April 15, 2016

LFJ2016公式本「ナチュール 自然と音楽」(エマニュエル・レベル著/アルテスパブリッシング)

●毎年、ラ・フォル・ジュルネでは公式本が作られるのだが、今年はこれまでとはがらりと雰囲気を変えた一冊が登場した。エマニュエル・レベル著の「ナチュール 自然と音楽」(西久美子訳/アルテスパブリッシング)。これは日仏共通のオフィシャルブックという扱いで、ナントでも販売されている本の邦訳。新進気鋭の音楽学者による書き下ろしなのだとか。従来の公式本は日頃クラシックを聴かない人も読めるような本が企画されていたが、今回は純粋に「自然と音楽」を題材とした音楽書になっている。音楽祭のためのガイドブックにはまったく留まっていなくて、音楽祭後も読まれるべき一冊。
●前半を読んでいておもしろいと思ったところをいくつかメモ。ヴィヴァルディの「四季」について。これはすごく描写的な音楽だけど、作曲家がこの曲で描いたのは、ヴェネツィアの四季ではなく、どこにも存在しない理想化された四季という話。「ヴィヴァルディは音楽から特定の場所を示唆するような描写的要素をすべて排除している」。
●一方、ベートーヴェンの「田園」について。これはヴィヴァルディとは逆で、理想化された田園じゃなくて、本当にその辺に歩いて行けるところにある自然。その点で「過去のパストラーレとは一線を画している」。あと、「田園交響曲」はベートーヴェン以外にもたくさんの作曲家が書いているんだけど(今となっては無名の作曲家によって60作以上も書かれたとか)、そのなかで嵐のエピソードが挿入されているのはすごくまれで、ベートーヴェン以外にはシュターミツとクネヒトなんだとか。クネヒトの「自然の音楽的描写」は今回のLFJの目玉作品のひとつだと思うんだけど、これってヴィヴァルディの「四季」並みに詳しいストーリーが添えられているんすよね。ますます聴くのが楽しみになってきた。

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