November 1, 2012

新国立競技場

アムステルダムのアレーナ新国立競技場の改築に向けてデザイン案が募集されている。現在、最終審査に向けて11点のデザインにまで絞り込まれた。で、その11点がこちらに。現在の国立競技場はワタシにとっての「聖地」ではあるが、あまりに古びてしまっているのも事実。どうせ改築するなら、群を抜いてすばらしいスタジアムになってほしい。せっかくなので一サッカー・ファンの視点で、公開されているイラストだけを見て11点についてコメントしてみた。絵しか見てないので勘違いもあるかもしれないが、とりあえず。
●まず作品番号2。コックス・アーキテクチャー。スタンドが可変式のようで、陸上競技のときはトラックをしっかりとるが、フットボールではスタンドがピッチを矩形に囲むようになっている。ありがたいことだが、その割にはゴール裏からピッチが遠い。屋根の形状を見ると雨天はドームになるのだろうか。サッカーでは閉める必要はあまりないとは思うが……。
●作品番号9。ポピュラス。「ポピュラス」という名にはグッと来るものがあるが、悪夢のようにピッチが遠い。ゴール裏はもちろんのこと、長辺部分においても陸上トラックからさらに余白が広がっている。イギリス人設計者ともあろうものがこんなものを作ろうとは。サッカーへの深い恨みと絶望を感じる。
●作品番号12。UNスタジオ/ヤマシタセッケイ。これも可変式のスタンドを用いるようで、陸上競技時にはたっぷりとトラックにスペースをとるが、フットボール使用時はピッチのそばまでスタンドが迫り出してくるようだ。悪くない。ややスタンドの傾斜が緩いだろうか? 屋根部分がどうなっているのかわかりにくいが、透明な材質による開閉式か。晴れの日に青空が見えて、日光を浴びられるのなら無問題。
●作品番号17。ザハ・ハディド・アーキテクト。こちらも陸上使用時とフットボール使用時でスタンドの位置が異なるようで、その点はうれしい。が、フットボール使用時ですらこのゴール裏の遠さは何だ? なぜそんなにゴール裏方向を膨らませるのか。空中からの外観は美しいが、鳥たちの目を喜ばせるより、フットボール・ファンの幸せを考えてほしい。
●作品番号24。タバンルオールー・アーキテクツ・コンサルタンシー。こちらもスタンド可変式で、フットボール使用時にはピッチが近くなる。「上階の安席で見るなら、ピッチの周りに陸上トラックがあろうとスタンドがあろうと距離は同じじゃないか」と思う方もいるかもしれないが、それは違う。ピッチと客席の「隙間」は試合を冷たくする(横浜国際での寒々しいワールドカップを思い出してみよう)。半透明の屋根が広く覆うので雨対策は十分だが、しかし晴れの日にはもう少し開放感が欲しくなるかも。開口部が狭すぎて、真夏のゲームでは蒸し風呂にならないだろうか。
●作品番号26。ドレル・ゴットメ・タネ。まるで森のように緑に囲まれた外観、そして内部は採光に配慮した開放感のあるデザイン。見た目には麗しいが、ピッチは気絶しそうなほど遠い。エコでロハスでオーガニックな設計者は、今すぐまともなスタジアムに足を運んでジャンクフードを貪りながらビールを飲んで、選手と選手の体がぶつかり合う姿を目に焼き付けてほしい。
●作品番号32。梓設計。陸上トラックが固定で存在するので、ピッチは遠いが、ただ可能な限り「隙間」を小さくしようとした配慮は感じられる。ただ、それでもゴール裏住人にとっては無慈悲なデザインと言わざるを得ない。太陽光をとり入れようという屋根デザインはステキだ。むしろ横浜国際をこんな風に作って欲しかった。
●作品番号33。伊東豊雄建築設計事務所。これもピッチが遠い。ゴール裏最前列とピッチとの間に、ハーフコートを敷いてミニゲームができそうなくらいだ。試合のテンションは確実に下がる。異論の出にくい保守的な案だけに脅威。
●作品番号34。SANAA事務所+日建設計。え、陸上トラックどこ?と思うようなデザインで、スタンドがピッチを矩形に囲む。ゴール裏からのピッチまでの距離を最小にしようという意図が感じられる。スタンドの傾斜もしっかりととってあるように見える。設計者のフットボール愛を感じる。おまけに外観はどこのスタジアムとも違う独特なもので、21世紀にふさわしい。
●作品番号35。gmpインターナショナル。あたかも陸上競技のためのスタジアムのようで、場内に一歩足を踏み入れたフットボールファンが踵を返したくなるほどピッチが遠い。実現すればたちどころに全フットボールファンの憎悪を集めることになるだろう。
●作品番号37。環境デザイン研究所。こちらも陸上競技とフットボールで使い分けができるタイプで、ゴール裏も含めてなるべくピッチを近くしようと配慮されている。屋根も必要最小限で青空が見えるのは悪くない。この絵柄からすると開口部の広さは天候に応じて調整できるということか。メインゲート前に大きなスペースがとってあるのは、どういった狙いだろうか。外観は先鋭ではないが、斬新さはある。8万人のお客の動線に問題がないようなら、歓迎したい案。
●というわけで、11点中、1位を選ぶなら(←だれも頼んでないよ!)作品番号34(SANAA事務所+日建設計)に一票。それ以外では、作品番号12(UNスタジオ/ヤマシタセッケイ)、作品番号37(環境デザイン研究所)を歓迎したい。
●ところで新国立競技場の略称は「新国」になるんだろうか(笑)。

なお、上記は公開された絵柄だけを見ての感想。実際にはどれもスタンドが可変式で見易さに留意されているのかもしれない。横浜国際という最悪の先例があるおかげで、もはやピッチが近いかどうかばかりが気になり、全体の外観に目を向ける余裕がなくなっているということは自覚している。


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