Books: 2009年2月アーカイブ

February 25, 2009

まだまだ「宇宙創成」

「宇宙創成」●まだ読んでる、サイモン・シンのノンフィクション「宇宙創成」(新潮文庫)。一気読みではもったいないので。
●原子核物理学と天文学を橋渡ししたユダヤ系物理学者フリッツ・ハウターマンスが、反ユダヤ主義的な発言に対してやり返した一言。

「きみたちの先祖がまだ森の中で暮らしていたときに、僕の先祖はすでに小切手を偽造していたんだぜ!」

 いいっすね。ハウターマンスは太陽の中心部での核融合(水素からヘリウムへ)の理論を作った人で、ソ連の秘密警察とナチスのゲシュタポの両方からスパイ容疑をかけられ苛酷な尋問を受けたという珍しい経歴を持っている。
●で、ハウターマンスのジョークに笑った後、たまたまWOWOWで放映された映画「ヒトラーの贋札」を見たら、収容所のユダヤ人たちがポンド紙幣を偽造していた(笑)。恐るべきシンクロニシティ。
●「宇宙創成」は下巻に入ると時代が現代になるから、人間味のあふれるエピソードが増えてきて、ますますおもしろい。ビッグバン・モデルに浮き足立ったカトリック教会(「創世記」の科学的解釈だ!)、徹底的にビッグバンを否定した定常宇宙論のフレッド・ホイル(子供の頃にこの人の書いたSF小説を読んだことを思い出した)の人物像など、とても興味深い。

February 16, 2009

「宇宙創成」(サイモン・シン著)

「宇宙創成」●文庫になったサイモン・シンの科学ノンフィクション「宇宙創成」(新潮文庫)を読書中。上巻を終えてそろそろ下巻なんどけどこれはヤバい。ページを読み進めるのがもったいない。
●同じサイモン・シンの「フェルマーの最終定理」や「暗号解読」も最強に強まった名著だったんだが、今回は内容が宇宙論(単行本では「ビッグバン宇宙論」という書名だった)。前著に比べると、「聞いたことのある話」が多くなるんだけど、にもかかわらず猛烈におもしろい。最終的にはビッグバン宇宙論の話になるはずなんだろうけど、まず古代ギリシャの話からはじめちゃう。彼らの時代の観察力で、どうやって地球の大きさを正しい方法論で測定したのかっていうことからスタートする。
●スゴいんすよ、古代ギリシャ人の科学は。太陽が地球を回ってるんじゃなくて、「地球が太陽を回っている」という真理にたどり着いちゃう人すらいる。でもそんなのが受け入られるはずはなくて、それから千五百年以上も経ってようやくコペルニクスが登場し、地球が太陽を回っているという説を教会を恐れながら発表する。でもこれもほぼ無視され、その後ケプラーやガリレオが「地球が太陽を回っている」ことをいかに観測と理論によって実証したかといったことを、これ以上はないというくらいわかりやすく説明する。
●で、サイモン・シンが非凡なのは、最初に「地球の大きさをどう測るか」とか「太陽が地球を回ってるんじゃなくて、地球が太陽を回っていることをどうやって証明するか」といった、ワタシらの直感や常識の範疇で理解可能な話題で読者に十分準備させておいて、上巻の半ばにはもうアインシュタインの特殊相対性理論を同じくらい鮮やかに説明しちゃう。「光の速度は一定」というところからスタートして、「静止している人と運動している人では時間の流れ方が違う」という結論を指し示し、さらに一般相対性理論における重力理論の正しさをどうやって観測によって証明するかを綴る。まるで古代ギリシャにおける「地球のサイズの測り方」の話をするように。
●あ、でも、わかりやすさじゃないか、本当にスゴいのは。楽しさだな。自然科学そのもののワクワクするような楽しさ、それに魅了された人々を、生き生きと描く。たまに挿まれるユーモラスなエピソードも大変に吉。あと、たぶん、読書の喜びを優先するために「不要な話をしない」という割り切り方も優れているんだと思う。

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