April 9, 2015

「サッカー データ革命 ロングボールは時代遅れか」(クリス・アンダーゼン、デイビッド・サリー著/辰巳出版)

●直感的にあるいは経験則に照らし合わせて一見正しそうに思えることであっても、統計的な裏付けがない限りは鵜呑みにできないというあなたやワタシ。であれば、サッカー界の「常識」に対しても強い猜疑心を抱いているはずである。Jリーグ初期の頃、テレビのサッカー中継で元日本代表クラスの解説者がコーナーキックの場面で言った。「チャンスですね。コーナーキックはだいたい5回に1回くらいはゴールになりますから」。以前、当ブログでも書いたように、コーナーキックは40回に1回しかゴールにならない。いったい「5回に1回」という数字はどこからでてきたのか。
「サッカー データ革命 ロングボールは時代遅れか」(クリス・アンダーゼン、デイビッド・サリー著/辰巳出版)●「サッカー データ革命 ロングボールは時代遅れか」(クリス・アンダーゼン、デイビッド・サリー著/辰巳出版)は、サッカーにまつわるいろんな疑問に対して、統計によって答えを教えてくれる。コーナーキックについていえば、プレミアリーグの01/02~10/11シーズンの統計によれば、コーナーからゴールが生まれる確率は2.2%。チャンスでもなんでもない。「そんなバカな。コーナーから得点が生まれるシーンを今までに何度も見ている!」と感覚的には反論したくなるかもしれないが、それは2.2%のゴールシーンが強く印象に残ったというだけの話であって、なにごとも起きなかった97.8%のシーンは即座に忘れ去られている。
●いくつか覚えておきたいことをメモしておこう。まず、膨大な過去データに基づくと、プレミアリーグでは、48%がホームの勝利、26%がドロー、26%がアウェイの勝利になる。もう少し大ざっぱに、半分がホームの勝利、1/4がドロー、1/4がアウェイの勝利とでも記憶しておけばいいだろうか。ちなみに、以前、ワタシがJリーグの数シーズンについて計算したときも、J1では1/4がドローだった(J2では少し高めになった)。
●平均してシュート8本につき1ゴールが生まれる。
●サッカーにおける、実力と運の要素をどう評価するかについて。一般に考えられているよりも、運が結果を大きく左右する。天体物理学者ジェラルド・スキナーらの研究によれば、ワールドカップの試合の約半数が、実力ではなく、運によって決定している。別の研究でケンブリッジ大学のデイビッド・シュピーゲルハルターによれば、プレミアリーグのシーズンの勝点の約半分は運によってもたらされている。
●欧州4大リーグ(イングランド、スペイン、イタリア、ドイツ)のトップリーグでは、どこのリーグであっても同じ程度の数のゴールが生まれている。10年間にわたって、1試合あたりのゴール数はどのリーグでも2.5~3点。それどころか1試合あたりのパスの成功回数もロングボールの本数もPKの数もシュートの数も、ほぼ同じ。「スペインは攻撃的で華麗にショートパスを回し、イタリアは守備的、イングランドはロングボールが多い」といったイメージが根強いが、数字で見ればこれがただの先入観であることがわかる。
●このあたりはまだほんの序の口。もう少し刺激的なテーマを挙げると、1点目のゴール、2点目のゴール、3点目のゴール……のそれぞれの価値を勝点に換算したら何点になるかという発想がある。つまり、ゴールの価値はどれも同じではない。結論だけをいえば2点目のゴールの価値がもっとも高い(1点目が0.8、2点目が1.0、3点目が0.5、以下ゴールの価値は急速に下がってゆく)。一方で、逆に「無失点であること」を勝点に換算すると、平均して勝点2.5の価値がある。すなわち、1点を奪うよりも、1点を与えないことのほうにはるかに大きな価値があるのがサッカーの本質。メディアに対しては「攻撃的なサッカーを志す」と公言しながらも、実際には守備組織の強化に力を入れる監督が多いのには合理的な理由があったわけだ。
●読む前は、野球について書かれた「マネー・ボール」のサッカー版みたいな本かと思ったが、読んでみると「マネー・ボール」にある読み物としてのおもしろさは希薄で、その代りに統計的に興味深いデータが期待以上に数多く紹介されていた。なかには疑問を感じるものもなくはないのだが、ポゼッションについての考え方や監督の影響力など、大いに示唆的。

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