Books: 2015年11月アーカイブ

November 11, 2015

よく似た話

「街角の書店 (18の奇妙な物語)」(中村融編/創元推理文庫)はいわゆる「奇妙な味わい」の短編を集めたオリジナル・アンソロジーだが、このなかのカート・クラーク(ドナルド・E・ウェストレイクの別名)作「ナックルズ」を読んだときは思わずのけぞった。これって、以前当欄でも触れたアヴラム・デイヴィッドスンの短篇集「どんがらがん」(殊能将之編/河出文庫)収載の「グーバーども」と同じ話じゃないの。同じ話というのはいいすぎかもしれないが、アイディアはいっしょ(オチにかかわるので具体的には書けないが)。さて、これはどっちが先に書かれたのだろう?
●カート・クラーク「ナックルズ」の初出は1964年1月号のF&SF誌。アヴラム・デイヴィッドスン「グーバーども」は1965年11月、Swank誌。うーむ、かなり近い。これだけ見ると、デイヴィッドスンがカート・クラークのアイディアを拝借した可能性を排除できない。もっとも同工異曲といっても、仕上がりにはずいぶん違いがあって、デイヴィッドスンのほうがはるかに洗練されていて、鮮やか。オリジナリティをどっちに感じるかといえば、むしろ後発のデイヴィッドスンのほう。才気を感じる。
●アイディアを思いつくより、それを形にして、人を唸らせるような作品に仕上げることのほうがずっと難しいのだと改めて思う。

November 9, 2015

「骨と翅」(サイモン・ベケット著/ヴィレッジブックス)

●いつも外出するときは電車移動用になにか一冊持ち歩くんだけど、その日はどの本をカバンに入れればいいのかすぐにわからなかった。えーと、どうしよう、別にいらないかな? いや、でも待ち時間とかできちゃうかもしれないし、うーん、もう時間ないからなんでもいいやっ!と思ってその辺に積みあがってる文庫本から一冊抜き出したのが、サイモン・ベケットのミステリー「法人類学者デイヴィッド・ハンター」。で、そんな本に限って、ハマるんすよね。おもしろくて止まらなくなってしまい、シリーズ3作目の「骨と翅」まで、読み切った。続きはまだ出ないの?
●「法科学ミステリー」と謳われてて、主人公の法人類学者が科学捜査をするんだけど、雰囲気としてはテレビドラマのCSIシリーズ ラスヴェガス篇みたいな感じ。つまり、ほどよくサスペンスや謎があって、でもそんなにピリピリと緻密じゃなくて、いい意味でヌルく読めるのが吉。一見すると、イヤな感じの話なんすよ。だって、腐乱死体みたいなのが次々出てくるし、主人公の過去の境遇が受け入れがたい感じの設定だし、怖い犯罪が起きるし。でもガチガチじゃないテイストのおかげで救われている。人物造形も巧み。
●あと、3作に共通して「閉鎖的な集団で疎外される人物」がテーマになっていて、これが味わい深い。辺鄙な田舎での密すぎる人間関係とその怖さとか。シリアルキラーよりそっちのほうがよっぽど怖いぜ、みたいな冴えた筆。
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●遅れてお知らせ。11月1日の「日経スタイルマガジン」(日本経済新聞朝刊折込)にて、森麻季さんのインタビュー原稿を書いてます。「The Borderless Life 境界を越えて」というテーマで、各界でボーダーレスに活躍する人々に焦点を当てる特集記事でした。

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