Books: 2002年5月アーカイブ

May 29, 2002

「ワンダフル・ライフ~バージェス頁岩と生物進化の物語」

●グールドっていったら、音楽ファン的にはもちろんグレン・グールドなんだけど、世間一般的には進化生物学者のスティーヴン・ジェイ・グールドなんだろうな。新聞等での訃報の扱いもかなり大きかった。ワタシはかろうじて「ワンダフル・ライフ~バージェス頁岩と生物進化の物語」だけは読んでいる。よく比喩的に「カンブリア紀の爆発(的進化)」って表現が使われるけど、その証拠となる化石が発見されたのがバージェス頁岩。ダーウィン的進化論を(一部)覆すこのバージェス頁岩を巡る発見のドラマを、科学者の目でわかりやすく節度を保って書いてくれたノンフィクションで、目からぼろぼろ鱗を落としてくれる。
●進化の過程にあった現存しない種っていうのが、実に奇妙奇天烈なんだよな。学術的立場からの驚きだけではなく、化石から復元されたその姿が感覚的にも奇異で地球上の生物とは思えないっていうところがワクワクさせてくれる。ふと思い出したんだけど、昔ウチの婆さんはコドモ向けの恐竜の本を見せても「これはテレビに出てくる怪獣を描いたもので、こんなものがこの世にいたはずはない」と頑なに恐竜の存在を否定していた。円谷プロの創造物だと信じていたようである。(05/29)

May 28, 2002

「人間たちの絆」スチュアート・カミンスキー

●スチュアート・カミンスキーによる刑事エイブ・リーバーマン・シリーズの第4作「人間たちの絆」(扶桑社ミステリー)は、これまでの第3作と同様、きわめて質の高い警察小説の傑作である。といっても、このシリーズ、世間的には全然ヒットしていないようで、うっかりすると新刊でも見落としてしまいそうだ。新作が出るたびに前作との間隔が開いているような気がして、次がちゃんと翻訳されるのか心配になってしまう。
●話は毎回同じようなものである。シカゴのユダヤ人老刑事リーバーマンが相棒のハンラハンとともに事件を捜査する。その合間にリーバーマンの周囲の人々についての、現代アメリカの都市部の世相を反映したいくつかの人間ドラマが描かれる。最後には事件は一応解決されるんだけど、苦い味わいが残る。すっかりパターン化しているが、このシミジミ感がよろしいので、ぜひこれからもマンネリであってほしい。
●このシリーズの不幸なところは、作品中の時系列を無視していきなり第3作「冬の裁き」から翻訳されてしまったこと。なぜそんなことになったかといえば、この作品だけがいわゆる「ミステリーらしい」趣向(まあ、トリックっすね)を持っているからだと確信しているんだが、本来そういうシリーズではまったくない。これから読む方は第1作「愚者たちの街」から読むべし。つうか、早くしないと品切になっちゃうかも。(05/28)

May 7, 2002

「リヴァプールより悪意をこめて」トニー・クロスビー

「リヴァプールより悪意をこめて」(トニー・クロスビー著/双葉社)を読んだ。トニー・クロスビーってのが誰かっていうと、よくフジテレビの深夜のサッカー番組なんかでジローラモさんと絡んでいるリヴァプール・サポーターのガイジンである。あの人、本職はスタイリストなんすね。で、そのトニー・クロスビーの本、タイトルも装幀も気が利いているが、中身は一言でいうと「元悪ガキだったオヤジのバカ話」。これが実におもしろい。
●ガイジンから見た日本と英国の違いみたいな話もあって、それはそれでおもしろいんだが(イギリスの庶民は風呂なんかに関心なくて、シャワーも浴びないとか、リヴァプールといえば泥棒の街だとか)、中心になるのはフットボール。英国フットボール文化の奥深さを知らせてくれる……ってのは、どういうことかというと、日本のように作られたスタイルじゃなく、みんな自然体でサッカーに向き合っているってこと。自然体だとどうなるか。つまり、サポーターたちはフツーに行儀が悪くて、フツーに悪たれで、フツーにバカ(笑)。とにかく日本のサポーターと違って底意地が悪い。サポーターズ・ソングにその違いは顕著で、いくつも紹介されているんだけど、要は相手チーム(または審判)をバカにしたり、からかったり、聞きたくないことを聞かせるといったものが多い(醜聞は格好の材料となる)。悪意のこもった機知が働いているんすね(そして下品)。こりゃ到底、日本はかなわない。
●一つだけ紹介。マンチェスター・ユナイテッドのチャント。United, United, Rah, Rah, Rah. City, City, Ha, Ha, Ha. Leeds, Leeds, Baa, Baa, Baa. Scousers, Scousers, Lock your car. これだけじゃワタシらには意味はわからない。込められた意味はこう。「ユナイテッド、イェー!、(マンチェスター・)シティは笑いもの、リーズはメエ、メエ、メエ(=ヨークシャー州の山の中だから、羊とやってんだろ、お前らってニュアンス)、リヴァプール(Scousers)、クルマにカギをかけろ(リヴァプールのヤツらはみんな泥棒だから)」。ったく、しょうがないよね(笑)。(05/07)

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