December 11, 2012

アデス「テンペスト」@METライブビューイング

●今週のMETライブビューイングはイギリスの作曲家トーマス・アデスの「テンペスト」。ロベール・ルパージュによる新演出でMET初演。作曲者アデス自身の指揮。現代オペラではあるけれど、すでに多数の劇場で上演されている成功作「テンペスト」。ワタシは初めて。題材がみんながよく知ってる(ことになってる)シェイクスピア作品とあって、もう名作扱いなんすかね、さっそくルパージュが読み替えを施して、プロスペローの魔法の島が「ミラノ・スカラ座」ということになっている。プロスペローは実弟の策謀によりミラノ大公の座を追われたわけだけど、その漂着した孤島がスカラ座であると(笑)。今や魔法の舞台としてはオペラ劇場くらいしかふさわしい場所はないとも解することができるが、このアイディア自体はそれほど前面には出てこない。
ミランダ(テンペスト)●METはバロックオペラのパスティーシュ「エンチャンテッド・アイランド 魔法の島」でも「テンペスト」ネタをやってたけど、また今回も(まるっきりカラーは違うが)「テンペスト」。歌手陣は主役級から脇役までアデスの難曲を見事に手の内に収めていたと思う。アリエル(オードリー・ルーナ)は高音域の連続で、しかも常に高所にいてアクロバティックな姿勢もとらなきゃいけなくて、大変な役柄。主役プロスペローはキーンリーサイド。悩める等身大のプロスペロー。この話ってプロスペローから愛娘ミランダがひとりだちをするという親子の話でもあるんすよね。それで全能のプロスペローが苦悩し、彼の片手には長杖がにぎられ、舞台はオペラハウスとなると、プロスペローの姿に「リング」のヴォータンの姿が重ね合わさってくる。「全能性は苦悶と喪失を伴う」という普遍の真理の反映とも言える。
●アントーニオ役はトビー・スペンス。卑劣なヤツなんだけど、最後に敗者となる姿が味わい深い。フェルディナンド役はアレック・シュレーダー。美声。この人って、以前METのオーディションのドキュメンタリー映画で「連隊の娘」のハイC連発してた人っすよね? ついに来たかー。ナポリ王ウィリアム・バーデンの切々とした悲しみの表現もすばらしい。三者三様のテノールを楽しめるのが吉。
●ルパージュ演出は幻想味豊かで、エンタテインメント性もあって見ごたえ十分。「リング」よりずっといいのでは。METの予算が有効に活用されている感があって。好みが分かれるのは「ブリテンの再来」アデスの音楽か。まったく前衛的ではないので20世紀音楽を聴き慣れた人には穏健ではあるけど、器楽曲とは違って長いオペラのなかで、物語と寄り添った起伏を受け取れるかどうか。第1幕1場は正直辛いと思ったが、2場に入ってからは冴えてくる……。もちろんブリテンやショスタコーヴィチもNGという方なら、不協和音の連続と格闘することになるが。

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