Booksの最近のブログ記事

January 22, 2020

Jリーグ新戦術レポート2019(西部謙司著/三栄書房)

●これは良書。「Jリーグ新戦術レポート2019」(西部謙司著/三栄書房)。現在のJリーグの戦術のトレンドがチームごとにコンパクトかつ明快にまとめられている。今季はもっとも急進的な戦術を採用するマリノスが優勝したとあって、戦術面で語るべきところの大きなシーズンだったと思う。マリノスのハイライン、ハイプレス、偽サイドバックの超攻撃的サッカーもさることながら、片野坂監督の大分やペトロヴィッチ監督の札幌など非常に多彩。ゴールキーパーにも足元がうまいタイプと、セーブ力を武器とする伝統的なタイプがいて、それぞれにチーム哲学が反映されていたと思う。
●マリノス以外で印象的だったのは大分。この本では「疑似カウンター」って名付けられていて、なるほど。大分もマリノスと同様に自陣深くでもパスをつないでボールを保持するのだが、狙いはマリノスとぜんぜん違う。ハイプレスをかけてくるチームがボールを奪おうと前がかりになったところで、キーパー高木から正確なキックで前線の藤本憲明(神戸に移籍)につないで、あたかもカウンターアタックのような攻撃を作り出す。「疑似カウンター」というか、「セルフカウンターアタック」というか。最初の対戦でマリノスはまんまと罠にはまった。
●あと、Jリーグで3-4-2-1(3-6-1)がこれだけ広まっていたのも軽い驚き。森保監督も好む布陣で、J1だと広島、大分、札幌、浦和、湘南が採用している(J2ではもっと多いかも)。これに3-5-2のガンバ大阪、神戸、松本を加えた8チームが3バック勢。だいぶ4バックと拮抗している。そう考えると森保監督が3バックを敷くのも無理はないのか。ただし上位5チームはすべて4バックだったことも見逃せない。
●現代のサッカーは、バックラインに相手フォワードがプレスをかけてくるのが前提になっているので、いかに後方から相手のプレスをかわしてビルドアップするか、という点でチームごとになんらかの工夫が必要になる。キーパーを含むバックラインから、中盤の選手に前を向かせるまでのプロセスで、どれだけオートマティズムを持ち込めるか、というのがゲームを支配する鍵。

January 21, 2020

十二月の十日(ジョージ・ソーンダーズ著/岸本佐知子訳/河出書房新社)

●ジョージ・ソーンダーズの新刊「十二月の十日」(岸本佐知子訳/河出書房新社)を読む。多様な奇想で彩られた短篇集なのだが、おおむね共通するのはダメ男たちのストーリーであること。貧乏だったり、賢さが足りなかったりする男たちが、ピンチに直面して悪戦苦闘する。印象的だったのは「センプリカ・ガール日記」。娘が誕生パーティで惨めな思いをしないように、経済的な苦境にある父親が駆けずり回って、一発逆転の華やかなパーティを開く。ところが……。一見普通の現代アメリカの光景のように思えて、読み進める内に庭に設置する「SG飾り」なるものの正体がわかって慄く。笑ったのは「スパイダーヘッドからの脱出」。人間モルモットになって感覚を増幅する薬を投与された若者たちを描く。
●全体に「トホホ」では済まされない、身につまされる話が多い。苦くて、切ない。同時に、多くは救いのある話でもある。孤独ないじめられっ子の少年と自ら命を絶とうとする男の奇妙な出会いを描いた表題作もそうだし、巻頭のモテない少年の「ビクトリー・ラン」や、暴力的衝動に突き動かされる孤独な帰還兵の「ホーム」もそう。ダメ男たちに訪れるささやかな栄光の瞬間、と言えるのか。

January 10, 2020

バレリア・ルイセリ「俺の歯の話」(白水社)

●(一昨日から続く)もう一冊は新刊でバレリア・ルイセリの「俺の歯の話」(松本健二訳/白水社)。メキシコ出身ながらスペイン語と英語の両方で小説を書く著者による、パチューカ生まれの競売人のささやかな成功と失敗を描いた物語(パチューカといえば本田圭佑が一時期所属していたクラブだ)。歯小説であり収集癖小説でもありアートギャラリー目録小説でもあるという、まったくオリジナルな作品。中南米出身の作家に対して期待されるような、ローカル色豊かな小さな逸話の集積にもたしかにおもしろさがあるのだが、筆致は至って現代的で、アメリカから遠くに眺めるスペインの風景といった感。いくぶん都会的な線の細さも漂う。
●著者はてっきり男性だと誤解して読んでいたが、途中で(名前が示すように)女性だと気づいて軽く驚く。スペイン語と英語を自在に行き来する著者だが、自作をスペイン語から英訳する段階で大幅に改稿され、翻訳が再創造になるという創作プロセスが興味深い。
--------
●お知らせを。東京・春・音楽祭のサイトに拙稿掲載。毎年短期連載させてもらっているコラムで、昨年のシェーンベルクに続いて、今年はベートーヴェン。「友達はベートーヴェン」第1回「運命はかく扉を叩くvs鳥のさえずり」。ご笑覧ください。

January 8, 2020

「ミゲル・ストリート」(V・S・ナイポール著/岩波文庫)

●年末年始、たまたま続けて強烈な辺境性を宿した新旧ふたつの物語を読んだ。ひとつはV・S・ナイポールの「ミゲル・ストリート」(小沢自然・小野正嗣訳/岩波文庫)。ノーベル賞作家が1959年に書いたデビュー作で。昨年、文庫になった。イギリスの植民地だった頃のトリニダード島の街が舞台で、登場する男たちはだれもかれもダメ男と変人ばかり。ろくに働いていない男だらけで、やたらとラム酒を飲み、子供と奥さんを殴る。どうしようもない連中だが、どんな変人でも共同体の一員として受け入れてしまう南国的な大らかさがあって、だれも飢える者はいない不思議な街。
●おかしな話が満載だが、とりわけ印象的だったのは「機械いじりの天才」の章。クルマをいじられずにはいられないオジサンが、修理するといってはクルマを壊してしまう。わからないのなら触らなければいいのに、どうしてもいじってしまう。なんだか身につまされる。目次を見た時点でわかるように、最後に主人公は教育を受けるためにこの街を後にする。どこか故郷を「見捨てる」ような話の閉じ方が、この連作短編集の肝なんだと感じる。(つづく

December 25, 2019

シャーロック・ホームズと「ボエーム」

●メリクリ。サンタさん、おつかれさまでした。
●クリスマスといえばオペラ「ボエーム」。先日、その原作であるアンリ・ミュルジェール著の「ラ・ボエーム」が光文社古典新訳文庫から刊行された。原作の本来の書名は「ボヘミアン生活の情景」だが、有名なオペラのほうに揃えたということなんだろう。この原作、コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズにも登場していたことに気づいた。
読んでいるのはホームズではなく、ワトソンのほう。「緋色の研究」のなかで、夜、尾行に出かけたホームズを、ワトソンがワトソンが待っているという場面。

ホームズが出かけたのが9時近く。どのくらいで帰ってくるか見当もつかなかったが、わたしはぼんやりとパイプをふかしたりアンリ・ミュルジェの『ボヘミアンの生活の情景』を拾い読みしたりしていた。

●なるほど、あの分厚さであれば、いつ帰ってくるかもわからないホームズを待ちながら「拾い読む」のにふさわしいかもしれない。ちなみに「緋色の研究」にはホームズがヴァイオリンについて蘊蓄を傾ける場面などもあって、なにかと楽しい。一夫多妻制時代のモルモン教についての描き方も興味深いところ。
●ジョージ・クラムの「1979年のクリスマスのための小組曲」をSpotifyで貼り付けるテスト。


December 23, 2019

「メインテーマは殺人」(アンソニー・ホロヴィッツ著/創元推理文庫)

●これまでに読んだ「カササギ殺人事件」「シャーロック・ホームズ 絹の家」「モリアーティ」がことごとく傑作だったアンソニー・ホロヴィッツ。新作の「メインテーマは殺人」(創元推理文庫)もおもしろくないはずがない。と思って読み進めているうちに、これが「このミス2020」海外編の1位になったと知る。納得。すばらしく冴えている。
●今回の「メインテーマは殺人」の主人公は著者自身。作家本人が主人公として登場するのだが、彼のもとに元刑事の切れ者が訪れる。この元刑事が異様に鋭い観察眼の持ち主で、著者を一目見ただけで「しばらく田舎で過ごしていただろう」とか「新しい子犬を迎えた」とかズバズバと推理を的中させる。つまりこの元刑事がホームズ役、著者がワトソン役なんである。著者は本を書くために殺人事件の捜査をワトソン役として取材する……で、書かれたのがまさしくこの本というメタな趣向。本筋の謎解き部分はとてもフェアで、よく練られている。でもなによりすばらしいのは、読んでいて気持ちよくて、どんどんページをめくりたくなるところ。ミステリとは無関係のところでおもしろいところがいくつもあって、たとえばこういう一節。

原則として、わたしはウィキペディアは避けることにしている。探したいものがはっきりとわかっている場合には、あれはごく便利なサイトではあるが、あまりにまちがいが多すぎる。そのため、作家がウィキペディアを使って、いかにもきっちりと調べましたという顔をしようとすると、往々にして大失敗をやらかすことになってしまうのだ。

わかりすぎるくらいわかる真実。あるいはこれも。

もの書きを本業としている人間にとって、仕事を断ることほどつらいものはない。もう二度と開かないかもしれない扉を、自らぴしゃりと閉めてしまうようなものだからだ。

●読み終わった後で、最初に戻ってざっと眺めていると、「あ、ここにこんなことが書いてあるのじゃないの!」みたいな発見があって楽しい。

December 11, 2019

「ラ・ボエーム」原作が光文社古典新訳文庫から刊行

●これまで邦訳がなかったと思うのだが(たぶん)、アンリ・ミュルジェール著の「ラ・ボエーム」が光文社古典新訳文庫から刊行された。「ラ・ボエーム」といえば、もちろん、プッチーニのオペラを思い出すわけだが、オペラの対訳はあっても、その出発点である原作を読めないもどかしさがあったわけで、これは朗報。
●いやー、なんでオペラのほうはあんな人気作なのに、原作がなかったんすかねー、さっそくポチッとな、と思って価格を見てギクリ。文庫本で1760円ということはページ数は……おお、672ページ! なんだそれは。このページ数に大いにひるんで、まずはいったん書店で手にしてみるかと思いなおす。そんなに厚いんだったらkindle版がほしいけど、しばらく待っていたら出るんだろうか。うーん、どっちなんだ、これは。
●Jリーグが感動的な幕切れ(←マリノス・ファン限定)を迎えたと思ったら、中二日で代表戦。EAFF E-1サッカー選手権が韓国で開催されて、まずは中国対ニッポン戦で始まった。しかしそんなにすぐに代表戦があるとは思わず、テレビの録画予約を忘れてしまう。DAZNに慣れた今、わざわざ録画を予約しなければいけない試合があることに不条理を感じる始末。慣れって怖い。国内組による実質B代表みたいなチームなので、気持ちが盛り上がっていないせいもあるかも。

November 29, 2019

十二国記「白銀の墟 玄の月」第3巻&第4巻 (小野不由美著/新潮社)

●さて、18年ぶりに出た「十二国記」シリーズの最新作「白銀の墟 玄の月」、先日の第1巻&第2巻に続いて、第3巻&第4巻も読み切った。いやー、長かった。読みやすいけど、長かった。第1巻と第2巻はストーリーがぜんぜん展開しなくて、ずーっと人探しをしていて、あっちを探したら見つからない、こっちにいるかと思って来てみたらやっぱりいなかった、みたいな出来事の連続だった。
●で、後半の第3巻&第4巻。どんどん話が動き始めた。そして、第4巻に入ると猛烈な勢いで話が畳まれる。なにしろ登場人物が多いので、最後は「えっと、この人はだれだっけ……?」みたいな事態にもなりがちだが、なんだか途中で物語の設計図が変更されてしまったかのような印象を受けるのはワタシだけだろうか。特に阿選と琅燦のふるまいに違和感が残っていて、「十二国記」世界観を揺るがすような大きな展開があったかもしれないのに、前半が長すぎてうやむやになってしまったような気が。でも、個別にいいシーンはたくさんあったので、読書の楽しみは存分に味わった。講談社X文庫ホワイトハート以来の付き合いという意味では、映画「スター・ウォーズ」に匹敵するくらいの気長なシリーズ。もっと読みたいけど、やっぱり話がどんどん動いたほうが「十二国記」らしいかな。

このアーカイブについて

このページには、過去に書かれたブログ記事のうちBooksカテゴリに属しているものが含まれています。

次のカテゴリはDiscです。

最新のコンテンツはインデックスページへ。過去に書かれた記事はアーカイブのページへ。

2020年1月: 月別アーカイブ

ショップ