July 5, 2017

ネルソン・フレイレ ピアノ・リサイタル

●すっかり老巨匠という言葉が似合うようになったネルソン・フレイレ。日本でのリサイタルは12年ぶりなんだとか。プログラムは前半と後半が相似形をなしていて、前半はバッハ~ジロティ編の前奏曲ト短調BWV535、バッハ~ブゾーニ編のコラール「主イエス・キリストよ、われ汝に呼ばわる」と「来たれ、創り主にして聖霊なる神よ」、バッハ~ヘス編の「主よ、人の望みの喜びよ」、そしてシューマンの幻想曲ハ長調。後半はヴィラ=ロボスの「ブラジル風のバッハ」第4番より前奏曲、ヴィラ=ロボスの「赤ちゃんの一族」より「色白の娘(陶器の人形)」「貧乏な娘(ぼろ切れの人形)」「小麦色の娘(張りぼての人形)」、そしてショパンのピアノ・ソナタ第3番ロ短調。前後半でバッハをヴィラ=ロボス、シューマンをショパンで対照させるという仕掛け。とてもいいプログラム。シューマンとショパンで前後半ともにクライマックスができるのも吉。各々の作品のロマン性や華やかさを滋味豊かで温かみのある音色で大きく包み込んだようなピアノを堪能。
●ヴィラ=ロボスの「赤ちゃんの一族」、ワタシは初めて聴いたんだけど、当初の予定ではドビュッシーの「子どもの領分」を演奏すると発表されていたのが急遽この曲に変更になった。ドビュッシーも楽しみだったんだけどより貴重なヴィラ=ロボスになってラッキー、くらいに考えていたんだけど、この「赤ちゃんの一族」ってもうひとつの「子どもの領分」みたいな作品だったんすね。人形を通じて描く子供の世界。趣向も曲想もドビュッシーに似ていて、こういうのは「リスペクト」って言えばいいのかな。最近、録音でヴィラ=ロボスの弦楽四重奏曲をまとめて聴く機会があったんだけど(第17番まである)、最初の第3番までくらいはドビュッシーらフランス音楽の影響が強く感じられたのを思い出した。
●アンコールも次々と。この選曲がまたすばらしい。グルック~スガンバーティ編「精霊の踊り」、グリーグ「トロルドハウゲンの婚礼の日」、ブラームスの間奏曲op118-2、ヴィラ=ロボス「子供の謝肉祭」第1番「小さなピエロの仔馬」。肩の力が抜けた上機嫌のグリーグ、陰影に富んだブラームス、どれも味わい深く、全体を通して喚起させるのは、うっすらとしたノスタルジー。

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