Books: 2010年6月アーカイブ

June 18, 2010

「ワールドカップは誰のものか―FIFAの戦略と政略」 (後藤健生著)

ワールドカップは誰のものか●ワールドカップの合間に「ワールドカップは誰のものか―FIFAの戦略と政略」 (後藤健生著/文春新書)。これはまさに今読んでおくべき良書。ワールドカップがなぜ南アフリカで開かれることになったのか、またこれまでの大会開催を巡るFIFAの権力闘争や政治権力の介入について、すっきりと見通しよく解説してくれる。特に南アフリカのスポーツ史、黒人サッカー史の部分はまるで知らないことばかりで、今大会を見る目が変わる。知ってたこと、曖昧にしか知らなかったこと、ぜんぜん知らなかったこと、どれを読んでもおもしろい、後藤健生氏の書くものはみんなそうなんだけど。読みやすい文章も吉。一息で読める。
●かつて南アのサッカー界では白人の観客のための白人選手によるリーグと、アフリカ人のリーグが別々に運営されてたんだけど、そこにビジネスの論理が入ってきて、大企業はより投資効果の見込めるアフリカ人のリーグに投資するようになったとか、80年代にはアフリカ人が白人のクラブを買収したなんていうんだから、アパルトヘイトなんていうのは興行的にもうまくいきようがなかったというのがよくわかる。
●あと、ワタシはよくわかってなかったんだけど、「アフリカーンス語」はアフリカにやってきたオランダ人たちの言語がアフリカ化したものということだったんすね。南アにおけるオランダ系とイギリス系の違いであるとか、そこからどうフットボールが発展してきたのかなど、非常に興味深い。そしてそんな歴史を経て、今そこでワールドカップが開かれているという現実。南ア代表にも(少しだけ)共感度が増す。もう史上初の開催国グループリーグ敗退が濃厚になってしまってはいるが。

June 4, 2010

とりぱん 9 (とりのなん子)

●鳩山さん、さぞ無念だったと思うんですよ。あんなはずではなかった。最後の最後にあれでしょ。演説の肝心なところでヒヨドリのことをムクドリと言ってしまうなんて! すぐに気がついて訂正できたのが救い。「とりぱん」でいつもレギュラー出演してるのが、ヒヨドリ。クチバシが黄色くて先っぽが黒くなってるのがムクドリ。モーツァルトが飼ってたのもムクドリ。
PIANO STYLE●で、「とりぱん」待望の最新刊だ。今回も快調。こういう身辺雑記系のコミックって、巻を重ねるごとにネタが枯渇しないのかとか心配するんだけど、「とりぱん」に関してはむしろさらに強まっておもしろくなってる気がする。ギャグ以外の部分で、肩の力が抜けてきてるのがいいのかも。
●描き下ろしの「ジョンのこと」がすばらしすぎる。これまでもたびたび登場していたイトコの飼い犬ジョンの話。かわいいっすよね、ジョンの絵柄。てか、うまい、絵が。
●「寝ゲロ」ネタも笑った。
●季節のズレがあって、この巻は冬鳥がたくさん出てくるんすよね。ウチの近所の公園の池は、もうとっくにオナガカモもキンクロハジロもいなくなって、渡らないカルガモばかりが大きな顔をしている。冬の賑やかさが少し懐かしくなってみたり。でも季節的には初夏最高。

June 3, 2010

『「ジャパン」はなぜ負けるのか ~ 経済学が解明するサッカーの不条理』(サイモン・クーパー、ステファン・シマンスキー著)

PIANO STYLE『「ジャパン」はなぜ負けるのか ~ 経済学が解明するサッカーの不条理』(サイモン・クーパー、ステファン・シマンスキー著/NHK出版)読了。おかしな書名が付いているので危うく見逃すところだった(著者にサイモン・クーパーの名が入っていなかったらきっとスルー)。この本は「書名」を無視して「副題」のほうに注目すべきなんである。ニッポン代表のことは一章が割かれているだけで、全体としては「サッカー」と「統計」について述べている。そう、「経済学」というより正しくは「統計」。そして、サッカーと統計について興味がある人間なら、この本を狂喜して読むことになる。ずっと前から気になっていた、いろいろな疑問の答えがズバリ書いてあるんだから!
●以前この欄で、野球界に統計学的な手法を持ち込んだ男について書かれた「マネーボール」をご紹介した。あれ、最高だったでしょ。で、この「ジャパンはなぜ負けるのか」は明らかに「マネーボール」に触発されて書かれた本なんである。「マネーボール」のサッカー版が書けないか。そう著者は考えたはず。
●ただ、「マネーボール」は統計的手法でメジャーリーグを席巻した球団についての実話だったのに対し、「ジャパンはなぜ負けるのか」のほうは、そのような成功譚がいまだサッカー界では少なくとも顕わになっていないためか、著者による分析が主体となっている。もちろん、読み物としてすらすら楽しく読めるように書いてある。数式なんて出てこない。だから読んで楽しめばいいわけだ。でもあなたやワタシはただ読むだけでは満足しないだろう。答えだけでも書き留めておきたい。っすよね? だから、この本に書かれてあるもっとも重要な統計的事実を以下にいくつか拾ってみよう。

i) 1872年から2001年までの189ヶ国、22,130試合の代表チームの結果を集めた数学者ラッセル・ジェラードのデータベースを重回帰分析した結果から。

ホームチームは一試合あたり2/3ゴールの優位を持つ。
国際試合の経験が対戦相手の2倍あると、一試合あたり0.5ゴール強の優位を持つ。
国の人口が対戦相手の2倍あると、一試合あたり0.1ゴールの優位を持つ。
人口、所得、経験の3要素で、その国の得失点差の1/4強の説明力を持つ。

ii) 著者シマンスキーが1974~1994までのイングランドのクラブの監督数百人を分析したところ、選手時代の成績と監督としての成績の間には相関関係がなかった。

iii) 著者が1978~1997年のイングランドの40クラブについて分析した結果から。

移籍金に費やした金額はリーグ順位とわずか16%しか相関関係がない(移籍市場は非効率的)。
年俸総額はリーグ順位と92%もの相関関係を持つ(年俸市場は超効率的)。

iv) イングランドのサポーターについて
サッカーファンの内、1シーズンに1試合でもスタジアムで試合を見る人は約5%。
観客の「年間死亡率」(あるシーズンにスタジアムで試合を見た人の内、翌シーズンにスタジアムに来なかった人)は50%。
(つまり、イングランドのサポーターが熱心で忠実というのは、メディアから生まれた幻想だと言っている)

●これらは本書で述べられている興味深い事実のほんの一部。そしてこのなかでもっとも重要なのは、国際試合で「ホームチームは一試合あたり2/3ゴールの優位を持つ」だろう。2/3ゴールというのはムチャクチャな優位だ。キックオフ時点でホームチームは0.67点ほどリードしているわけだ。これでアウェイが勝つのは至難。ワールドカップ開催国が今までに一度も決勝トーナメントに進めなかったことがないというのも道理か。
●ただ、これは国際試合の統計だ。ワタシの理解では、通常のリーグ戦ではこれほど極端なホームアドバンテージはない。少なくともJリーグにはない。ワタシは自分で軽く調べたことがあるのだが、Jリーグではホームのチームが1試合あたり0.25~0.3ゴール程度の優位しか持っていなかった……と思う。元データが手許に見つからずうろ覚えではあるんだけど。

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