April 7, 2012

東京・春・音楽祭「タンホイザー」

●東京・春・音楽祭でワーグナー「タンホイザー」演奏会形式(東京文化会館)。アダム・フィッシャー指揮NHK交響楽団、ステファン・グールドの題名役他。8日(日)にもう一公演ある。
●演奏会形式ということだけど、意外とオペラ。ステージ奥に高さ2メートル強くらいの仮設ステージのようなものを置いて、歌手や合唱はそこから歌う。そしてさらにその奥にスクリーンがあって、ここに場面ごとに応じた映像や字幕が投影される。なので、オケはステージ上にいながらも、まるでピットに入っているみたいな雰囲気。映像はもっと説明的なものが付くのかと予想していたけど、静的な背景画だった。
●そんなこともあり、予想外に「タンホイザー」の物語に浸かってしまったんであるが、エリーザベトってホントに傲慢でヤな女すよね。オペラ3大ヤな女の一人。特にイヤなのは勝手に死ぬところ(笑)。いつの間にか死んでるし。そしてヴォルフラムをはじめとする騎士たちの嫌らしさ。タンホイザーはフツーのダメ男なんすよ。ヴェーヌスベルクで快楽に浸っていると「やっぱり騎士の世界がいいかなー」と思い、戻ってみると「なんだコイツら偽善者ばっか、やっぱりヴェーヌスベルク行こう~」ってなるし、場当たり的で、今がよければそれでいいというタイプ。つまりフツーの若い男そのもの。ただし、モテる。
●でもヴォルフラム他の騎士連中はモテない。ヴォルフラムなんて本来エリーザベトとお似合いのカップルのはずなのに振られちゃう。彼らは立派なお題目ばかり唱えているが、チャラい若者タンホイザーへの嫉妬と怨嗟を隠すことができない。この人たち、歌ばかりうたってるが、じゃあ騎士としていかほどのものよ。威勢いいこと言っても、ホントに剣を抜いたらずいぶんショボいんじゃないの?
●タンホイザーの悲劇はここからなんすよね。騎士どもに耳なんか貸さず好き放題やってヴェーヌスとエリーザベトの間でフラフラしてれば、そのうちどっちにも愛想をつかされて、まっとうな大人への第一歩を踏み出せただろうに、騎士たち、エリーザベト、領主らに咎められ、悔い改めて巡礼に出ることになってしまった。巡礼に出るんじゃなく、本当は世間に身を置き続けなければいけなかったのに。だから、これは社会に抑圧された若者が道を踏み外すという物語、ワタシ内分類的には。
●平日17時開演だったので、勤め人には無理な時間帯だし、一方平日昼のお客さんにとっては夜が遅くなりすぎるということもあり、さすがに客席は空いていた。オケは尻上がりに調子を上げていった。日曜はぐっと客席が熱くなるだろうから、さらに一段よくなるのでは。

このブログ記事について

ひとつ前の記事は「「百姓貴族」2巻 (荒川弘 著)」です。

次の記事は「東京・春・音楽祭~ミュージアム・コンサート寺神戸亮、インバル&都響」です。

最新のコンテンツはインデックスページへ。過去に書かれた記事はアーカイブのページへ。

ショップ