November 4, 2012

「愛の妙薬」@METライブビューイング

妙薬ありますMETライブビューイング2012/13シーズンが開幕。第1弾はドニゼッティの「愛の妙薬」(11/9まで)。バートレット・シャー新演出で、ネトレプコがアディーナ、ポレンザーニがネモリーノ、クヴィエチェンがベルコーレを歌う。
●もうMETライブビューイングはすっかり彼らなりの方法論を確立していて、安心して楽しめる。映像、音声、幕間の舞台裏紹介やインタビュー等々。さっきまで役になりきっていたスター歌手をつかまえて幕間にインタビューをするなんて、最初はドキッとしたけど、今はこれがないと物足りなく感じる。生のオペラともDVDとも違う、まったく新しいエンタテインメント。映画館だから、ワタシはカップホルダーにホットコーヒーやペットボトルのお茶を置いて、上映中も静かに飲む。本物のオペラと違って、いろんな面で気合いを入れなくて済む日常感がいいんすよね。
●で、「愛の妙薬」。ポレンザーニがあまりに精悍な顔つきだから、どうしたって抜け作ネモリーノには見えないんだけど(あんな意思の強そうな風貌をした男がため息ばかりついているはずがない)、でも結果的には不要なおちゃらけがなくて、出来のいいラブコメに仕上がっていた。この話はドゥルカマーラ(アンブロージョ・マエストリ)以外は、コミカルな要素をあまり強調しないほうが楽しいのかも。人物設定としてアディーナにもネモリーノにもリアリズムが感じられる。アディーナって農場主のお嬢なんすよね。だからダメ男なんて絶対許せないんだけど、この演出を見てると最初からネモリーノに惹かれているんだなというのがよく伝わってくる。まさにツンデレ。
●ポレンザーニの「人知れぬ涙」に怒涛の大ブラボー。配布されたタイムスケジュール表に「生の舞台さながらに、拍手やブラヴォーの歓声を歓迎いたします」と書いてあったが、映画館で一緒にブラボーを叫ぶ人はいなかった。ワタシらシャイだから。でも、少しは拍手も起きていたので、いずれそういう文化が定着するかもしれない。「生の舞台さながらのフライング・ブラヴォー」とかどうか。
●「愛の妙薬」って、ため息ばかりついてる他力本願なダメ少年が、外的な力を借りて自己実現するという男の子の願望充足オペラなんすよね。たとえるならネモリーノがのび太、アディーナがしずかちゃん、ベルコーレがジャイアン、ドゥルカマーラがドラえもん。

このブログ記事について

ひとつ前の記事は「リュウ・シャオチャ指揮フィルハーモニア台湾記者会見&シンポジウム」です。

次の記事は「ブロムシュテット指揮バンベルク交響楽団」です。

最新のコンテンツはインデックスページへ。過去に書かれた記事はアーカイブのページへ。

ショップ