March 5, 2014

METライブビューイング「ルサルカ」

●4日は東劇でMETライブビューイング「ルサルカ」。ドヴォルザークって実はオペラ作曲家なんすよね、10作以上も書いているんだから。有名な逸話に、ブラームスがドヴォルザークについて「あいつがゴミ箱に捨てたメロディだけで交響曲を一曲書ける」と言ったってのがあるけど、実際にはドヴォルザークはゴミ箱に捨てる余裕なんかなかったにちがいない。こんなにも大量の美しいメロディをオペラに注ぎ込まなきゃいけなかったんだから。
●題名役はルネ・フレミング。前日がスーパーボウルで国歌を歌った日らしく(そうなんすよ、オペラ歌手では初めてだとか)、幕間のインタビューでスーザン・グラハムからその話題を振られていた。しかし米国外でMETライブビューイングを見ている人は、スーパーボウルと言われてもなんのことだかわからないのでは。アメリカン・フットボールっていう奇抜なスポーツがあるらしいんすよ。「フットボール」なのに主に手でボールを運ぶというポストモダンすぎる競技がっ!
●で、王子役がピョートル・ベチャワ。歌も人物造形もすばらしい。魔法使いイェジババはドローラ・ザジック。最強の怪女役。指揮がヤニック・ネゼ=セガンというのも豪華。メリハリの効いたシンフォニックなドヴォルザーク。
ルサルカ●この「ルサルカ」は数ある水の精伝承のヴァリエーションのひとつであるわけだけど、改めてよくできた台本だと再認識。なにが秀逸かっていうと、ルサルカが人間になることで口がきけなくなるという設定。舞台上にプリマドンナがいるのに、歌わせないってどんなオペラ! これは現代的な見方をすれば、ルサルカを「異邦人(外国人)」として描いているともいえる。人間界にやってきた水の精は、外国に憧れてやってくる少女のようなものだが、その土地の言葉を話せず、夢として描いていた幻想は現実に打ち砕かれる……というように。なかなか現代的なテーマじゃないすか。
●本筋としては、水の精を通して見た人という存在の忌まわしさ、愛と呪いの一体性を描いたダーク・ファンタジー。外国の王女の熱い情熱によってルサルカを裏切る王子は、フォースの暗黒面に落ちたルーク・スカイウォーカーだ。音楽はドヴォルザークの交響曲とまったく同じテイストなので、親しみやすい。ここでヴェルディなら血わき肉躍るスコアが用意されるなというドラマティックな場面でも、ほんわかとひなびた田舎風味が入ってきて、悲劇的興奮だけにとどまらないのが楽しい。
●演出はオットー・シェンク。ト書き通りと思われる保守的なスタイルで、わかりやすいとも言えるし、古色蒼然としているとも言える。こうして見ると、新国立劇場で見たポール・カランの演出は創意に富んだものではあったのだなあ……。演技の面でもオペラ的オートマティズムが発動しすぎって気はするけど(2幕の森番と少年のやり取りとか、まったく間がもたない。あそこは森番か少年のどちらかになにか仕事をさせるべきでは)、音楽的には非常に充実。泣ける。ダメ男オペラの系譜にも属する傑作。

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