くと話してから演奏。これはびっくり。この曲、一般的には未完の曲と認識されていないと思うが、ニ長調の終結部のおしまいの部分は他人による補筆なので、内田光子は補筆部分を使わずに、冒頭のニ短調の序奏を回帰させて静かに終わるという独自の形でフィリップスに録音を残している。これを再現してくれた。演奏スタイルはロマンとドラマのモーツァルト。
●後半のベートーヴェン「運命」はオーケストラの本領発揮。管も弦も明瞭で輝かしく、エッジの立った演奏。冒頭の「運命の動機」からして弦がリッチでシルキー。磨き上げられたサウンドによるスペクタクル。うまい。第4楽章の提示部リピートありも吉。スタイリッシュで、眉間にしわを寄せないからりとしたベートーヴェン。コンサートマスター川崎洋介は、N響で見せる姿と同様に、ひんぱんに腰を浮かして熱くリード。シェリーの造形はモダン、スマート、シャープ。最後の一音が終わるよりも前からパラパラと拍手が出て、客席側にも文化の違いを感じる。アンコールにブラームスのハンガリー舞曲第5番、さらにもう一曲、指揮者の「お国もの」であるエルガーの「エニグマ変奏曲」より「ニムロッド」。
●カーテンコール時、客席のあちこちでスマホで写真を撮る人が多数いて、「撮影禁止」の札を持った係員の方は大忙しだった。ルールが現状に追いついていない感じ。

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