February 15, 2008

「音盤考現学」(片山杜秀著/アルテスパブリッシング)

音盤考現学●一気読みするのはもったいないので、少しずつ読み進め中→片山杜秀さんの「音盤考現学」(アルテスパブリッシング)。「レコ芸」連載「傑作!? 問題作!?」、待望の単行本化。雑誌連載だとどうしても読み落としちゃうので、これはホントに書籍になってくれてよかった。もちろん、猛烈におもしろい。
●たとえば、「ルトスワフスキのドラマツルギー」の項。ルトスワフスキの交響曲第3番とピアノ協奏曲のCDをとりあげているんだけど、まず昔の東映やくざ映画の話から入るわけっすよ。で、やくざ映画というのがどんな物語構造を持っているかという基本を教えてくれた上で、ルトスワフスキの交響曲第3番は正統派やくざ映画だ、と看破する。しかも交響曲第4番も弦楽四重奏曲もチェロ協奏曲も、みんなやくざ映画的音楽だったという目ウロコ的展開。いやー、すばらしすぎる。
●あるいはニーノ・ロータ(映画「ゴッドファーザー」の曲とか書いてる人です、念為)。発売されたときに当サイトでもちらっと紹介したけど、EMIからトマッシ&ムーティ指揮スカラ座フィルでニーノ・ロータのピアノ協奏曲という、恐ろしくクラシカルなCDが出たじゃないですか。これを取り上げるにあたって諸井三郎の交響曲第3番から話が始まる展開も美しいのだが、で、同じ協奏曲が以前にシャンドスから出ていたディスクと比べ、いかにEMI盤が別種の音楽となっているかを述べる。シャンドスのバルンボが90秒かけてる序奏が、EMIのトマッシは40秒で弾くっていうから、そりゃあ同じ曲には聞こえない。で、この解釈の違いを片山さんはニーノ・ロータの二人の師、ピッツェッティとカゼッラに求める。同じロータを演奏するにも、前者はロータのピッツェッティ的資質を、後者はカゼッラ的資質を極大化して聴かせたものだ、と。なんという明晰さ! 身悶えしながら座布団パンパン叩きたくなるでしょ、鮮やかすぎて。
●こういうのが本当のレコード評論、本当の音楽評論なんだと思う。演奏の部分部分を個別に取り上げて、ここはいい、ここは悪いと指摘する「審査」や「査定」なんかの対極。審査・査定を読んでしまうと「で、それで?」って言いたくなる。でもこの本は評論・批評なので、一つの項を読むごとにワクワク、ドキドキする。

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