News: 2012年6月アーカイブ

June 27, 2012

ダーウィン・チューンズ。進化する音源

●EURO2012が始まったらすっかりサッカーブログになってしまっているが(2年に一度、ワールドカップかEUROで常にそうなる)、準決勝までに中二日おやすみがある。なので、今日は非サッカーネタで。
●何日か前にAFPのニュースで「ポップソングに才能は不要?自然淘汰で進化する音源 英研究」という記事があった。この煽り気味の見出しのつけ方はまちがっていると思うのだが、紹介されている内容はおもしろい。ダーウィン・チューンズというサイトで行なわれている研究で、シンセサイザーを用いてランダムに8秒間の音源を生成させる(といってもまったくのランダムではなく一定のビートにさまざまなビープ音やノイズを載せるといった程度のものだが)。で、これをオンライン・ユーザーに5段階評価させる。そして、その評価を集めて高得点だったもの同士をつなげて新しい音源を作る。低評価だったものは捨てる。こうして何世代も「進化」させていくと、世代が進むにつれてみんなに好まれやすい音楽ができていく、という仕組み。
●ダーウィン・チューンズには実際にその音源が置いてあって、第0世代から第150世代、第250世代、第400世代……さらに第5170世代(現時点の最新)まで、たどっていけるようになっている。これ、最初と最後だけをいきなり聴いたのではつまらない。全部とまではいかなくともある程度順をたどって聴くと、音源がだんだん洗練されていく(?)のに感動する。なお、participateのページから、登録なしで誰でもすぐにこの実験(というも大げさだが)に参加できる。
●と言っても、最後の世代まで進んでも大した音源ができあがっているわけではない。むしろ音楽としてはおもしろくもなんともない。この試みの楽しいところは、ただ人に漠然とした意見を尋ねるだけで、「一切の創意を抜きで」音源を作っている点にある。そもそも多数決なのだから、当たり障りのない方向にしか音源は進化しない。尖ったもの、変則的なものは瞬時に捨てられ、フツーのものだけが生き残る。実験の主は進化発生生物学者。多数決という形の市場原理を、自然界の環境による淘汰に置き換えるとすれば、これぞまさにワタシたちの生きる自然界そのもののメカニズム。フツーが生き残り子孫を残す。ビバ普通。そして、もっとも洗練されているはずの最新世代を耳にした後で、初期世代の原初の音源を聴くと、なぜか「おお、こっちのほうがカッコいい!」と新鮮な喜びを味わえるという謎。

June 22, 2012

コンサートの事件簿、タングルウッド音楽祭アーカイブ

●EURO2012は中一日のおやすみ。選手には休息が必要。寝不足のファンにも。
SALUS 2012年07月号●昨日から配布されている「東急沿線スタイルマガジンSALUS」7月号。東急沿線やBunkamuraで配布中。拙連載は5月号から「コンサートの事件簿」の題でリスタートしている。以前は「ちょっとニュースなクラシック」の題で、毎月一曲の作品をテーマにするという形で書かせていただいていたが、この新連載では演奏会にまつわるあれこれを取り上げている。今回のお題は「くしゃみ」。オンラインでは読めないので、要物理冊子ゲット。
●前連載は結構長く続いたが、一冊にまとめるには分量が足りない。どうしたものか……。
●ボストン交響楽団のサイトでタングルウッド音楽祭75周年ということで、オーディオ・アーカイブを6/20より順次公開中。どうやら毎日一本ずつ音源がアップされていくようなのだが、公開方式が少し変わっていて、まず128kbpsのMP3で24時間限定でストリーム配信され(これは無料)、その後、320kbpsのMP3および24bit/44.1kHzのFLACでダウンロード販売される。なるほど、そんなやり方があったとは。たった今公開されているのはラインスドルフ指揮、リチャード・キャシリー題名役の「オテロ」(→と書いた直後に翌日分としてミュンシュのモーツァルト&ハチャトゥリアンが公開されていた)。
●そういえば今年はラインスドルフの生誕100周年でもある。

June 5, 2012

ユーロスペースでソクーロフ特集、EURO2012開幕近づく

ショスタコーヴィチ ヴィオラ・ソナタ●せっかくソクーロフの映画「ファウスト」試写の案内をいただいていたにもかかわらず、どうしても日が合わず見逃してしまいうなだれていたところに、ユーロスペースでソクーロフの旧ソ連時代の作品を含めたドキュメンタリー傑作選を上映するという知らせが。6月16日から渋谷のユーロスペースで以下の5本を上映。音楽ファンには気になるラインナップも。

『モーツァルト・レクイエム』(日本初公開)2004年/フランス/71分
『ビオラソナタ・ショスタコーヴィチ』1981年/ソビエト/80分 セミョーン・アラノヴィッチとの共同監督
『モスクワ・エレジー~タルコフスキーに捧ぐ』1986-1987年/ソビエト/88分
『マリア』1975-1988年/ソビエト/モノクロ・カラー/40分
『ソルジェニーツィンとの対話』(劇場初公開)1998年/フランス/180分(90分×2)

●ただし各日21時からのレイトショー。最近夜族を脱退してしまったワタシには遅すぎて無理そう。詳細はユーロスペースのサイトへ。
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●いよいよ4年に1度のEURO2012サッカー欧州選手権が6月8日に開幕するんである。地上波でもいくつか試合は中継されるが、いろいろとストレスの要因になるので、全試合完全生中継してくれるWOWOWで観戦することに。アナログ停波とともに自然退会していたWOWOWに再加入した。実際にはそうたくさんの試合を見れる(ら抜き)とは思えないのだが、こういうのは「どうしても見たい特定の数試合」を見れるかどうかが肝要。今ならネットで申し込めば加入料なしで来月末まで2000円で済むのでお得。
●予定としては最初から生観戦はあきらめ、翌朝早起きして結果を知らないまま録画を再生する作戦。ネットへのアクセスは慎重にせねば。

June 3, 2012

準・メルクルN響、サントリーホール「チェンバーミュージック・ガーデン」開幕

●31日(木)は準・メルクル指揮N響へ(サントリーホール)。ドビュッシーとラヴェルで組まれたプログラムが非常におもしろい。ラヴェルは「亡き王女のためのパヴァーヌ」「ラ・ヴァルス」と通常のレパートリーだが、ドビュッシーはバレエ音楽「カンマ」、サクソフォンとオーケストラのための狂詩曲、前奏曲集の管弦楽編曲版から数曲、「古代のエピグラフ」管弦楽編曲版。100%ドビュッシーによる作品が一曲もない。「カンマ」はケックランが、サクソフォン狂詩曲はロジェ=デュカスがオーケストレーションを完成した作品。前奏曲集オケ版はコリン・マシューズの編曲、「古代のエピグラフ」はアンセルメの編曲。準・メルクルによる準・ドビュッシー・プロなのか。
●作曲者の意を汲んで管弦楽用に編曲したというアンセルメ版「古代のエピグラフ」がとてもよかった。コリン・マシューズの前奏曲集よりよほど楽しい。あまり取り上げられないのが謎に思えるほど。繊細で鮮度の高い音楽が続いた後、コンサートは最後に熱気渦巻く「ラ・ヴァルス」で爆発、客席は沸いた。
●2日(土)、サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデンが開幕。ブルーローズ(小ホール)を会場に、17日まで室内楽を中心に多彩な公演が予定されている。オープニングはブラームスのトリオが3曲という構成で(トリオのトリオ)、クラリネット三重奏曲イ短調、ホルン三重奏曲変ホ長調、ピアノ三重奏曲第2番ハ長調。堤剛(チェロ)、豊嶋泰嗣(ヴァイオリン)、ラデク・バボラーク(ホルン)、須関裕子(ピアノ)、橋本杏奈(クラリネット)と重鎮から若手まで。バボラークのホルンが圧巻。どんな弱音でも安定していて、しかも音楽が生きている。技術も表現もすべてが人外の域で怪物的存在感を醸していた。
●このチェンバーミュージック・ガーデン、8日からヘンシェル・クァルテットのベートーヴェン・サイクルが開催される。5公演にわたって演奏される弦楽四重奏曲全曲。曲目はうまく分散されていて、どの日を選んでも初期・中期・後期作品を聴けるようになっている。8日の1番・11番・大フーガ・13番のセットにお得感を感じる。といいつつ別の日に行くのだが。楽しみ。

June 1, 2012

22時の聴衆

●もうすっかり記憶の彼方に去りつつある、今年のLFJ。でもいまだにその残像が消えずに目に焼きついている光景が、初日と二日目の22時台ホールAの聴衆。ガラガラの巨大ホールAで、ベレゾフスキーが弾いたチャイコフスキーとエル=バシャが弾いたプロコフィエフ、ともにピアノ協奏曲第2番。あのときの客席の熱気、「打てば響く」感は普通のコンサートとはぜんぜん違っていた。
●最初、普段となにが違うのか、よくわからなかったんだけど、後で客層が若かったってことに思い当たった。夜22時開演だと、年配層はぐっと減る。ワタシは行けなかったんだけど、同じホールAの三日目ラスト・コンサート(これは21時開演)は完売になって、公式ブログの写真だとこんな雰囲気でほとんど総立ち。前夜と前々夜の22時は人がぐっと少なかったのでこの雰囲気には至らないにしても、足を運んだ層は近かったはず。
LFJホールAの三日目ラスト・コンサート
●22時の聴衆は拍手からして違っていた。ズダッ!と音が立ち上がる。普通の演奏会だと、しばしば「もう手を叩くことに疲れたましたよ私の人生は」的にドッコイショと開始される拍手モードが、あそこではロケットスタートで起動していた。なんすかね、体のキレかな。若いと単純に立ったり座ったりする動作でも、自然とシャープで滑らかだったりするじゃないすか、オッサン特有のモッサリ感がなくて。この「え!?」っていう切れ味はまちがいなく舞台上にも伝わっていた。
●で、いいな、若いって、と思う頃には自分オッサンが世の理。心から心へ、若者からオッサンへ、オッサンからジジイへ。若さが足りないぜとか天に向かって唾すると即座に自分レッドカードのワナ。でも、22時の雰囲気が19時にももう少しあっていいんじゃないかと思うし、以前はあったと記憶する(いやそれは記憶の捏造か?)。どこかで読んだけど、日産スタジアムのピッチから最前列の席までの距離は、フクアリ(JEF千葉のフクダ電子アリーナ)のピッチから最後列までの距離より遠いっていうんすよ。それくらい日産スタジアムはピッチが遠い。でも22時には日産スタジアムだってフクアリになりうる。それを知ったのがLFJの22時。

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