January 20, 2016

METライブビューイング「ルル」

●METライブビューイング、今週の演目はベルクの「ルル」。鬼才ウィリアム・ケントリッジの演出で、題名役はこのプロダクションを最後にこの役から卒業するマルリース・ペーターセン。今シーズン最大の注目作か。
●ケントリッジ演出といえば前回のショスタコーヴィチ「鼻」で切り絵を用いたアニメーションが効いていたが、今回は墨汁と筆を用いた手描きアニメを投影して、「ルル」の暗鬱な世界を描いていた。この世界観は秀逸。陰惨で、おしゃれで、しかもコミカル。
アルバン・ベルク●「ルル」は十二音技法で書かれているといっても、音楽的にはそんなに身構えなくてもいいオペラだと思う。3幕版でもそんなに長くないし、各幕がコンパクトで案外見やすい(むしろワーグナーのほうがよっぽど身構える)。逆にしんどいところがあるとすれば、ストーリーの前史を頭に入れておかないと登場人物の関係がわかりにくいかも。浮浪児だった少女ルルは養父のような愛人のようなジゴルヒのもとにいたが、あるときシェーン博士に引き取られて育てられる。シェーン博士はルルを息子アルヴァの兄妹のように育てつつ、妖しい魅力を放つルルと関係を持つ。シェーン博士の妻が亡くなると、ルルは後妻になろうとするが、まっとうな結婚を望むシェーン博士は、ルルを老いた医事顧問官の妻にあてがう。ルルのもとにやってきた画家が彼女に魅了され……というところから、オペラは幕を開ける。
●男女を問わず、ありとあらゆる登場人物を魅了していく魔性の女ルル。あるところまでは、ルルは奔放で、人々を操っているように見える。しかし、物語上の転換点から、今度はあらゆる登場人物がルルをあたかも道具や商品のように操りだし、しまいにルルは街角に立つ娼婦にまで身を落とす……。スゴいよね、いろんな関係性が描かれているんだけど、登場人物が一人残らず暗黒面に落ちていくというラブ・ストーリー。
●これ、本来はルルの少女性みたいなところから出発する話だと思うんだけど、もうペーターセンはすっかり成熟した女性にしか見えないので、「オペラは見たままに理解する」主義で見ると、みんなを手玉に取るマインドコントロールおばさんが破滅するみたいな話にも思えてくる。あと、ルルご一行は最後には切り裂きジャックに襲われるんだけど(つまり3幕の第2場から場所をロンドンに移している)、なんでそこで切り裂きジャックなんだろ、あれ別に切り裂きジャックじゃなくてもいいわけだし、なんだか唐突だなーと思ってたら、ヴェーデキントの原作がもともと切り裂きジャック事件から着想されたものなんだとか。じゃあ、原作も読んでおくしか。

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