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July 19, 2017

スラットキン&デトロイト交響楽団のアメリカ音楽プロ

●17日は文京シビックホールでレナード・スラットキン指揮デトロイト交響楽団。デトロイト交響楽団は19年ぶりの来日なんだとか。プログラムは堂々たるオール・アメリカ音楽プロ。バーンスタインの「キャンディード」序曲、バーバーの弦楽のためのアダージョ、ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」(ピアノは小曽根真)、そしてメインにコープランドの交響曲第3番! このオーケストラ、この指揮者だからこそ聴きたいプログラムが実現。客席が盛況だったのは、筋の通ったプログラムだったからと信じたい。あと、アメリカのオーケストラは全曲をアメリカの音楽で固めたプログラムをツアーで披露できるというシンプルな事実に羨望。
●デトロイトという街の昨今の印象からするとオーケストラはどうなっているのかと心配したくなるが、現在はスラットキン音楽監督のもと快進撃中なのだとか。都合がつかず参加できなかったのだが、先日、日本オーケストラ連盟が「デトロイト交響楽団~コミュニティーとオーケストラ~ 経済が破綻した街で、全米屈指のオーケストラが成し得た奇跡の回復―悪循環をどうやって断ち切ったのかー」というトークセッションを開催していた。なるほど、このオーケストラのサウンドは輝かしい。やはりブラスセクションは強力で、爽快な鳴りっぷり。あと、弦楽器セクションの濃密でしっとりとした質感も予想以上の美しさ。インタビューでスラットキンが「管ばかりじゃなくてウチは弦もいいんだから!」みたいなことを言っていたのを思い出して納得。
●ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」、オーケストラもさすがにうまいんだけど、主役は完全に小曽根真。独自の即興をたっぷりと盛り込んだ特盛版。小曽根版「ラプソディ・イン・ブルー」はすでに何度か聴いているのでもう驚かないが、新鮮さは変わらず。カーテンコールでわざわざ自分でピアノの蓋を閉めて、オーケストラのメンバーを讃える。コンチェルトのソリストというよりは、バンドの仲間たちといった雰囲気。次に姿を見せると今度はスラットキンがピアノの蓋を開いて、アンコールを促した。曲は小曽根自身の「エイジアン・ドリーム」。指揮台に座って耳を傾けるマエストロ。スラットキンは以前より小曽根のファンで、ニューヨークのブルーノートで何度も聴いているという。
●コープランドの交響曲第3番は4楽章制の交響曲。ゆったりとした賛歌のような第1楽章、スケルツォ風の第2楽章、物思いにふけるような第3楽章から、「市民のためのファンファーレ」を用いた第4楽章へと続く。「市民のためのファンファーレ」のほうが先に書かれているので、これは自作の引用ということになるんだけど、壮麗かつ執拗なフィナーレを聴くと、むしろこちらが本体で、有名な「市民のためのファンファーレ」のほうはサブセット版なんじゃないかという錯覚を覚える。
●アンコールの一曲目は菅野よう子「花は咲く」。来日オーケストラがご当地ものを演奏してくれるというのがなんだか懐かしい感じ。でも大阪公演ではまさかの古関裕而「六甲おろし」が演奏されたそう(デトロイトにも同じく「タイガース」があるので)。続いて、マエストロの父フェリックス・スラットキンの「悪魔の夢」。これは底抜けに楽しい曲で、途中でスラットキンが客席に向いて手拍子を求めるという「ニューイヤーコンサート」ばりの演出付き。手拍子を止めるゼスチャーに即座に客席が反応するとサムアップ。ブルックナーやマーラーの「儀式化するコンサート」とはまったく別種の、痛快なコンサートがここに。