Books: 2010年4月アーカイブ

April 14, 2010

「ラ・フォル・ジュルネ」公式ガイドブック出来&「クラシックの音楽祭がなぜ100万人を集めたのか」

ラ・フォル・ジュルネ「熱狂の日」音楽祭2010公式ガイドブックが発売中。今年のテーマに合わせて「ショパン」についての特集記事のほか、出演アーティストたちのインタビュー、プログラム詳報、演奏曲目紹介など盛りだくさんの内容。「ラ・フォル・ジュルネ」はあれだけの公演数があるので、直前までなかなか公演内容が確定しなかったりする。どこまで最新情報を紙のガイドブックに反映させるかということで、毎年主催者側と編集側(ひいてはライター側)の間でギリギリの調整が続く。はらはらするような綱渡りもあるが、出来上がったものを見ると「よくここまで間に合ったなあ」と驚かされるくらいの最新情報が載っている。驚異、デジタル時代ならではの。
●もう一冊「ラ・フォル・ジュルネ」関連本を。こちらは読み物だ。「クラシックの音楽祭がなぜ100万人を集めたのか~ラ・フォル・ジュルネの奇跡」(片桐卓也著/ぴあ)。この本はいくつか読み方がある。タイトルが示唆するようにビジネス書的に「こんな音楽祭をどうやって実現したのか」と読むこともできるし、ファンが音楽祭をより身近に感じるために読むこともできるだろう。ワタシは音楽祭という「仕事」を形にするまでの難しさの部分がおもしろいと思った。こういった超大規模な音楽祭をゼロから立ち上げて形にするまでどんな困難があるか、それは容易に想像できるけど、具体的な生々しいエピソードにはやはり迫力がある。
●会社があって組織があって株主がいて、音楽を好きな人も関心を持たない人もいるし、新しいことをやりたい人もなるべくやりたくない人もいる。社会とはそういうもの。そういう大勢の人たちがみんな同じ方向に動かなければ物事は動かない。立派な「お題目」を唱えるだけじゃなく、どうやったら現実に人を動かすことができるのか、ということなんすけどね。たとえばルネ・マルタンの回想。音楽祭の実行委員会を作って、都知事に名誉委員長になってもらい、組織もできて、東京国際フォーラムが主催をすることになった。ところが予算の問題で企画自体がダメになりそうなことがあったという。梶本社長が電話をかけてきて「すぐに日本に来てくれ!」というので、ルネ・マルタンは急いで来日して東京国際フォーラムの会議に出席する。株主をぜんぶ集めた会議にルネ・マルタン本人が出て、自分のプログラムを熱心に説明する。計画が暗礁に乗り上げるかどうかの瀬戸際で救われるという話がある。その一方で、どうやって協賛金を集めるかとか、ビジネスとして無用なリスクを冒さないようにしなきゃいけないとか、いろんな現実的で冷静な判断も積み重ねられるわけだ。「熱狂」というのはリアリズムが支えているんだという部分があちこちであらわになっていて、そこがいい。

April 6, 2010

「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」(ポール・オースター編)

●読んでしまった、「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」。少し前に「内田樹の研究室」で日本版「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」を作ろうっていう記事があったじゃないっすか。その影響で。
●これはポール・オースターが書いた小説ではなくて、彼がラジオ番組の中でリスナーから募った「物語」を集めている。条件としては「実話であること」「短いこと」。それ以外に制限はなく、どんな内容、スタイルでもOK。悲劇的な話でも喜劇的な話でもよくて、紙に書き付けておきたくなる体験、作り話のように聞こえる実話が求められた。
●だれかにぜひ話しておきたい物語って、みんな一つや二つは持ってると思うんすよ、愉快なものであれ、悲しいものであれ。そういうのって、個人にとっては大切な物語なんだけど、他人にとってはどうでもいい話だと思いがちじゃないっすか。事実、ここに集まった一つ一つの物語を見ても、かなりばらつきがあって、なかにはそれほど珍しくもなければ興味深くもない話もある。ところがこれらが集合体になると予想外の迫力を生み出してくる。個人の想いの強さがそうさせるのかなあ。「誰かがこの本を最初から最後まで読んで、一度も涙を流さず一度も声を上げて笑わないという事態は想像しがたい」とオースターが序文に書いているのはその通りだろう。
●家族、動物、モノ、戦争、愛、死、夢……いろんな話題があって、ワタシが1巻と2巻を読んだ中で特別に印象に残ったのは、1巻の「クリスマスにあるはずのないプレゼントが家族みんなに贈られる話」と、2巻の「定年前にリタイアして文化的生活を送るホームレスになった女性」の話。当分忘れられそうにない。

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