August 12, 2015

「殊能将之 読書日記 2000-2009 The Reading Diary of Mercy Snow」(講談社)

●ようやく読んでいる、「殊能将之 読書日記 2000-2009 The Reading Diary of Mercy Snow」(殊能将之著/講談社)。中身は殊能将之のMercy Snow Official Homepage(もう今はない)にあった読書日記をまとめたもので、すでにほとんどはリアルタイムで読んでいたものだが、こうして本になったものを手にすると、改めてその鋭才に驚嘆する。ミステリ作家殊能将之は2013年に急逝した。いまだにそのことを信じ切れていないのだが……。
●殊能将之、というか学生時代から彼を知る者にとってはTさんであるわけだが(ワタシの一学年上だった)、Mercy Snowでの文体や、さらに後にTwitterでの話しぶり、口ぶりは学生時代の頃のそれとほとんど変わっていない。映画とか音楽の話だとか、料理の話なんかは、当時のしゃべっている口調や表情を今でも明確に思い出すことができる。最後の長篇となった「子どもの王様」を発表する前、「次の長篇の参考資料としたいからワーグナーの『パルジファル』でおすすめのCDがあったら教えてほしい」というようなメールをTさんからもらったことがある。「すごいよ、これは。パルジファル仮面が出てくるんだぜー」というのだが、そうだなー、でも「パルジファル」って殊能将之読者のいったい何パーセントに通じるネタなんだろうかと心配になったような記憶が。出版された本では「パルジファル仮面」じゃなくて、「神聖騎士パルジファル」になってたかな、テレビ番組のヒーローとして。Tさんは博覧強記の人なので音楽についても詳しかったが、クラシックでいえばロマン派のレパートリーには一切興味を示さず、バルトークやクセナキスといった20世紀音楽の一部を好んでいたと思う。もう彼が「殊能将之」になった後だったと思うけど、なにかの機会に東京で会ったときにヤナーチェクの「グラゴル・ミサ」がカッコいいというような話をしたことがあったっけ。基本、クラシックの人ではないんだけど。
●で、この「殊能将之 読書日記」はささっと読むということがどうにもできず、まだ序盤を読んでいるにすぎないのだが、今、延々とフランスのミステリ作家ポール・アルテのあらすじを読まされていて、さすがに「もうアルテはいいんじゃないのか」という気になっている(笑)。ごめん、アルテ、一冊も読んでない。それにしてもこれは氏の恐るべきところの一例に過ぎないんだけど、ささいな用事があってフランス語の文法書と辞書を買ったというところから始まって(そのなにげなさがポーズであったとしても)、フランス語の原書でアルテの未訳長篇を次々と読破して、その梗概をウェブで公開してくれているわけだ。信じられない。その後、アルテはいくつも邦訳が出ていて、今ならこれらの多くを日本語で読めるのだろうが……。ディクスン・カーすら読んでいない自分のような者には、いくつも奇抜なあらすじを読んで「この人ってフランスの島田荘司みたいな人かな」ととりあえず思ったわけだが、どうしよう……。一冊くらいは読んでみるべき?
●Tさんが殊能将之として「ハサミ男」でデビューしたときは、心底びっくりしたっけ。書店で手に取って、献辞のところ(別の知人のペンネームが書いてある)を見て、くらっと来た。恐ろしいほどの才能を持った人だったので、学生の頃からいずれ世に名前が出るはずの人と認識していたけど、それはたぶん批評か編集か翻訳の分野だと思い込んでいたので、よもや創作、しかもミステリ畑に行くとは思いもしなかったもの。

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