January 23, 2003

「山本昌邦備忘録」

●以前にDVD「六月の勝利の歌を忘れない 日本代表、真実の30日間ドキュメント」をご紹介した。で、インパクトの強さという点で、この映像ドキュメントと遜色ないのが、新刊書籍「山本昌邦備忘録」(山本昌邦著/講談社)。山本昌邦さんってのはトルシエ・ジャパンのコーチだった人っすね。就任中はトルシエの許可なく取材を受けることが許されてなかったので、媒体への露出も少なかったが、禁を解かれて語る語る、トルシエがいかにムチャクチャな人物だったか。
●といっても趣味の悪い暴露本じゃない。ちゃんとトルシエの手腕を評価した上で、淡々と事実を語る。でもなあ! とにかく、腰を抜かすような話がいくつもあって、もう唖然愕然呆然。たとえばトルシエの最初の功績は日本ユース代表を世界大会で決勝まで進めたことなんだけど、その決勝戦当日の話。
●選手全員で30分の散歩にでかけた。ところが散歩の途中でテニスコートがあった。そこでトルシエは「小野がいないからフォーメーションはこうだ」とか「スペインはこんな攻め方をしてくる」とか言い出して、もう興奮し出したら止まらない、発作的に猛練習を始めて、炎天下で2時間。あのキツい日程で、決勝戦の当日っすよ。信じられますか。しかもトルシエの独断のために、試合前に選手は十分な食事を与えられず、中田コは「腹減って、なんか眠いっす」とかぼやいていたっていうんだもんな。そりゃ大敗するよ。
●こんな話は序の口で、トルシエ・ジャパンは監督とチーム・スタッフとで衝突を繰り返しながら、何度も空中分解寸前まで行っていたんである。一番トルシエにいじめられていたのが腹心の部下サミア・コーチ(来季からJ2湘南の監督に就任)だっていうから、別にトルシエは日本人だけにやりたい放題やっていたわけではない。これがアフリカで実績を積み、身につけたトルシエのスタイルなんだろう。あまりの理不尽さや不合理さに呆れるが、一方で不条理に打ち勝つ逞しさを要求してきた結果、日本代表が育ったという面もあるので難しい。
●DVD「六月の勝利の歌を忘れない」の最後の場面で、山本昌邦コーチが一言選手に言ってたじゃないっすか。「みんな、よく耐えたよ……」。そうか、そうだったのか。代表ファン必読なり。(01/23)

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