February 15, 2010

「ジークフリート」@新国立劇場

●ワーグナー「ニーベルングの指環」、昨年の「ラインの黄金」「ワルキューレ」に続いて、今年はまず「ジークフリート」から。休憩込み6時間。キース・ウォーナー演出、楽しすぎる。今回もポップな舞台で見どころ満載。ところどころ笑えるところが好き。
おもちゃの剣。攻撃力+1●この「指環」って家族の物語でもあり、恋する少年少女の物語でもあるんすよね。第1幕、ミーメ(ヴォルフガング・シュミット)がジークフリート坊や(クリスティアン・フランツ。胸にスーパーマンの「S」マーク付けてます)から邪険に扱われるところなんかも、この薄汚い小人が悪党だと承知してても、赤ん坊の頃から男手ひとつで育ててやったというのに、ジークフリート酷いヤツだな! と思うじゃないっすか。でもミーメってホントにしょうもないヤツなのは事実なんすよね。どうダメか。
●それはさすらい人ことヴォータン(クリスティアン・フランツ)が尋ねてきたときのクイズ大会。ヴォータンは「お前の知りたいこと3つ問え。この首を賭けてなんでも答えてやる」とミーメに挑む。ミーメはここでクイズ番組の司会者みたいに金ピカのジャケットを出してきて着用し(←可笑しすぎ)、問題を出す。ミーメは「名剣ノートゥングの鍛え方を教えてほしい」と本当に知りたいことを尋ねればいいのに、そうしない。そして代わりに「地の底を統べる者は誰か」とか、次々と自分の知ってる問いを3つ出してしまう。
●ここが本当に愚か者なんだろなあ。知りたいことを聞けばいいのに、わざわざ答えの知ってる問いを出す。それはなぜかといえば、自分は知恵者だと思っているから。「僕はこんなにモノを知ってる、賢いんだ」と自己承認欲求丸出しでアピールせずにはいられない。自分の無知を認められない。ミーメといい、アルベリヒといい、小人族はそろいもそろって愚か者で、しかも強欲である。世界をこんな小人たちの好きにさせたらろくでもないことになる。昔からいうもん、「小人閑居して不善をなす」って。えっ、それ違う?
●ノートゥングは「怖れを知らない者」しか鍛えられない。だからジークフリートが自分で鍛える。まずバラバラに細かく砕いて、ジューサーミキサーでミルクかなにかといっしょに攪拌して、ボールに入れてレンジでチン! それから火床で焼きを入れると、はい、出来上がり!
●ジークフリートについて。昨年見たお父さんのジークムントは筋肉モリモリの精悍な戦士だったけど声が出なかった。息子は声は出ていたけれども、怖れを知らない食欲のために丸々としている。きっと少年だから。少年期はジャイアンくらいで、大人になると筋骨逞しい勇者になるパターンってよくある、たぶん。
●第2幕は、着ぐるみの森の動物たち大集合でほのぼの。けだものラブ! で、森の小鳥さん(安井陽子)が宙吊りになって空を飛ぶんだけど、落ちやしないかと見ていてドキドキハラハラ。なんでこんな心配になるのかと思うほど。怖かった。ワタシは怖れを知る凡人なので。しかも最後に着ぐるみ脱いで防火服(火の山に向かうから)に着替えるんすけど、そこでまたドキリ。
●ジークフリートとファフナー(妻屋秀和)対決シーンは、さすがに大蛇を写実的に表現するのではなく、お前らショッカーの戦闘員かと思うような大蛇の手下軍団が出てきて、ジークフリートと戦う。ジークフリートはジャイアンなのでスピードはないが、戦闘員たちはみんな軽々とバク転できるくらい動きにキレがある。にもかかわらず、ジークフリートが全員を倒す。これが魔剣ノートゥングの威力なのかっ!
●この「指環」、舞台内のTVモニターをうまく活用している。2幕のジークフリートとミーメのやり取りとか。あと、映画とジグソーパズルのモチーフは今回も健在。
●第3幕、ブリュンヒルデ(イレーネ・テオリン)が帰ってくる(去年と人は代わってるけど)。「ワルキューレ」の演出で強調されていたように、ブリュンヒルデは子供なんすよね。愛馬グラーネはまた揺り木馬になってる(笑)。ベッドに横たわってて、目覚まし時計が置いてあって、本物の火が燃えている。で、ジークフリートも男の子。思春期の男子と女子の出会い、神話時代のボーイ・ミーツ・ガール。
●「ジークフリート」は音だけで聴いてると発散できる場面がなくて長さを感じるんだけど、舞台で見るとこんなに抒情的でやさしい音楽だったのかとウルっとするシーン多々あり。とりあえず世界の行方についてはおあずけにして、邪悪なヤツはみんな死ぬし、ラブストーリーだし、4作のなかで「美しい物語」はこれだけかも。でもな、これだけじゃ収まらないんだ、こっちは。もっと世界がドッカーン!と壊れたり創られたりしなきゃ。だから、来月も劇場に行かねばならぬ、神代の終焉をこの目にするために。

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第一幕のオーケストラは最悪で、頭を抱えてしまった。音楽は動かな いしコクがない。まったくワーグナーしていなかったのだ。 続きを読む

<楽劇「ニーべルングの指環」第二夜> 2010年2月14日(日)14:00/新国立劇場 指揮/ダン・エッティンガー 東京フィルハーモニー交響楽団 演出... 続きを読む

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