November 18, 2004

ゲルギエフ/ウィーン・フィル@サントリーホール

wiener philharmoniker●昨日、上野でコジャレたことをぬかすスカした色男に遊ばれて、本日は六本木でフェロモン発散しまくりの野人芸術家に翻弄され、もう頭のなかも財布のなかもスッカラカン。
●てなわけで、サントリーホールでゲルギエフ指揮ウィーン・フィル。ウィーン・フィルを聴くのは10年ぶり以上のごぶさたなのだが(やれやれ)、やっぱりすばらしい。できるものなら毎日でも聴きたいと夢想してしまう。オケ公演についていえばウィーン・フィルとベルリン・フィルはお客の状態も特別というか、気分的に「お祭り」になっているように見える。客席がすごく集中する。で、「タンホイザー」序曲を聴きながら、ワタシはつい余計なことを考え出してしまうんである。
●みんな、静かだ。ワタシも静かだ。この特別な機会を台無しにしたくない。でもさ、ニンゲンなんだから発作的になにかが起きてしまうことはあるじゃないか。たとえば、突然むせる。咳が止まらなくなる。そうなったらどうしようか。この後の「悲愴」のppppppのところで「ヒック!」とか激しくしゃっくりが勃発したら、ワタシはどうやって怒れる2000人に謝罪すればいいのか。もっと恐ろしいことだってあり得る。たとえば、昔思いついたくだらないギャグを唐突に思い出し、笑いが止まらなくなるというパターンはどうだろう。プフィツナーのヴァイオリン協奏曲で、キュッヒルが渾身のソロを熱演しているところで、「ゲバラ焼肉のタレ」とか思い出して「ぐふっ、ぐふっ、ぐぅわっはっはははは」と爆笑してしまったら、どうやってこの場を収めればいいのか。キュッヒルに釈明するのだって大変だ。まずエバラという焼肉のタレのメーカーがあることを説明し、そこでチェ・ゲバラの絵を見せて……いやいや、釈明なんて不可能だろう。ああ、もうこの緊張状態にワタシは耐えられません、神様、どうか今ここでおもしろすぎるギャグを思いついてしまいませんように!
●↑って、みんなもよく思うよね? 思う、絶対思う。
●ワタシの席はRA席、つまり客席といってもほとんどステージの上、右横上方であり、ずっとゲルギエフの顔を斜めから観察することができる場所で、なかなかよろしい。コントラバスの上くらい。ゲルギエフが鼻息ならぬ口息を漏らすのもよく聞こえる。ゲルギエフは全身からすさまじいオーラを発していて、どんどんと音楽に没入していく。オーケストラも聴衆もすべてを一人で飲み込んでしまう圧倒的なエネルギーがあって、大芸術家の趣。チャイコフスキーの「悲愴」では、終楽章で感極まって涙まで流していた。まあ、指揮台で泣くなんてフツーだったら「勘弁してくれよ」だが、今のゲルギエフなら許せる。許せるどころか伝説になる。無関係かもしれないが、北オセチアの事件のことも思い出してしまうし。昨日のラトル/ベルリン・フィルも満喫したんだけど、記憶に残るのはウィーン・フィルのほうだろうなあ。
●普段「悲愴」をCDで聞くことはまったくないんだけど(とうに食傷してるから)、優れた演奏で改めて聴くとホントにいい曲だよねえ(←当たり前だよ……)。第3楽章の爆発的な歓喜と、沈痛な終楽章のコントラストほど味わい深いものはなく、これだけでご飯三杯はいける。で、この日、奇跡だったと思うのは、終楽章が終わった後、誰一人として拍手もブラボーもせず、完全な沈黙が数十秒間、続いたこと(もちろん第3楽章の後の拍手もなかった)。たっぷり三十秒は続いたんじゃないだろうか。この沈黙だけで、演奏会の満足度は倍になる。だれだって「悲愴」終楽章の直後に拍手やブラボーなんか聞きたくない。が、どんなにみんながそう願っても2000人の内のわずか一人が狼藉をはたらけばそれまで。たった一人が全部ぶち壊せる。このハードルは高すぎるので、ワタシはすっかりあきらめているが、この日は奇跡だった。みんなで黙祷しているような気になった。
●そして、ワタシはその数十秒間にしゃっくりもくしゃみも爆笑もせずに済んだ。ああ、よかった、生き残ることができて。

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どうやら爆演だった模様。 フォルカーの部屋 >> ゲルギエフの指揮は「追い込み芸」のようなところがあるから、今回も特に「悲愴」では相当にオケが煽られて、アンサンブル的には”限界ギリギリ”というところも ...... 続きを読む

 はや気がつけば11月も終わり。例年なら「ああ†今年も終わっちゃう†」とそこはか 続きを読む

2004年ゲルギエフ/VPOの雑感です。 続きを読む

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