●モウリーニョ監督に魅了される理由はふたつあると思う。ひとつはあり得ないほど好成績を収めている名監督だから。ほとんど毎年のようにタイトルを獲っており、三大リーグのすべてで優勝している。もうひとつは、傲岸だから。自らを「スペシャル・ワン」と呼び、メディアの前で歯に衣着せぬ物言いを連発する。売られたケンカは必ず買うタイプ。
●で、昨季プレミアリーグを制覇したモウリーニョ率いるチェルシーだが、今季はスタートからつまずいて、低迷している。どうしちゃったんすかね、昨季以上の戦力は保持しているはずなんだけど。
●というわけで、モウリーニョよもやの低迷記念に(?)、モウリーニョ本を二冊読んでみた。まずは、レアル・マドリッド時代のモウリーニョに対して辛辣な姿勢で書かれた「モウリーニョ vs レアル・マドリー『三年戦争』 明かされなかったロッカールームの証言」(ディエゴ・トーレス著/ソル・メディア)。ずばり、傑作。amazonでのレビューの点数がやたら低いんだが、これは反モウリーニョの悪口本でもあるからしょうがない。副題通り、ロッカールームでしかわからないはずの内幕が山ほど書かれていて、書いている記者が反モウリーニョ派の選手と通じているのか(っていうかそれはカシージャスだろうって感じだが)、勝手な想像で書いているかのどちらかだが、書き手の筆力は大したもので、権力闘争の物語としてほとんど痛快。特に興味深いと思ったのは、著者がモウリーニョの7つの原則として挙げた以下の項目。
1. ミスを犯した回数の少ないチームが勝つ。
2. 相手により多くのミスをさせるほうが有利。
3. アウェイでは相手のミスを誘う戦い方が有利。
4. ボールを持っているほうがミスを犯す可能性が高い。
5. ポゼッションを放棄するほうがミスを犯す可能性が低い。
6. ボールを持つことで恐怖も抱く。
7. ボールを持たないほうが持ったほうよりも強い。
●「ボールは友達!」の名言を残したキャプテン翼が泣いて悔しがる内容だ。これがモウリーニョ本来のスタイルかどうかはさておいて、ここに書かれている事柄、ポゼッションよりもカウンター(特にハイプレスからショートカウンター)の優位を痛感させられることはすごくよくある。もちろん対戦相手の個の能力が低い場合には、レアルだろうがどこだろうがポゼッションは自然と高くなるが、上記は同格かそれ以上の能力を持った選手を有するチームと戦うときに適用される原則という話。ここには、モウリーニョ時代のレアルはカウンターの鋭さで勝ったのだ、つまりその程度のものだよという著者のスペイン的な?価値観が反映されている。
●もう一冊は少し古いがイタリア時代のモウリーニョを追いかけた「モウリーニョの流儀」(片野道郎著/河出書房新社)。こちらはイタリアに長く滞在する著者によるもので、フェアな視点からモウリーニョの人物像とサッカーのスタイルの両方に迫っている。前著を読んだ後にこちらを手にすると、インテルミラノにやってきてまもないモウリーニョが4-3-3の攻撃的なサッカーを標榜していたことに軽い驚きを感じる(そして、そこから徐々にイタリアらしいリアリスティックなサッカーへと軌道修正していく)。この本では記者会見でのモウリーニョの発言が丹念に拾われているのだが、ケンカ腰のようであっても、中身は至極もっともなことだったりもする。特にいいなと思ったのは、記者たちから4-3-3システムが批判された際の言葉。
「あなたたちはいつもシステムについて話をしたがる。しかし、私の仕事はシステムではなくプレー原則をチームに徹底することだ。システムは変わり得るが、プレー原則は常に変わらない」
「ゾーンで守るかマンツーマンで守るか、高いブロックで守るか低いブロックで守るか、ポジションチェンジを許容するかしないか、縦に奥行きのある陣形で戦うか横幅のある陣形で戦うか、ロングパスとショートパスのどちらで攻撃を組み立てるか──。これらがプレー原則だ」
●むしろ親切といってもいいくらい。記者だって4-3-3か4-2-2か4-2-1-3かみたいなシステム論にほとんど意味がないことは承知しているんだろうけど、わかりやすいネタ、試合を見ていない人にも通じやすいネタとして、取りあげずにはいられないのかも。






●初戦でシンガポール相手にまさかの引分けに終わってしまったハリルホジッチのニッポン代表。続いてはホームでのカンボジア戦。これまでだったらどう考えても楽に勝てる相手で、むしろこの相手が2次予選でいいの?的なカードであるが、現にシンガポールに引き分けてしまっているわけで、「内容はともかく、勝点3を」と、あたかも最終予選に臨むかのような気分で試合を見た。
●ウソのような話だが、マリノスが破竹の4連勝。先週末は浦和相手に4対0の完勝。なぜかいつも浦和相手には相性が良くて、チーム力で相手が一枚も二枚も上という場合でも、あまり負ける気がしない(逆に相性が悪いチームもたくさんあるが)。ボール支配率は圧倒的に浦和が高かったと思う。前半が終わった時点で選手の走行距離が出て、両チームを通じていちばん走っていたのが中村俊輔(37歳)だと知って、くらっと来た。俊輔のアスリートとしてのピークははるか昔のことだと思うが、カッコよさのピークは今かもしれない。というか、かつてはカッコよくなかった。芸術的なフリーキックも決めた。ボールの軌跡が美しすぎる。