Books: 2015年3月アーカイブ

March 27, 2015

「ピアニストはおもしろい」(仲道郁代著/春秋社)

「ピアニストはおもしろい」(仲道郁代著/春秋社)●一昨日にも少し触れた仲道郁代さんの最新刊、「ピアニストはおもしろい」(春秋社)。おもしろくて、しかも読みやすい。300ページ強のボリュームがあって、ピアニストになるまでのこと、子育てのこと、楽器のこと、コンサートのこと等々、内容は多彩。いちばんおもしろかったのは子育ての章、特にお子さんが生まれてまもない頃の話で、「娘の生後ほぼ5カ月から公演にはすべて同行するという子連れピアニスト生活が始まった」というくだり。もともと「演奏活動を始めてこの27年間、一週間続けて家にいたことはほとんどない」という演奏家生活のなかで、自分の荷物に加えて、赤ん坊用の日数分のおむつ、離乳食、おもちゃ等々大量の荷物をスーツケースに入れて移動する様子だとか、自分の時間というものがゼロになるから隙間時間が10分でもあったらそこを「休む」のではなく「さらう」(練習)にあてるとか、すさまじい多忙ぶり。でも、持ち時間の隅から隅までが「仕事」と「子育て」だけで埋めつくされる感というのは、一般の働くお母さんから見ても共感を呼ぶ話だと思う。前に見たアルゲリッチのドキュメンタリー映画「アルゲリッチ 私こそ、音楽」でも、娘さんが赤ん坊の頃グランドピアノの下で母親のピアノを子守歌がわりに聞きながら育ったみたいな話があったっけ。
●以前、パーヴォ・ヤルヴィが東響を振りに来たとき、9カ月の赤ちゃんがいっしょで、そのときソリストを務めたベレゾフスキーもやっぱり赤ちゃん連れだったから、楽屋が託児所みたいになってたっていう話のほのぼの感も吉。
●本番での緊張克服の話も印象的だった。これだけたくさんの本番の舞台に立っている人でも、舞台であがるのかと思うと勇気づけられる(?)。あと、まさに一昨日、OEKとの共演を聴いたばかりの曲なんだけど、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番が協奏曲のなかで嫌な曲として挙げられていたのがおかしかった。

 エトヴィン・フィッシャーかどなたか大家がこの曲については、「最初のソロを弾いた後、オーケストラの演奏の間ずーっと、自分がいかに下手に弾いたかを反芻させられるからとてもつらい」と、どこかに書いておられた。(同感だ!)

●それだけあのピアノだけで弾く冒頭のニュアンスが難しいということなのか。

March 17, 2015

「クラシック音楽のトリセツ」(飯尾洋一著/SB新書)

クラシック音楽のトリセツ●本日発売の拙著新刊をご案内します。ソフトバンククリエイティブのSB新書より、「クラシック音楽のトリセツ」が刊行されました。クラシック音楽を聴きたい、コンサートに行きたい、でもなんだか約束事やら暗黙の了解がたくさんありそうで、どうもハードルが高いなあ……と感じている人のために「トリセツ」があったらいいんじゃないか、という発想から出発した入門書です。なにかひとつ未知の新しい楽しみを見つけてその世界に浸ろうと思ったら、経験によって少しずつその世界の常識やルールとされるものを会得していくのが王道なのでしょうが、そういうプロセスを省略して近道をするための実用的でなおかつ「読める」ガイドブックを書こうと考えました。なので、すでに熱心に聴いていらっしゃる人にとっては、知っている事柄ばかりでしょうし、「それは違うんじゃないかな」と思うようなこともあるかもしれません。本当に入門書なので。
●本の後半1/3には、東急沿線スタイルマガジンSALUSで連載していた「ちょっとニュースなクラシック」(2回の連載の最初のほう)という名曲コラムを再録しています。フリーペーパーに書いていた読み物なので内容は完全に一般向けなのですが、こちらはすでにクラシック音楽になじんでいる方も読むことのできるコラムだと思います。当ブログをご覧いただいているような方はきっと後ろの1/3を楽しめるのではないかという気がするのですが、1/3のために一冊買ってほしいとお願いするのは厚かましい……といいつつ宣伝。
●単著としてはこれで4冊目になります。今、書籍って一日に平均230冊くらいのペースで発売されているんだそうです。一年に8万点強。そんななかで本を出しても、人の目に触れる機会というのはなかなかありませんし、ましてや「本を売る」というのは並大抵のことではありません。それなのに、なぜみんな(著者も編集者も出版社も)大変な思いをしながら本を作るのか。不思議ですよね。でもそれを不思議と思わない人だけが、出版の世界に生きているのでしょう。

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