December 20, 2012

カンブルラン&読響の「第九」

ベートーヴェン●日本人なら年末に「第九」を聴きたくなるという、この不思議な現象。数えてみたのだが、今年は12月の東京都内だけでも50公演を超える「第九」がある。おおざっぱに一回平均2000人規模と考えて(NHKホールははるかに多いが)、のべ10万人が東京で「第九」を聴く。そんな曲はほかにない。本来作品そのものには「来し方を振り返る」みたいな年の瀬成分がまったく含まれていないのに、多くの日本人は「歓喜の歌」を耳にして「ああ、今年も暮れるね、いろんなことがあったね」と感じてしまう。近所の宝くじ売り場でループで「歓喜の歌」が流れてて、前を通るたびにもう助けてって感じなのだが、いかんともしがたい。
●で、19日はシルヴァン・カンブルラン指揮読響の「第九」へ(サントリーホール)。新国立劇場合唱団、木下美穂子(S)、林美智子(Ms)、小原啓楼(T、高橋淳から変更)、与那城敬(Br)。かつて聴いたなかでもっとも軽やかな「第九」。カンブルランは「第九」から歳末性(←そんな言葉ありません)を容赦なく剥ぎ取る。思わせぶりな大仰なゼスチャーをさしはさまずに、キビキビと音楽を運ぶ。快速テンポでサクサク進行。う、美しい。「うわ、この第九、外はサクッ、中はふわっ!」みたいな(なんだそりゃ)。
●「第九」っていうより「第9番」、すなわち「第8番」の続編としての「第9番」。第8ってマシーンの音楽じゃないすか。マシーンといっても、オネゲル「パシフィック231」みたいな後のスチームパンク的な未来をイメージさせる蒸気機関じゃなくて、メルツェルのメトロノームのような漸次的で素朴な反復運動の可笑しさがテーマ。第9番でも終楽章のマーチとかコーダの始まり方には、機械が「カタン、カタン」から「カタカタカタカタ……」とリズミカルに動き出す際の様子の可笑しさがあると思う。
●重々しく振り返るより、カッコよく締める一年。さすが「第九」で、昨夜は6公演もあるうちの初日だったんだけど、明日以降カンブルランとオケの間でさらに熟成するんじゃないかという気がする。

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